表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平和国家ユートリア ―人類の終着点―  作者: Kk


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/82

第十四話 慣れていく

◆レイナ


選別を始めて一か月が経った。


これまでの書類に、シオンの名前はない。


元気でやっているだろうか。


「遅いな」


短い声。


書類から目を上げる。


「……まだ時間内だけど」


淡々と返す。


向かいに座る男。


グレンが、肩をすくめた。


「時間内なら何してもいい、って考えは嫌いなんだよ」


「効率なら十分出てる」


レイナは視線を紙に戻す。


机の上には、いつも通りの資料。


名前。


年齢。


体力。


知力。


能力。


そして。


分類。


ペンを動かす。


迷いはない。


「相変わらずね」


隣から別の声。


セラ。


椅子に深く座りながら、こちらを見ている。


「感情ゼロ。見てて気持ちいいくらい」


セラが言う。


「褒めてるのか?」


グレンが笑う。


「さあね」


セラも笑う。


軽い。


だが。


……慣れている。


この空気に。


この仕事に。


「最近、質がいい」


セラがふと呟く。


「難民の?」


レイナが聞く。


「そう。体力も知力も平均が上がってる」


セラが答える。


「戦争が増えたからだろ」


グレンが入る。


「生き残るやつは強い」


「……それだけじゃない気がするけどね」


セラは視線を外す。


興味があるような、ないような。


私たちはただ、書き続ける。


分類。


兵士候補。


生産要員。


繁殖要員。


非適合。


……同じだ。


紙の上も。


現実も。


すべて同じ構造。


「お前はこの国をどう思う?」


グレンが聞いてくる。


一瞬だけ、手が止まる。


ほんの一瞬。


「……合理的ね」


短く答える。


グレンが笑う。


「だよな」


「無駄がない」


「ただ、子供は……」


「もう少し大事にしてもいいけどな……」


セラが口を挟む。


「そう?私は今のシステム賛成よ」


「子供も使えるなら使う、合理的でしょ?」


……そうか。


レイナは再びペンを動かす。


そのとき。


扉が開く。


兵士が一人、顔を出した。


「新しい難民が入った」


「今日中に一次選別を終わらせろ」


「了解」


グレンが立ち上がる。


「行くぞ」


レイナも立つ。


資料を持つ。


歩く。


廊下。


人が並んでいる。


新しく入ってきた難民たち。


汚れている。


疲れている。


だが。


その中に。


一人。


視線が合った。


一瞬。


ほんの一瞬だけ。


逸らされない目。


恐怖でも、諦めでもない。


……何だ?


足を止めない。


そのまま通り過ぎる。


だが。


頭の奥に、残る。


違和感。


「あ?」


グレンが振り返る。


「どうした?」


「……何でもない」


歩き続ける。


だが。


あれは。


ただの難民ではない。


そんな感覚だけが、静かに沈んでいく。






◆シオン


「ねぇ、こっちこっち!」


シオンが走る。


後ろからミアたちがついてくる。


「待ってよ!」


「シオン速すぎ!」


笑い声。


普通の声。


広場。


人がいて、声があって、匂いがある。


「今日はパン多いね!」


ミアが嬉しそうに言う。


「やった!」


シオンも笑う。


受け取る。


食べる。


おいしい。


「ねぇ」


ダグが口を開く。


「また一人いなくなったよな」


「……うん」


ユナが小さく頷く。


一瞬だけ、空気が止まる。


でも。


「検査だろ」


レオンが言う。


当たり前のように。


それ以上は、誰も言わない。


「ねぇ、午後なにする?」


シオンが明るく言う。


「かくれんぼ!」


「いいね!」


すぐに笑い声。


さっきの空気は、もうない。


消えている。


まるで最初からなかったみたいに。


「鬼やる!」


シオンが手を上げる。


「じゃあ数えて!」


「いーち、にー……」


目を閉じる。


数える。


その間に、みんなが散る。


足音。


笑い声。


隠れる音。


静かになる。


「じゅう!」


目を開ける。


探す。


建物の影。


木の裏。


箱の中。


すぐに見つける。


「見つけた!」


「早っ!」


また笑う。


繰り返し。


同じこと。


何度も。


時間が過ぎる。


夕方。


空が赤くなる。


「楽しかったね!」


ミアが言う。


「うん!」


シオンも笑う。


満足そうに。


そのとき。


遠くで、何かが動いた。


新しく入ってきた人たち。


難民。


たくさんいる。


その中に。


一人。


立っている。


動かない。


ただ、見ている。


こちらを。


「……?」


シオンは首を傾げる。


一瞬だけ。


でも。


「ねぇ、明日も遊ぼ!」


ミアの声。


「うん!」


すぐに笑う。


さっきの違和感は。


もう、ない。






その夜。


静かな街。


灯りが消えていく。


その中で。


一人だけ。


目を閉じない影があった。


何も言わない。


何も動かない。


ただ。


“その時”を待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ