第二十七話 侵攻する
◆ノクシア王国
戦況は最悪だった。
「バルゼイン側、北部砦陥落!!」
怒号が飛び交う。
机の上には地図。
赤ばかりだった。
ノクシア王は机を殴る。
「ルークが消えてから何一つ上手くいかん!!」
誰も答えられない。
ルーク。
以前から、彼が戦場をコントロールしていた。
彼が出撃すれば戦況は常に好転していた。
今は……
バルゼイン王国が本格侵攻。
ヴァルディア帝国の攻撃も止まない。
完全に包囲されていた。
将軍が震えながら言う。
「兵力が足りません……」
「防衛は不可能です」
空気が沈む。
そのとき。
兵士が駆け込んできた。
「報告!!」
「ユートリア代表、ルークが来訪しています!!」
空気が凍った。
ノクシア王の目が変わる。
「……何?」
会議室の扉が開く。
ルークが入ってくる。
静かだった。
後ろには数人のルーク。
護衛。
兵士。
全部同じ顔。
それだけで空気が重くなる。
ノクシア王が睨みつけた。
「貴様……!!」
「どの面でここへ来た!!」
怒気。
殺気。
将軍たちも武器へ手をかける。
でも。
ルークは変わらない。
静かな声。
「同盟を提案します」
沈黙。
次の瞬間。
机が叩き割られた。
「ふざけるなァ!!」
ノクシア王が怒鳴る。
「貴様が南部を奪ったんだぞ!!」
「今すぐ処刑してくれる!!」
でも。
途中で、王の表情が止まる。
理解してしまった。
ヴァルディア帝国。
バルゼイン王国。
ユートリア。
三方向。
最初から。
全部。
繋がっていた。
「……待て」
「……まさか」
王が低く呟く。
「貴様、最初から」
「この戦争構造を狙っていたのか?」
誰も喋らない。
ルークだけが静かに立っている。
ノクシア王の背筋に寒気が走る。
ユートリアは攻めていない。
だが。
南部を奪った時点で。
ノクシアは弱った。
そもそも戦争はなぜ起きた?
「国王」
「三方向同時に戦争を仕掛けましょう」
「大丈夫です」
「私が戦場に出て全て優位に進めます」
ルークの言葉がよみがえる。
幾度も国を救った英雄。
まさか……
“この形”を完成させたかった。
王が歯を食いしばる。
「……化け物め」
ルークは否定しない。
ただ。
静かに言った。
「ユートリアは」
「同盟国へ攻撃するものは全て排除します」
将軍たちが息を呑む。
王はルークを見る。
そして。
理解した。
今のノクシアに選択肢はない。
「……条件は」
ルークは即答する。
「ありません」
周囲が凍り付く。
王は目を閉じた。
数秒。
長い沈黙。
そして。
「……わかった」
誰も声を出せなかった。
ノクシア王国は。
ユートリアとの同盟を受け入れた。
◆バルゼイン王国
報告が届く。
「ノクシアとユートリアが同盟締結!!」
「ユートリアが本国へ進軍開始!!」
空気が変わる。
将軍が机の資料を投げた。
「ふざけるな!!」
「攻めなければ攻めないと言っていただろうが!!」
別の男も怒鳴る。
「平和国家ではなかったのか!?」
怒号。
殺気。
その中。
二人だけが静かだった。
バルゼイン能力者。
ドルガ。
巨大な体。
全身に刻まれた黒い紋様。
能力。
『泥獄』。
周囲一帯を泥化させる。
その隣。
女が立っている。
銀髪。
細い目。
シェラ。
能力。
『重牢』。
周囲の重力を増大させ、動きを封じる。
ドルガが低く笑った。
「……なら潰すだけだ」
シェラも静かに言う。
「平和ごっこは終わりね」
◆エルナ
同盟成立後。
ユートリアはノクシア王国を守るため。
バルゼインへの侵攻を開始した。
静かだった。
ユートリア軍。
いや。
無数のルーク。
同じ顔。
同じ目。
同じ声。
その先。
エルナとレイヴンが立っている。
レイヴンが笑う。
「ガハハ!!強そうじゃねぇか!!」
エルナは黙って前を見る。
その前に立つのは。
ドルガ。
シェラ。
空気が重い。
シェラが能力を発動する。
「『重牢』」
瞬間。
身体が重くなる。
重力。
足元が砕けた。
「ッ!!?」
ユートリア軍が止まる。
その瞬間。
ドルガが地面へ手を叩きつける。
「『泥獄』」
地面が泥化した。
戦場全体が沈み始める。
「これでしまいだ」
ルークたちが飲み込まれる。
レイヴンとエルナも足が取られる。
前へ進めない。
だが。
レイヴンが笑う。
「ガハハ!!面白ぇ!!」
無理やり泥沼から脱出する。
突撃。
その瞬間。
シェラの重力がレイヴンへ落ちる。
轟音。
レイヴンの身体が沈む。
「『オーバードライブ』」
エルナが高速で割り込む。
槍を投げる。
衝撃で、戦場が爆ぜた。
後方。
無数のルーク。
「あの能力、欲しいですねぇ」
一人のルークが笑う。
イヤリングの赤い宝石は不気味に輝いていた。




