第2話 縁切りざまぁ!二度と俺に関わるなよ
家に入ると、ドタドタと足音が聞こえて小さな子供が3人玄関まで来た。
「ナンワレェ?」
「キャハハ!ダッサァ!オジダッサァ!」
「チャル、エリート!チャルニオコジュカイヨコシェェッ、クショションパァッ?」
襟足を伸ばしたふてぶてしい子供、まだ小学生低学年だろうに髪を染めて化粧をした女児、そして一番年下だけれど初対面でいきなりお小遣いを要求する幼児、どこからどうみてもしつけのなっていないクソガキばかりだ。少子高齢化に対して子供を育てるのは立派だけれど最低限のしつけは必要だぞ。
「たかしか・・・よくきたな、あがってくれ」
クソガキどもからワンテンポおくれて出てきたのは、親父ィ・・・だった。頭部は禿げ上がり痩せこけて、あれから相当に苦労していると見える。・・・まぁ俺には関係ないんだけど。
「おう。お邪魔します」
親父に促されてリビングにいくと、義母だけでなくゴミ野郎の紋雅や今では紋雅と結婚したきぬよもいた。あの頃は黒い長髪の綺麗な文学少女だったけれど、今では金髪を巻いたスウェット姿が板についたギャルママになっている。
「あ・・・タカちゃん」
「おう」
「なんだよたかしぃ、10年ぶりなのに随分シケたツラしてんなぁ~」
紋雅は馴れ馴れしい態度でニタニタ笑いながらきぬよを抱き寄せて、俺に見せつけるようにしていた。・・・けど残念、俺はもうきぬよにも、お前らにも微塵も関心はないんだ。義母は興味なさそうに離れたところでスパスパとタバコを吸っていた。
「それで・・・元気にやっているのか?」
こちらの様子を窺うように聞いてきた親父の言葉に頷きながら、こちらの事をかいつまんで説明していく。一応、弁護士から渡しても良いとされていた書類も渡しながら。
「あぁ、祖父さんや祖母さん達のお陰で元気で達者にやってるよ。ここにきたのは、一応報告だけはしておこうと思ってきたんだ。俺は正式に祖父母たちの養子になる事になった。なのでアンタらとはこれで縁切りだ。これから先二度と関わる事もない」
「そ、そうか・・・すまん」
俺の言葉に親父は頭を下げて俯く。そのすまん、にはどんな感情がこめられてるんだろうね?興味ないけど。そして義母はゲラゲラと品性を感じさせない笑い声をあげていた。
「アハハッハ、よかったわねぇ紋雅!これで形見分けだとか遺産だとかでそこの負け犬にもっていかれることはなくなったわ、この家はアンタのもんよ!」
相変わらず品性のないババアだけど今の俺はこんな家や親父の遺産なんて興味ないのだ。
「この家に興味はないんでお好きにどうぞ。俺は俺で家を買ったしな」
そんな俺の言葉に何故かピキッと青筋を立てるババア。なんか食いついてきたから折角だし煽り倒しておこう、ざまぁと煽りはどれだけやったっていい、古事記にも書いてある多分!
「・・・ハァ?中古のボロ屋でも買ったのかしら?」
「祖父母たちの住んでる家からほど近いタワマンの上層階だよ。ほら」
そう言って鞄に入っているモバイルのうち1台に家での写真を選択してから、手近にいたきぬよに投げ渡した。
「えっ・・・本当だ・・・!!タカちゃん凄い」
タワーマンションのデザイナーズハウスに暮らす俺の家族写真に声を上げるきぬよ。写真を覗き込んでいる紋雅も同様に目を丸くしているが、紋雅ときぬよは程なくして別の所に気づいた。
「オイオイオイオイなんだよこのスタイルすっげえ美人はよぉ!」
「俺の嫁だ、結婚もしてる、式には祖父母に出てもらった」
「ハァーッ?!お前みたいなボンクラNTRクソザコナメクジが何でこんな美人と結婚してんだよ!!」
「同じ高校からつるんでた鉢割だよ。きぬよは鉢割の事知ってるよな?・・・ああ、結婚したから今は俺と同じ千井逆って苗字だけどな」
「フッざけんなよお前、お前みたいなチー牛が何でこんな美人と結婚してんだよずりぃよ〜!俺にもヤらせろよ!!」
相変わらず品性の欠片もない紋雅の言葉は鼻で笑って無視しておく。写真フォルダには俺が妻や子供と海外旅行に行った時の写真や、パーティに出ている写真、どれも笑顔ばかりの家族写真ばかりがありそれをみてきぬよは目を丸くしている。
「それじゃ、もういいか?」
きぬよに声をかけてモバイルを返してもらうと、きぬよはそのモバイルを名残惜しそうにしてから俺の手に戻してきた。
「タカちゃん・・・なんか凄いね・・・うちは毎月いっぱいいっぱいで・・・もう色々・・・」
どこか疲れたような諦めた様なきぬよのためいきじりの言葉に、紋雅が威勢だけは良く声を飛ばす。
「ダーイジョーブだって、俺がビッグになるまでの辛抱だ!!」
そんな紋雅の言葉に疲れた表情のまま頷くきぬよ。
・・・悪いなきぬよ、俺はもう全部知ってるんだ。そこの紋雅は大学を卒業してから定職にもつかず、バンドマン崩れの活動ばかりしていることも。この家の家計が毎月火の車な事も。外にあるキズだらけのミニバンが残クレミニバンな事も、全部な。
「・・・そう言う事だから、俺とこの家は金輪際何の関係もない。世話になってる母方の祖父母たちに関しては俺が老後も面倒見るけど、お前らがこれから先困窮しようと俺は一切手助けはしない。」
そのための縁切り、そのための養子縁組。祖父母達は地元でもしっかりした名士だけあって弁護士を立ててそのあたりの処理をしっかりしてくれた。今回こうして訪問したのはハッキリと絶縁を告げておくため—――意趣返しと10年前の溜飲をさげるためのざまぁもあるけれども。しかしこのざまぁは想像以上の効果があったようだ。顔真っ赤の義母と、困窮する生活からの羨ましさが隠せないでいるきぬよ。老後に俺をもう頼れないと知って目の前が真っ暗になっている親父。わかってないのは紋雅だけ。
「マチェェッ!チャルエリート!チャルニオコジュカイ、ネッ?オカネタークタク、ハヨッ、ネッ?」
俺達の会話がひと段落したと踏んだのか、クソガキが俺の所に走ってきて小遣いをせびり始めた。だが残念、どこの馬の骨とも知らない他人のガキに施す金はない。
「こら、茶瑠羅、やめなさい!」
乞食みたいにたかろうとするガキを半目で睨むと、流石に恥と思ったのかきぬよが茶瑠羅と呼んだクソガキをひきとめる。
「子供のしつけはしっかりした方がいいぞ」
俺がそう言って立ち上がるとクソガキはお小遣いがもらえないと理解したのか俺を睨んで威?しはじめる。右腕と左腕を交差させてキッ!キッ!といっているのは威嚇のつもりなんだろう。なんていうか頭が悪いガキだな・・・。
「キッ!オコジュカイクレナイ、オマエクソヤンパァッ!キッ!!」
キッ!と口で言っているのは睨みつける擬音なんだろうか?どこまでも目障りで不快なガキだな、マジでこんなののまま幼稚園や学校にいれるなよ、親として最低限の教育としつけはしておけよな・・・。
俺は一応義務としての通告を終えて、生まれ育った家を再び後にした。もう二度と此処に来ることもなければ、もしかしたらこの街を訪れる事もないかもしれない。最後になるかもしれない街並みの景色を見ながら俺は行きよりも軽くなった足取りで帰路に着くのだった。




