第五十話 狂っている
◆マルクス
我々は戦闘準備に入っていた。
まもなく出てくるであろう。
ヴィクトール軍に備えて。
ほぼ全軍で迎え撃つ。
エヴァルト様も前線へ出てきている。
三日間。
ただひたすら。
敵を消耗させる。
そのために死んでいく。
それでも。
エヴァルト様を信じるしかない。
そのとき。
――ドカン。
轟音。
爆発。
衝撃が走る。
地面が揺れた。
「なぜ……?」
マルクスが顔を上げる。
王都の方向。
煙が上がっていた。
「なぜ今、王都が……!?」
まさか。
マルクスが叫ぶ。
「リゼはどこだ!!探せ!!」
だが。
それ以上の勢いで。
エヴァルトが怒鳴った。
「違う!!」
空気が凍る。
「アーデル軍に至急連絡しろ!!」
兵士が慌てて通信を飛ばす。
だが。
返答はなかった。
◆アルマ
リゼの能力によって。
アーデル軍は恐怖に飲まれた。
そこへ。
ヴィクトール様が突入し。
アーデル軍を消滅させた。
“セレニアの狂人”。
我々を恐怖のどん底へ叩き落とした曲者。
だが。
ヴィクトール様は死体を見ながら言った。
「こいつら……」
「能力を持っていないのか」
驚いていた。
能力者がいない?
では。
こいつらは技術だけで。
我々精鋭部隊を捕らえ。
拷問し。
恐怖させていたのか。
ヴィクトールが静かに言う。
「大した奴らだ」
称賛。
敵を称える。
それができるのが。
ヴィクトール様だった。
我々は。
とんでもない相手と敵対したのかもしれない。
すると、ヴィクトールがリゼを見る。
「それで」
「外の敵に対する策はあるんだろうな?」
リゼは笑った。
「はいぃ」
「我々降伏派が、現在王都を襲っていますぅ」
「降伏派が敵になりぃ」
「そこへ兵士を投入せざるを得ないぃ」
「だから外の敵はぁ」
「三日間も攻め続けることはできないぃ」
完璧な作戦だった。
これなら。
突破後も戦える。
だが。
アルマは見逃さなかった。
ヴィクトールが。
リゼと会話しながら。
小さくハンドサインを出していたことを。
“下がれ”。
そう。
伝えていた。
◆リゼ
ヴィクトール軍が少しずつ後退していく。
知ってるよぉ。
ヴィクトールぅ。
ハンドサインを出してることぐらいぃ。
あなたは最初からぁ。
私たちを殺す気でしたぁ。
私はそれを知っていてぇ。
ここに来ましたぁ。
私の目的は二つぅ。
“バルゼインの放電現象”を殺してぇ。
セレニア連合国を乗っ取ることぉ。
エヴァルトがいる限りぃ。
私は王になれないぃ。
だからぁ。
彼はここで失脚させるぅ。
そしてぇ。
ヴィクトールを殺して最高の箔をつけるぅ。
そのあとぉ。
王になってぇ。
国を売るぅ。
いい身分をもらってぇ。
余生を送るぅ。
みんな欲を持ちすぎぃ。
私みたいな貧困育ちの人間はぁ。
ほどほどが一番なんだよぉ。
さてぇ。
ヴィクトールはもう終わりかなぁ。
能力『恐怖付与』。
この能力は。
対象が持つ恐怖を増幅させ。
狂わせる。
だが。
この能力の本当に恐ろしい部分は。
もし対象が恐怖を持っていなかった場合。
能力者本人を。
恐怖の対象として認識すること。
つまり。
ヴィクトールは。
恐怖そのものが存在しない。
だから。
リゼ自身が。
恐怖の対象となる。
そして。
狂う。
……はずだった。
だが。
「……え?」
リゼの顔が引きつる。
「なんで……効かないの?」
ヴィクトールは静かに答えた。
「効いているさ」
その瞬間。
リゼの背筋が凍る。
ヴィクトールは笑った。
「私は今、とても怖いよ」
「私がね」
馬鹿な。
こいつ。
自分自身を恐れているのか!?
意味が分からない。
ありえない。
そんなことが……
リゼは叫んだ。
「この狂女がぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ヴィクトールが静かに言う。
「お前にだけは言われたくないな」
「『放電現象』」
次の瞬間。
リゼ軍は。
消えた。




