第四十六話 消える
◆アルマ
我々は休憩していた。
順調に進んでいる。
何より。
ヴィクトール様の存在のおかげで。
擦り減っていた精神が回復していた。
だが。
「ヴィクトール様!」
兵士が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「兵士が一名、見当たりません」
空気が変わった。
「何?」
ヴィクトールが顔をしかめる。
参謀が首をかしげた。
「道に迷われたのですかな?」
しかし。
「探す暇はない」
ヴィクトールが冷たく言い放つ。
「進むぞ」
そのまま立ち上がる。
この冷静さ。
どこにも動揺がない。
我々は再び進み始めた。
だが。
その後も。
一人。
また一人と。
兵士が消えていく。
空気が重くなる。
足音すら響かない。
「ヴィクトール様……」
アルマが不安そうに声をかける。
「すでに十名消えました」
ヴィクトールの目が細くなる。
「敵が仕掛けてきているな」
わずかに。
本当にわずかにだけ。
焦りが見えた。
初めてだった。
そのとき。
奥の通路から。
何かがふらつきながら現れた。
「……ヴィクトール……様……」
「!?」
兵士たちが息をのむ。
消えた兵士の一人だった。
だが。
その姿は。
あまりにも凄惨だった。
顔の皮は削がれ。
片目を失い。
片腕を切断され。
前歯以外の歯を全て抜かれている。
血が。
床にぽたぽたと落ちる。
「なんだ……これは……」
兵士たちが硬直する。
参謀が叫んだ。
「救護を!急げ!!」
しかし。
「そいつはもう助からない」
ヴィクトールが鋭く言い放つ。
「貴重な回復を使うな」
誰も反論できない。
ヴィクトールが暗い目を細めた。
「やってくれるな」
その後も。
進むたびに兵士が消える。
そして。
しばらくすると。
拷問された兵士が現れる。
指を失った者。
耳を削がれた者。
舌を抜かれた者。
まだ生きていることが異常だった。
誰もが、自分の後ろを気にし始めていた。
進軍速度も明らかに落ちていた。
見かねたヴィクトールが。
再び休憩を命じる。
重苦しい沈黙。
参謀が暗い顔で言った。
「異常事態ですな」
「“セレニアの狂人”と見て間違いないでしょう」
アルマが答える。
しかし。
「敵の正体などどうでもいい」
ヴィクトールが切り捨てた。
空気が張り詰める。
「それよりも問題なのは」
「我々の位置が完全に把握されていることだ」
全員の顔色が変わる。
ヴィクトールは続ける。
「しかも」
「私が罠を警戒することで、後方の警戒が薄くなる」
「そこまで利用している」
「「え?」」
アルマと参謀の声が重なった。
ヴィクトールの目が細くなる。
「この迷宮は」
「対私用に作られている」
戦慄した。
対ヴィクトール用。
人間の発想じゃない。
だが。
ヴィクトールは断言する。
「つまり」
「エヴァルトは」
「この迷宮を作る前からこうなることを読んでいた」
「我々の進むルートも」
「後方が手薄になることも」
背筋が凍る。
相手は。
ヴィクトール様とは別種の。
最強なのかもしれない。
初めて。
ヴィクトール軍は。
追い詰められていた。




