秘匿回線
「――おいっ。話が違うじゃないか!」
迷宮徴税課への公式回線ではなく、加算税サグル統括官に直通の秘匿回線にかかってくるものは限られている。
耳障りな声の主はハーフ・エルフを自称する三下だ。
加算税サグルの徴税哲学は「雑魚は捨て置く」である。
美味しい情報を流してやったのに、みすみすしくじった雑魚なんぞに割く時間はない。
秘匿通信をあっさりと遮断し、雑魚とは会話を交わすことさえなかった。
深淵で安穏としている迷宮主にちょっとした揺さぶりをかけてみたに過ぎない。
「ダンジョンちゃん、なかなかガードが堅いじゃないか」
いまだ相続税を払う素振りのない迷宮主を褒めそやした。
ヨシュア・ヤマモロは雑魚ではあるが、使い道がないわけではない。
迷宮資産の半分も騙し取ったとなれば、立派な大物だ。
犯罪収益とて、収益であることには違いない。
申告のなされていない犯罪収益を根こそぎぶんどる。
肥え太った大物を一撃で仕留めるだけだから、さしたる手間もかからない。
雑魚が多額の犯罪収益を手にしても構わない。
たとえ失敗したとしても、迷宮主への多少の揺さぶりにはなる。
いずれに転んだとしても、効率の鬼と恐れられる加算税サグルに損はない。
糸目は細められたままであるが、時折自分が恐ろしくなることがある。
実際、迷宮主にとっては魔王かなにかに見えただろう。
徴税権力御三家の中にあって、加算税家だけが異質だった。
御三家の性格をそれぞれに表すと、徴収家は「伝統・威圧」、課税家は「緻密・冷静」であるのに対し、加算税家は「罰則・支配」となる。納税義務違反を「罰」として支配する加算税家にあって、加算税サグルは家柄をそのまま体現したような存在であった。
すべての始まりは迷宮徴税課が発足する時期と同じくしていた。
大都会迷宮の資産価値を正確に見積もるため、《全貌監査》を唱え、加算税サグルは糸目を開眼した。
得体の知れない力が流れ込んできて、肉体を乗っ取られたかのような感覚があった。
誰のものとも知れぬ記憶の奔流に溺れ、かつてない疲労感を覚えた。
加算税サグルは能力に支配されかかっていた。
とてもではないが、迷宮全体を隈無く監査するには至らなかった。
危険だ。
この能力はあまりに危険過ぎる。
消耗が激し過ぎて、そう何度も乱発できる代物ではない。
しかし、不思議と古い衣を脱ぎ捨てたような気分でもあった。
どのみち、迷宮は日に日に拡張する。
極めて正確な監査など望むべくもない。
しかし、それの何が問題であろうか。
全貌監査を実行した加算税サグルは支配者の極意に開眼した。
税を払うか、払わぬか。
結局はそれだけだ。
加算税サグル統括官は悪辣な笑みを漏らした。
「……自覚なき魔王か。それもいい」




