第五十三話 侵攻する
◆イリス
我々ヴァルディア帝国軍は。
ほぼ全軍で北上していた。
ノクシアを。
終わらせるために。
ついに始まる。
レオナール様による。
新たなヴァルディア。
兵士たちの熱気が凄まじい。
誰も怯えていない。
誰も迷っていない。
皆。
前だけを見ている。
その中心には。
レオナール様がいた。
堂々と。
軍の先頭へ立つ。
兵士が叫ぶ。
「記念すべきレオナール王の初陣だ!!」
「全員心してかかれ!!」
「おおおおおおおおお!!!!」
歓声が響く。
イリスも叫ぶ。
胸の奥から。
力が溢れてくる。
熱い。
全身が燃えるようだった。
これが。
レオナール様の能力。
『士気向上』
心の奥にある闘志を。
何倍にも膨れ上がらせる。
恐怖が消える。
疲労が消える。
ただ。
この人と共に戦いたい。
その感情だけが残る。
イリスは剣を強く握った。
さぁ、いくぞ。
ノクシアを終わらせる。
そのとき。
兵士が慌てて駆け込んできた。
「レオナール様!!」
「伝令です!!」
空気が変わる。
レオナール様が振り向く。
「どうした」
兵士は顔を青くして叫んだ。
「バルゼイン・ノクシア・ユートリアが侵攻開始!!」
「なに……!?」
レオナール様の顔に焦りが浮かぶ。
イリスの背筋が冷えた。
バルゼイン。
ノクシア。
ユートリア。
三方向。
そんな馬鹿な。
ありえない。
なぜ。
同時に……
◆レイナ
ユートリア軍は、ヴァルディア国境沿いへ到達していた。
その中心には。
ルーク。
そして。
無数のルーク。
分身体たちが並んでいる。
異様な光景だった。
レイヴンが笑う。
「がはは!!」
「まさかヴァルディアを攻めるとはな!!」
一方。
ドルガは険しい顔をしていた。
「大丈夫なのか?」
「今のヴァルディアは士気が異常だ」
「返り討ちに遭うぞ」
確かに。
レオナールの能力は厄介だ。
軍全体強化。
真正面からぶつかれば。
こちらも無傷では済まない。
だが、ルークは笑った。
「大丈夫ですよ」
「レオナールは北上しました」
「彼がいなければ士気は低下していきますよ」
冷静。
迷いがない。
だが。
レイナには疑問が残った。
「レオナールが戻ってくる可能性は?」
ルークは即答した。
「ありません」
「なぜ?」
「バルゼインとノクシアが止めます」
空気が止まる。
二国が?
それはあまりにも不確定な作戦ではないのか。
レイナが考え込む。
すると。
ルークが静かに言った。
「もう、伝達済みですから」
その瞬間。
背筋が凍った。
そうか。
ノクシアも。
バルゼインも。
事前に通達されていた。
ノクシアにとっては。
滅ぼされかけているヴァルディアへ。
反撃を叩き込む好機。
絶対に乗る。
バルゼインにとっても。
“大英雄レオナール”は脅威。
力を持つ前に。
叩きたい。
だから。
協力する。
レイナは思わずルークを見る。
天才エヴァルトのことで忘れていた。
この男も。
天才だった。
そのとき。
ヴァルディア兵が叫んだ。
「それ以上の侵入は侵略行為とみなすぞ!!」
武器を構える。
緊張が走る。
だが。
ルークは穏やかに答えた。
「従う者は保護します」
「拒絶する者は、私になります」
静かな声。
そして。
侵攻が始まった。




