第四十七話 反撃する
◆アルマ
順調だった侵攻は、完全に変わってしまった。
恐怖。
我々は今。
それに支配されていた。
進軍速度も極端に落ちている。
参謀が重い声で言う。
「このままでは、迷宮を出る前に食料が尽きますな」
そう。
これは。
時間との戦いでもあった。
だが。
分かっていても。
足が前へ出ない。
拷問された兵士たち。
あの光景が。
脳裏に焼き付いて離れなかった。
あまりにも。
残虐すぎた。
そのとき。
突然。
ヴィクトールが後方へ歩き出した。
兵士たちがざわつく。
そして。
ヴィクトールは最後尾へ向かうと。
歩みの遅れていた兵士の首を。
何の躊躇もなく……
はねた。
「は……?」
兵士は。
自分が斬られたことすら理解していない。
数秒遅れて。
首が落ちる。
血が噴き出した。
静寂。
誰も動けない。
ヴィクトールが冷たく言い放つ。
「これより」
「歩を緩めた者は、私が即刻首をはねる」
空気が凍る。
「全員」
「最初のペースでついてこい」
これが。
“バルゼインの放電現象”。
強国バルゼインが生んだ。
絶対強者。
だが。
ヴィクトールは小さく呟いた。
「必ず殺すぞ、エヴァルト」
◆アーデル
「報告します」
兵士が静かに頭を下げる。
「敵捕縛数、二十名を超えました」
順調だった。
エヴァルトの地図のおかげで。
敵が、面白いほど釣れる。
アーデルは笑う。
「あの野郎」
「やはり天才か」
そのとき。
別の兵士が駆け込んできた。
「敵進行速度が戻りました!」
「何!?」
アーデルが目を見開く。
「どうやらヴィクトールが何かをしたようで……」
空気が変わる。
アーデルの顔が歪む。
「あの女ァ……!!!」
怒りのまま。
近くにいた捕縛兵の頭を蹴り飛ばした。
頭部が壁へ叩きつけられる。
血が飛び散った。
「舐めやがって!!」
◆アルマ
我々は。
怯えながら進んでいた。
進まなければ。
ヴィクトール様に殺される。
一体。
どちらを恐れているのか。
もう分からなかった。
そして。
曲がり角。
そこに。
“作品”が置かれていた。
五人の兵士。
その死体をバラバラにし。
別々の部位を縫い合わせ。
一人の人間が作られていた。
「おえぇぇぇ……!!」
兵士が嘔吐する。
空気が崩れる。
その瞬間。
ヴィクトールが突然後方へ飛んだ。
「な!?」
そこには。
敵兵。
短剣を持ち。
背後から襲いかかろうとしていた。
しかし。
一瞬。
銀閃が走る。
敵の首が飛ぶ。
血が舞った。
ヴィクトールは静かに言う。
「やっとこちらの番が来たな」
全員が息をのむ。
ヴィクトールが続ける。
「敵はこちらが最も警戒を緩める瞬間を狙っている」
「休憩中でもない」
「食事中でもない」
「睡眠中でもない」
そして。
死体へ目を向ける。
「拷問された味方を見た瞬間だ」
全員が凍りつく。
ヴィクトールは完全に看破していた。
「もう誰も死なせない!」
その声は。
絶対だった。
「安心しろ」
「これからは」
「襲いに来たものを全て殺す」
兵士たちの目から。
涙がこぼれる。
安堵。
救われた。
兵士たちが叫ぶ。
「ヴィクトール様!!」
アルマも叫ぶ。
参謀も。
そこには。
戦場の女神がいた。




