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平和国家ユートリア ―人類の終着点―  作者: Kk


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三十二話 進化する

◆レイナ


静かな国だった。


怒号もない。


争いもない。


人々は穏やかに歩いている。


その光景が。


レイナには逆に気持ち悪かった。


そして。


懐かしい屋敷の前へ辿り着く。


ルークの屋敷。


扉が開く。


中には。


エルナたちがいた。


エルナが目を見開く。


「……レイナ!?」


嬉しそうだった。


久しぶりに会えたことを。


本気で喜んでいる。


その横。


ロキだけが静かにレイナを見る。


「……来ちゃったか」


小さな声。


意味深だった。


他の幹部たちは違う。


ざわつく。


「噂の爆発女!!」


「随分若いのぉ」


視線が集まる。


レイナは気にしない。


その先。


ルーク。


静かに座っている。


イヤリングの赤い宝石が光る。


ルークは周囲を見る。


「席を外してください」


誰も逆らわない。


幹部たちが部屋を出ていく。


エルナだけが少し心配そうにレイナを見た。


扉が閉まる。






静寂。


レイナはルークを睨む。


「……この国、おかしい」


ルークは何も言わない。


レイナは続ける。


「誰も怒らない」


「誰も苦しまない」


「でも」


「人間じゃなくなってる」


静かな声だった。


怒鳴らない。


でも。


確信していた。


民だけじゃない。


先程の見知らぬ幹部。


ドルガ。


シェラ。


あの穏やかすぎる顔。


感情が削れている。


そうとしか思えなかった。


でも。


ルークは否定しない。


静かな目で。


ただ聞いている。


そして。


「いきなり人の国を否定するとは……」


ルークが笑う。


そして、レイナに小さく聞いた。


「ではあなたの理想とする国は?世界は?」


レイナの目が揺れる。


脳裏に浮かぶ。


シオン。


笑っていた顔。


「遊びたかっただけなのに」


あの声。


レイナは小さく呟く。


「……人が楽しく過ごせる、戦争がない国……世界」


本音だった。


ルークは静かに聞く。


「どうやって作りますか?」


レイナは言葉を探す。


そして。


絞り出す。


「互いに同盟を結ぶ」


「そして多くのルールによって制限する」


沈黙。


数秒。


静かな時間。


そして。


ルークが口を開いた。


「過去に同じようなことをした人間が山ほどいます」


「国家連合」


「法による統制」


「武力制限」


「相互監視」


「どれも失敗しました」


レイナの目が揺れる。


「……え?」


ルークは続ける。


「あなたは歴史を何も知らない」


静かな声。


でも。


少しだけ間を置いた。


「まぁ」


「その思想に辿り着くこと自体、容易ではありません」


「褒めますよ」


レイナは歯を食いしばる。


馬鹿にされている。


でも。


否定できない。


「……じゃあ」


「あなたの理想は?」


レイナは低い声で質問する。


「そもそも」


「争いがなぜ起きると思いますか?」


ルークが質問で返す。


レイナは眉をひそめる。


「それは……」


「人と人の感情のぶつかり?」


ルークは小さく頷く。


「いい線ですね」


「正解は思考です」


「……思考?」


ルークは淡々と続ける。


「生物は同族を殺す手段を考えない」


「生物は同族を殺す兵器を考えない」


「生物は同族を殺して喜ばない」


静かな声。


感情がない。


だから余計に怖い。


「つまり」


「人間は思考を得た代わりに」


「他の生物より下等になったのです」


レイナの目が揺れる。


「下等……」


「えぇ」


「思考のせいで人は欲を持つ」


「他人より優位になりたい」


「認められたい」


「もっと身近なもので言えば」


「家族・友人と安心して過ごしたい」


「美味しいものを食べたい」


「好きな人と一緒になりたい」


「このすべてが争いの火種になるのです」


レイナは言葉を失う。


否定したい。


でも。


出来ない。


ルークは続ける。


「だから思考を消します」


「そうすれば再び人は」


「他の生物と同等になるのです」


レイナが思わず叫ぶ。


「そんな……!!」


「それは人であって人じゃない!!」


でも。


ルークは変わらない。


静かな目。


「人の定義はなんですか?」


レイナが止まる。


「定義……」


「人は生物なんですよ」


「ただそれだけです」


「他の生物と違いなんてない」


ルークは窓の外を見る。


静かなユートリア。


争いのない国。


「だから」


「このズレを修正します」


レイナは小さく呟く。


「……それが」


「このユートリア?」


「そうですよ」


ルークは静かに答える。


「このユートリアは」


「私が全ての業務を行います」


「誰も何もしなくていい」


「そうして平和の中で、少しずつ」


「思考が薄れ」


「欲が消え」


「人は進化するのです」


空気が重い。


レイナは、言い返せなかった。

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