三十四話 叫ぶ
◆レイナ
部屋。
空気は重かった。
ロキが静かに話す。
「この国のルークをできるだけ多く人に戻す」
「そして、混乱を促す」
レイナは聞き入る。
「ただし、僕の能力解除には条件がある」
「視界に入った能力だけを解除できる」
「それと連発は無理」
「短時間で何度も使えない」
つまり。
一度に大量のルークを視界へ入れる必要がある。
「混乱に乗じて、逃げ回って」
「また解除する」
「それの繰り返し」
……悪くない。
それなら、ユートリアは崩れる。
でも。
レイナは静かに考える。
ルーク。
幹部。
民。
そして。
口を開いた。
「……最初は幹部が集まる場所でやろう」
ロキの目が少し細くなる。
「なぜ?」
レイナは即答した。
「ルークの能力を解除した瞬間」
「幹部たちの思考が止まる」
ロキは黙る。
レイナは続けた。
「普段のあいつらは強すぎる」
「必ず、この先弊害になる」
空気が静まる。
「最初に始末する」
レイナの目は本気だった。
ロキが小さく笑う。
「なるほどねぇ」
感心したみたいに。
でも。
その目は少し驚いていた。
この娘……
尋常じゃない。
ルークと真正面から思想をぶつけた直後。
もう。
殺す覚悟を決めている。
ロキは小さく息を吐く。
待っていて、正解だった。
「でも、エルナがいるところでは……」
ロキが言いかけた瞬間。
--ドゴン
轟音。
建物が揺れる。
爆発。
窓の外。
煙が上がっていた。
レイナとロキの目が変わる。
「……!?」
ロキが舌打ちする。
「誰だよ今のタイミングで……!」
二人はすぐ外へ飛び出した。
◆エルナ
私はもう。
こんな国にいたくない。
静かすぎる。
誰も怒らない。
誰も苦しまない。
誰も欲しがらない。
そんなもの。
生きているとは思えなかった。
だから。
壊す。
ルークには勝てない。
幹部にも勝てない。
でも。
少しでもいい。
皆に気づかせたかった。
今のお前たちは幸せじゃないって。
エルナは槍を振るう。
轟音。
地面が砕ける。
建物が吹き飛ぶ。
人々が逃げる。
なのに。
悲鳴が少ない。
そこが逆に怖かった。
エルナは叫ぶ。
「人の尊厳は!?」
「自由は!?」
「欲は!?」
「これのどこが生きてるんだよ!!」
声が響く。
住民たちがエルナを見る。
でも。
誰も怒らない。
誰も泣かない。
ただ静かに。
エルナを見ていた。
その光景が。
一番怖かった。
そこへ。
ルークたちが現れる。
無数のルーク。
静かな足音。
その中の一人が言った。
「エルナ」
「残念です」
静かな声。
感情はない。
でも。
確信だけがあった。
「これが答えですよ」
エルナの目が揺れる。
周囲を見る。
誰も共感していない。
誰も怒っていない。
誰も苦しんでいない。
ただ。
静かだった。
もう。
“進化した生物”に成り下がっていた。
エルナは悔しそうに歯を食いしばる。
そして。
走った。
ここにいたら終わる。
でも。
次の瞬間。
足の感覚が消えた。
視界が傾く。
地面へ倒れ込む。
「……え?」
動かない。
視線を落とす。
両足が。
無くなっていた。
「あああああああああ!!」
後ろから。
声。
「残念だねぇ」
エルナが振り向く。
ノルン。
静かに笑っていた。




