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平和国家ユートリア ―人類の終着点―  作者: Kk


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第三十八話 変える

◆ミア


あれから、シオンとは会っていない。


会えなかった。


いや。


会う勇気がなかった。


ミアはレオンと、廊下を歩く。


兵士区画。


静かな空気。


でも。


胸の奥だけが重かった。


なんで。


あんな態度を取ってしまったのか。


怖かったから?


違う。


それだけじゃない。


戦場を見た。


シオンを見た。


サモンを見た。


死体を見た。


全部。


知ってしまった。


だから。


身体が拒絶した。


でも。


シオンは。


友達だった。


五人で笑っていた。


遊んでいた。


あの時間は本物だったはずなのに。


ミアは小さく俯く。


「……ごめん」


今さら。


遅い。


シオンと仲の良かったレイナも、失踪した。


もう。


あの子にはここしか居場所がない。


それなのに。


自分たちは。


突き放した。


ミアは唇を噛む。


この一年。


ずっと後悔していた。


シオンは。


ただ上層部に言われるまま。


兵士として戦っているだけなのに。


そのときだった。


重い足音。


複数。


ミアが顔を上げる。


兵士たち。


そして。


白衣の科学者。


その中央。


上層部の男がこちらを見る。


「お前たちがレオンとミアか?」


空気が変わる。


レオンが前へ出た。


睨みつける。


「……そうですが」


男は気にしない。


静かに言った。


「お前たちは選ばれた」


ミアの背筋が冷える。


嫌な予感がした。


「これからお前たちは」


「能力者になる!」


男は興奮気味に言う。


沈黙。


ミアの目が揺れる。


「……能力者?」


レオンも眉をひそめた。


「能力って」


「生まれつき持つものじゃないんですか?」


男が笑う。


気味が悪いほど静かに。


「我々は」


「生物の根底を覆すことに成功した」


科学者たちが資料を運ぶ。


能力移植。


成功例一件。


失敗例二十七件。


ミアの身体が震える。


どうして。


そんな嫌な予感しかしないのか。


男は笑ったまま。


静かに告げた。


「これからリグナは変わる」


その目だけが。


異常に輝いていた。






◆アルド


レインが死んで、一年。


グランゼルの戦力は大幅に低下した。


武器の質。


士気。


落ちた。


だが。


上層部は焦っていない。


むしろ。


ようやく始まると思っていた。


アルドは会議室で資料を見る。


リグナへの工作は結果をもたらした。


リグナ国内疲弊。


さらに脅威であったレイナの失踪。


……。


もう、リグナがこちらへ大規模侵攻する余裕はない。


だから。


動ける。


本格的に。


アルドは静かに目を閉じる。


レイナたちが捨て駒として扱われた戦争。


あのとき。


ノクシアとグランゼルが結んだ条約は二つ。


不可侵条約。


そして。


鉱山の発掘権。


普通なら。


前者の方が重要に見える。


だが。


グランゼルは違った。


気づいていた。


後者の価値に。


後者の恐ろしさに。


巨大な地下施設。


兵士たちが慎重に運搬を行っている。


重装備。


防護服。


何重もの隔離。


その中央。


黒い鉱石。


特殊原子。


ゼロニウム。


アルドは静かにそれを見る。


この原子は、スプーン一杯分。


それだけで。


島を一つ吹き飛ばす。


あまりにも危険。


普通の国なら。


研究すらしない。


触れようともしない。


だが。


グランゼルは違う。


この国は。


人を使い捨てる前提で動いている。


何人死のうが問題ない。


兵士。


研究者。


作業員。


全部消耗品。


だから。


扱える。


アルドの横。


研究者が震えながら報告する。


「ゼロニウム、反応……」


「安定しています……」


別の男が笑う。


狂気みたいに。


「世界が変わる」


アルドは何も言わない。


ただ。


静かに思う。


もう。


誰にも止められない。


そうして。


完成しようとしていた。


最強。


--いや。


最凶の兵器が。

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