第十六話 安堵する
◆グレン
敵兵は異様だった。
武器に触れた瞬間。
味方兵士が崩れ落ちる。
「毒か……!」
グレンは舌打ちした。
「触れた時点で終わりだ」
地面に倒れた兵士が。
数秒後に動かなくなる。
傷は浅い。
だが関係ない。
“触れた時点で死ぬ”。
戦場として成立していなかった。
「どうする……!」
そのとき。
「まとめて吹き飛ばす」
セラの声。
グレンが振り返る。
「おい、味方もいるぞ!」
「分かってる」
一瞬だけ、間が空いた。
次の瞬間。
遠距離砲撃。
一点ではなく“面”。
爆風が戦域ごと塗りつぶす。
毒の広がった範囲を消し飛ばした。
静寂。
煙。
「……制圧完了」
セラは何事もなかったように言った。
グレンは苦笑する。
「相変わらずだな、お前」
「褒めてる?」
「半分な」
戦場は、数秒で終わっていた。
◆レイナ
通信が入る。
「敵部隊制圧完了」
短い報告。
お兄ちゃん……
今はそれより優先がある。
シオン。
混乱した区画はまだ収束していない。
「召喚能力者確認」
「保護対象を移送する」
兵士が近づく。
ミアが震える。
「どこに連れていくの……?」
誰も答えない。
レイナは一歩前に出る。
シオンを見る。
……まだだ。
レイナは短く息を吐く。
「……この子を引き渡す」
兵士がシオンを抱える。
「能力者は軍管理下へ」
ミアが一歩踏み出す。
「待って!」
レオンが腕を掴む。
「無理だ」
シオンはぼんやりと目を開ける。
ミアとレオンを見る。
少しだけ笑う。
「大丈夫だよ」
ミアが泣きそうな顔になる。
そのまま運ばれていく。
ミアの手が空を掴む。
何も残らない。
レイナはそれを見ていた。
そのとき。
「おい」
影から声。
アルドだった。
リグナ兵の制服を着ている。
だが、その立ち位置は曖昧だった。
「久しぶりだな」
レイナは止まる。
「……グランゼルね」
レイナはわずかに身構える。
「……そうだ。お前はもうリグナ側か?」
アルドは冷静に答える。
「……そうよ」
「そうか……」
「まぁ争う気はない。身構えるな」
アルドがなだめるように言う。
アルドは、そういう嘘をつかない。
レイナは力を抜く。
短い沈黙。
アルドは周囲を見回す。
「さっきの戦場、ひどいな」
「……」
「リグナもグランゼルも関係なくやられてる」
「なんとか撤退はできたが」
……撤退したのか。
レイナは目を伏せる。
「お兄ちゃんは?」
アルドは少しだけ間を置く。
「生きてる」
その一言。
レイナの指がわずかに止まる。
生きている。
まだ。
「……そう」
アルドは少し視線を落とす。
沈黙。
風だけが流れる。
「結局どこへ行っても同じだな」
「ここも、他も、全部地獄だ」
アルドは背を向け、歩き出す。
「あの爆発で多くの仲間が死んだ」
「お前は生きててよかった」
そのまま消えていった。
レイナはその背を見送る。
あの爆発。
私が起こした爆発。
視線を落とす。
あの爆発が私だってバレていなくてよかった。
安堵している。
その事実だけが、静かに残った。




