第二十二話 終わらせたい
◆レイナ
開戦前夜。
城の中は慌ただしかった。
兵士が走る。
武器が運ばれる。
怒号。
足音。
反乱の傷跡が残るまま。
グランゼルとの戦争が始まろうとしていた。
レイナは廊下を歩く。
その横をグレンが通る。
「いよいよだな」
「……えぇ」
短く返す。
グレンは小さく息を吐いた。
「グランゼル側はまた毒能力者が荒らすだろうな」
後ろからセラも来る。
「普通の兵士じゃ止められない」
「だからシオン出す」
レイナの足が止まりそうになる。
セラは気にせず続けた。
「召喚系ならまとめて吹き飛ばせるし」
「相性は悪くない」
正しい。
全部。
だから苦しかった。
窓の外。
兵士区画。
そこに、小さな兵士服が見えた。
シオン。
もう、“出撃する側”だった。
◆ミア
朝。
兵士区画の外。
ミアとレオンが待っていた。
少しして。
シオンが出てくる。
兵士服。
小さい身体。
でも。
周囲の兵士たちは、その背中を見ていた。
「シオン!」
ミアが駆け寄る。
シオンは少し笑った。
「おはよ!!」
普通だった。
いつも通り。
ミアは不安そうに聞く。
「本当に行くの……?」
シオンは頷く。
「うん」
「でも、早く終わらせるから」
レオンが眉をひそめる。
「戦争だぞ」
「そんな簡単じゃねぇ」
シオンは少し考える。
「いっぱい倒したら終わるんだよね?」
悪意はない。
本気でそう思っている。
シオンは続けた。
「そしたらまた遊べるでしょ?」
「お姉ちゃんとも一緒にいられるし」
笑う。
子供みたいに。
でも。
言葉だけが重かった。
兵士が来る。
「召喚能力者、移動だ」
シオンが振り返る。
「行ってくるね」
そのまま歩いていく。
ミアは何も言えなかった。
◆グレン
開戦。
叫び声。
砲撃。
血。
リグナとグランゼルが激突する。
そして。
「ぐぁっ……!?」
兵士が崩れる。
浅い傷。
それだけ。
なのに死ぬ。
「毒だ!!」
「武器に毒があるぞ!!」
リグナ側が混乱する。
掠っただけで終わる。
兵士が次々倒れる。
「前線が崩れる!!」
「下がれぇ!!」
恐怖が広がる。
グレンが舌打ちした。
「またか……!」
セラも顔をしかめる。
「通常兵じゃ戦線維持できないわね」
グレンが忠告する。
「前と同じことはやめろよ」
「こっちの兵は相手より少ないんだから」
セラが言う。
「分かってる」
「だから、あれがいるんでしょ」
視線を向ける。
命令が飛ぶ。
「召喚能力者を出せ!!」
空気が変わった。
◆シオン
前線。
死体。
血。
知らない兵士たち。
いっぱい倒れている。
シオンはそれを見る。
でも。
思うことは一つだけ。
早く終わらせたい。
ミア。
レオン。
レイナ。
また一緒にいたい。
それだけ。
兵士が叫ぶ。
「やれ!!」
シオンは頷いた。
「……『サモン』」
魔法陣。
巨大な異形。
戦場の空気が止まる。
次の瞬間。
斧。
グランゼル兵がまとめて吹き飛ぶ。
毒ごと。
兵士ごと。
地面ごと。
破壊。
サモンが進む。
止まらない。
前線を踏み潰す。
「化け物だ!!」
グランゼル側が崩れ始める。
サモンは止まらない。
毒兵を叩き潰す。
防壁を砕く。
人を消す。
数分後。
前線の音が消えた。
◆レイナ
兵士たちが歓声を上げる。
「勝った!!」
「押し返したぞ!!」
「召喚能力者だ!!」
「救世主だ!!」
熱狂。
期待。
兵士たちがシオンを見る。
セラが笑う。
「強すぎるでしょ」
グレンは苦い顔をした。
「……最高戦力だな」
その言葉だけが重かった。
シオンは周囲を見る。
歓声。
笑顔。
でも。
よく分からなかった。
近くの兵士が肩を叩く。
「ありがとう!!」
シオンは少し考える。
そして。
「……これで終わる?」
兵士が止まる。
「え?」
シオンは続けた。
「またミアたちと遊べる?」
兵士は何も言えなかった。
レイナだけが、それを見ていた。
理解してしまう。
シオンは。
国のために戦っていない。
正義でもない。
英雄でもない。
ただ。
大切な人とまた一緒にいたいだけ。
そのために。
大量に人を殺している。
レイナは静かに目を閉じた。
その事実だけが。
胸に重く沈んでいった。




