第二十八話 均していく
◆ドルガ
バルゼイン王国は豊かだった。
巨大な城。
溢れる食料。
笑う市民。
子供たち。
平和。
でも。
ドルガは知っている。
それが何で成り立っているのか。
占領区。
痩せた人間たち。
奪われる物資。
泣く子供。
抵抗した人間は消える。
全部。
見てきた。
ドルガは窓の外を見る。
「……これが国か」
小さく呟く。
後ろでシェラが静かに言った。
「今さらでしょ」
ドルガは笑わない。
「分かってる」
「でも、最近ずっと気持ち悪い」
シェラも否定しない。
バルゼインは強い。
だから奪う。
奪うから豊かになる。
それが当たり前だった。
でも最近、その当たり前が妙に苦しかった。
泥。
重力。
崩壊した地面。
レイヴンが笑う。
「ガハハ!!やるじゃねぇか!!」
拳がぶつかる。
轟音。
ドルガの『泥獄』が地面を沈める。
でも。
レイヴンは止まらない。
無理やり踏み砕き、突っ込んでくる。
「化け物かよ……!」
ドルガが舌打ちする。
その横。
シェラが『重牢』を発動。
重力。
空間が沈む。
エルナの速度が落ちる。
でも。
止まらない。
槍。
シェラの頬が裂ける。
「ッ……!」
エルナは表情を変えない。
冷たい。
感情が薄い。
その目だけが妙に怖かった。
戦場は崩れていく。
泥。
重力。
爆音。
でも。
押されている。
ドルガが理解する。
勝てない。
ドルガが低く吐き捨てる。
「なんなんだよ、お前ら……」
そのとき。
静かな声。
「我々は、平和を作る者です」
ルークだった。
戦場の後ろ。
静かに立っている。
ドルガが睨む。
「平和だと?」
「世の中、一生平和になんかならねぇ!!」
「人は他人を踏みつけて幸せを感じるからな!!!!」
シェラも鋭い目で睨む。
その瞬間。
ルークが二人を見る。
静かな目。
「ユートリアはなりますよ?」
空気が止まる。
ルークは続けた。
「奪うから争いが起きる」
「差があるから憎しみが生まれる」
「なら」
「全部均せばいい」
ドルガの目が揺れる。
その言葉は。
ずっと心の奥にあった違和感へ触れた。
占領区。
飢えた子供。
笑う王都。
自分たちの幸せ。
誰かの不幸。
ルークは静かに言う。
「ユートリアでは、誰も奪いません」
「誰も飢えません」
「誰も争いません」
シェラが小さく呟く。
「……そんな国、本当にあるの」
ルークは即答する。
「あります」
その声には迷いがなかった。
ドルガは俯く。
国家の報告書。
確かにユートリアは。
それを全て叶えていた。
この戦争の世界で。
唯一、異質に。
……戦場なのに、妙に静かだった。
……。
ずっと苦しかった。
ずっと違和感があった。
でも。
誰も止めなかった。
止められなかった。
ルークだけが。
初めて。
そこへ答えを出した。
ドルガが小さく笑う。
「……負けたな」
戦いじゃない。
もっと別の何かに。
シェラも静かに目を閉じた。
「さて、それではお二人」
「仲間になりますか?」
◆エルナ
戦闘は終わった。
ドルガとシェラは。
ユートリア側へ立っていた。
レイヴンが笑う。
「仲間増えたじゃねぇか!!」
嬉しそうだった。
でも。
エルナだけは違った。
ドルガとシェラ。
二人の顔を見る。
穏やかだった。
まるで安心したみたいに。
その表情が。
妙に怖かった。
ルークは静かに言う。
「ようこそ、平和国家ユートリアへ」
その瞬間。
ドルガとシェラが笑った。
自然に。
穏やかに。
でも。
エルナは寒気を覚える。
……何かがおかしい。
ルークの平和は。
本当に平和なのか。
その違和感だけが。
静かに大きくなっていた。




