縁談会議
人目を憚るようにして建つ料亭に、徴収家と課税家の長老たちが参集していた。
緑庭の大池には丸々とした錦鯉数百匹が悠々と泳いでいる。政財界をはじめとする多くの賓客をもてなしてきた邸内は時代を超えた美と格式が息づいている。
密談を行うには格好の場での議題は、迷宮徴税課の若い二人の縁談についてだった。
徴収家の力、課税家の架純。
両家の結びつきをより強固にし、勢力を維持するため、若い二人を無理やり縁談させる計画が水面下で進行していた。
迷宮に二人一組で赴く上司と部下の姿を思い浮かべながら、長老たちは議論を重ねた。
片や昇り龍のような勢いの若手のホープ、片や実績らしい実績のない新入り。
秘密裏の縁談会議に参加した面々が時期尚早とばかりに言った。
「迷宮徴税課はまだ新設されたばかり。課としては目に見える成果を出してはおりません。もうしばらく様子を見てもよろしいのでは」
「徴収力、まだ十五歳ですか。年端もゆかぬ少年ではありませんか。徴税実績抜群の架純とは釣り合いが取れますまい」
肥えた錦鯉の群れが一斉に蠢き、緑庭の大池に波紋が生じた。
徴収家の長老である徴収直様が一喝するように言った。
「もっとも多く国税庁長官を輩出した徴収家こそが名門であり、課税家は分家に過ぎぬ。立場をわきまえるべきだな」
「そのような頑迷なことをおっしゃるから、新興の加算税家に台頭を許したのです。徴収家、課税家、両家の繁栄こそが我々の悲願では」
負けじと、課税家の長老である課税已無が嘲笑の言葉を浴びせた。
現国税庁長官は、御三家の中でも傍流とされる加算税祟が務めている。
加算税タタルは新設されたばかりの迷宮徴税課の統括官に甥のサグルを着任させ、露骨に加算税家の権勢を拡大させようと取り計らった。
いかにして加算税家の勢いを削ぐかが密談の主眼であったが、エリート意識にまみれた両家の話し合いは平行線を辿り、どちらも折れようとはしなかった。
「両家はあくまで対等です。名門ぶるのもいい加減にしていただきたい。そういえば、お宅の血筋には徴税官にもなれぬ落ちこぼれがおりましたな。たしか、徴収不可避……」
徴収直様は大きく目を剥き、テーブルに思い切り拳を叩きつけた。
「……その名を出すな!」
すべてを黙らせるような迫力に、邸内がしんと静まり返った。
課税已無が取りなすような調子で言った。
「失礼いたしました。まだ若い芽とはいえ、加算税家の勢いを考えれば縁組を進めるのが最善でしょう。正しく育てれば、課税家、徴収家、良家の名に恥じぬ存在となりましょう」
しかし、いちど憤慨した徴収直様は歩み寄りを固辞した。
「……不愉快だ。帰る」
秘密裏に行われた縁談会議は怒声と沈黙をもって決裂した。
両家の間に微かな亀裂が残ったまま、重い扉が閉ざされた。




