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平和国家ユートリア ―人類の終着点―  作者: Kk


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二十三話 近づいていく

◆レイナ


戦争開始から数日。


死者は増え続けていた。


前線基地。


運び込まれる死体。


負傷兵。


血の匂い。


叫び声。


勝っているのか、負けているのか。


もう、誰にも分からなかった。


「毒だけでここまで崩れるか……」


グレンが顔をしかめる。


包帯を巻いた兵士が運ばれていく。


浅い傷。


それだけで、人が死ぬ。


恐怖だけが広がっていた。


セラが資料を見ながら言う。


「シオン投入で押し返せてる」


「でも」


「損耗は大きい」


「長引けばどっちも潰れる」


レイナは黙っていた。


視線の先。


兵士たちに囲まれている。


シオン。


「救世主だ!!」


「今日も頼むぞ!!」


「お前がいれば勝てる!!」


兵士たちは笑っていた。


シオンは少し困った顔をした。


でも。


「うん」


頷く。


それだけ。


レイナはその光景を見ていた。


……馴染み始めてる。


戦場に。


軍に。


兵器として。






数日後。


停戦交渉が行われた。


薄暗い建物。


長机。


リグナとグランゼルの兵士が睨み合っている。


空気が重い。


レイナは護衛として立っていた。


その視線の先。


アルド。


グランゼル側。


目が合う。


短い沈黙。


交渉は最初から荒れていた。


「難民に紛れて反乱を起こすなど」


「正義はあるのか!!」


リグナ側が怒鳴る。


グランゼル側は冷たく返した。


「戦争で正義を語るな」


「人体実験をしているような国にこそ」


「正義はあるのか?」


「なんだと!!」


空気が悪化する。


机を叩く音。


怒号。


結局。


交渉は決裂した。


兵士たちが撤収を始める。


その中。


アルドがレイナへ近づいた。


「久しぶりだな」


「……えぇ」


短い会話。


アルドは少し疲れた顔をしていた。


「リグナは終わってるな」


「そっちもでしょ」


アルドは笑わない。


「あぁ、終わってる」


壁にもたれながら続けた。


「兵士不足」


「上は安全圏で命令だけ」


「現場だけ死ぬ」


レイナは黙って聞いていた。


アルドは小さく息を吐く。


「どこの国も同じだな」


「人を使い潰して回ってる」


風が吹く。


沈黙。


そして。


アルドが言った。


「レインも前線に出てる」


レイナの目が少しだけ動く。


「……そう」


それだけ。


アルドはレイナを見る。


「会うかもな」


レイナは答えない。


アルドも、それ以上は言わなかった。


「じゃあな」


去っていく。


レイナはその背中を見ていた。


兄。


グランゼル。


戦争。


全部が、近づいてきていた。






◆アルド


グランゼル前線基地。


空気が悪い。


負傷兵。


怒号。


薬品の匂い。


兵士たちの顔も死んでいた。


その中。


一人だけ静かな男がいる。


レイン。


机の上に並ぶ武器へ手を触れていく。


黒い毒液。


刃へ染み込む。


一本。


また一本。


感情もなく。


ただ作業みたいに。


「また無茶させられてんのか?」


アルドがレインに聞く。


「別に」


短い返事。


アルドは椅子へ座る。


「停戦交渉、決裂した」


「だろうな」


興味なさそうだった。


アルドは少し黙ったあと言う。


「レイナ、生きてるぞ」


その瞬間。


レインの手が止まる。


ほんの少しだけ。


「今はリグナにいる」


……。


すぐ動き出した。


「……そうか」


淡々とした声。


アルドが眉をひそめる。


「それだけか?」


「今さら家族ごっこして何になる」


冷たい声。


アルドはレインを見る。


「妹だろ」


「だから何だ」


レインは毒を塗り続ける。


「家族だろうが国だろうが」


「結局利用し合うだけだ」


静かな声。


怒ってもいない。


悲しんでもいない。


ただ。


削れていた。


アルドは小さく息を吐く。


「……どこも終わってんな」


レインは答えない。


ただ。


黙って毒を塗り続けていた。

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