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平和国家ユートリア ―人類の終着点―  作者: Kk


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第二十九話 穏やかになる

◆バルゼイン王国


空気は最悪だった。


「ドルガとシェラが寝返っただと!?」


将軍が机を叩く。


怒号。


罵声。


誰も信じられなかった。


ドルガ。


シェラ。


二人はバルゼインの英雄だった。


最前線で国を守り続けた能力者。


民衆人気も高い。


その二人が。


ユートリア側へ行った。


ありえない。


将軍の一人が吐き捨てる。


「洗脳だ!!」


「でなければ説明がつかん!!」


別の男も怒鳴る。


「今すぐ討伐隊を出せ!!」


でも。


空気は、どこか揺れていた。


兵士たちも。


文官たちも。


理解できなかった。


なぜ。


あの二人が。






◆バルゼイン南部


中心部から離れた街。


空気が違う。


痩せた人間。


古い建物。


配給待ちの列。


バルゼインは豊かだった。


でも、それは中心部だけだ。


遠くなるほど。


扱いは悪くなる。


重税。


物資不足。


治安悪化。


それでも皆。


耐えていた。


「仕方ない」


占領区だから。


元々は敵国。


守ってもらっているだけ、ありがたい。


そう思っていた。


でも。


噂が広がる。


「ドルガ様がユートリアへ行ったらしい」


「シェラ様も……」


人々が顔を上げる。


信じられない。


あの二人は英雄だった。


国の象徴。


誰もが知る英雄。


その二人が。


ユートリアを選んだ。


老婆が小さく呟く。


「……本当に、ユートリアは違うのかねぇ」


誰も否定できなかった。






◆エルナ


戦況は一気に変わった。


ドルガとシェラの加入。


その影響は大きすぎた。


バルゼイン南部。


次々と制圧されていく。


最初から降伏する村も多々あった。


誰も略奪しない。


誰も奪わない。


ユートリア兵。


いや。


無数のルークたちが。


静かに物資を配っていた。


食料。


薬。


生活用品。


住民たちが呆然とする。


「……なんで」


「敵だっただろ……?」


ルークが静かに答える。


「ユートリアは奪いません」


「皆、平等ですから」


混乱する住民。


でも。


暴力はない。


脅しもない。


争いもない。


それだけで。


空気が変わり始めていた。






◆ドルガ


街を見る。


子供たちが食事をしている。


笑っている。


争いもない。


静かだった。


ドルガは小さく呟く。


「……本当に、こんな国があるのか」


シェラも静かに周囲を見る。


以前の自分なら、疑っていた。


怖がっていた。


でも。


今は違う。


不思議なくらい。


心が穏やかだった。


苦しくない。


怒りすらない。


ずっと抱えていた重さが。


消えていく。


シェラが小さく笑う。


「平和って、こういうことなのかもね」


ドルガも否定しない。


静かだった。


穏やかだった。






◆エルナ


エルナだけは黙っていた。


ドルガ。


シェラ。


二人を見る。


以前より柔らかい。


穏やか。


安心している。


でも。


何かがおかしい。


怒り。


迷い。


苦しみ。


そういうものが。


薄い。


ルークが住民へ食料を渡している。


皆、笑っている。


誰も争わない。


完璧すぎる平和。


なのに。


エルナだけが息苦しかった。


……なんで。


ただ、得体のしれない不安だけが加速していく。

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