第1話 寝取られ、奪われ~10年前の事~
高校を卒業してから10年ぶり訪れた故郷の街は随分と変わっていた。
あった筈のものがなくなっていて、なかったものが新しくある街並みに懐かしさと寂しさの入り混じった感情を抱きながら、俺は目的の場所である自分の生まれ育った家へと向かっていた。もう二度と戻るまいとすら思っていた、あの家に。
忘れもしませぬ。あれは拙僧がまだ高校生だったころ・・・オホン。なんて冗談はさておき、あの時俺は高校三年生で、俺の名前はまだ『白蓋高志』だった。
小学生の頃に母を交通事故で亡くし、俺が高校2年の頃に父親が再婚した。俺には一つ年上の連れ子の兄が出来て、その兄“紋雅”は派手な見た目の遊び人で苦手だったけれど、家族なのだからと波風を立てないように接していた。
そしてもうひとつ、この頃の俺は近所に住む幼馴染の『本屋きぬよ』と付き合っていた。きぬよは真面目で大人しい女の子で、俺はそんなきぬよを大切に思っていたし将来の事を考えてお互い合意のもと、年相応の健全な付き合いをしていたのだ。
・・・けれど、夏休みの夏期講習を終えて家に帰ってくると家の玄関にきぬよの靴があった。俺がきぬよの誕生日にプレゼントしたものだったから見覚えがあったのだ。両親は仕事、家にいるのは兄貴だけ。そんなところになぜきぬよが?そう思った俺は嫌な予感と共に足音を殺して階段を上っていくと、俺の部屋の中からはベッド繰り返し軋む音ときぬよの恍惚とした声が聞こえて来た。
「さぁ、俺様の美技に酔いな!」
「あっ、あっあっ!いい、紋雅さんっ、紋雅さんっ♡」
「そうだ、たかしの事バカにしながらやってみろ、飛ぶぞ!」
「えぇっ?!」
「でもあんなフニャチンタマナシ童貞より俺の方がず~っといいだろ?」
「それは・・・うんっ♡タカちゃん・・・たかしみたいな情けない奴より、紋雅さんのほうがず~っといい♡」
嬌声と共に紋雅の名前を繰り返し呼ぶきぬよと、上機嫌な紋雅の声、そしてベッドのスプリングが軋み人の身体がぶつかり合う音が聞こえて、吐きそうになった。けど俺はスマホを取り出し、録画をしながらドアを蹴り飛ばして室内に入った。底には服をはだけたきぬよと紋雅が俺のベッドの上にいて、俺に気づいた2人はびっくりした表情を浮かべてその“行為”を止めて飛びずさった。
「人の部屋で・・・何してんだッ!!」
「あー、バレちまったか。けど悪ィのはお前だぜ、こんな良い身体した女にいつまでも手を出さないでいるから、そんなの俺が喰っちまうって。しょーがねーって!
それにこいつも最初はタカちゃんがいるからっつってたけど、しつこく誘ってたら最終的に靡いて今では自分から誘ってくるようになったぞ?」
「・・・タカちゃん、あの、その、私」
あんまりにも乱暴な紋雅の言葉だけれど、嘘をつくのが苦手なきぬよはそれを肯定できないでいる。幼馴染だけあって長い付き合いだから、そういう事ばかりはしっかりとわかってしまう。悲しいけどこれ、幼馴染なのよね。
「そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな」
「ち、違うの!これは違うの!私、本当にタカちゃんが、タカちゃんの事が好きで―――」
「言い訳は結構だよ。俺は、君がどんな子かはもう知ってる。そのうえ、今日また、君が貞操の軽い、浮気をどう考えているか、ということを見ることができたさ」
そもそも人の留守に部屋に入り込んでサカっておいて今更好きでしたもクソもないだろうとしか言えない。
肩を落として退散していったきぬよに対して紋雅は、あいつめっちゃ具合いいから抱いてみろよマジマジとどこまでも悪びれることは無くクズだった。
それから親父や義母にその時野録画を見せて紋雅の行為を糾弾したけれど、義母に惚れてしまっている親父は女を取られるお前が悪いといい、義母も情けない負け犬として俺を嘲笑してきた。そして次の日からは紋雅は俺を露骨に馬鹿にするようになり、義母がそれを擁護し、親父はそれを黙って聞こえないふりをするという勝ちえない地獄が始まった。そして家庭内での俺のヒエラルキーが最低そうになったことできぬよはいつしか当たり前のように家に着て紋雅とサカるようになっていたのだ。
ここの家族モドキに対しての感情がブツンと音を立てて切れたのを感じ、その行いを隠し撮りし続けた。
それから俺は2つ県をまたいだ母方の祖父母に連絡を取り家であったことや家の中での事を訴えて、隠し撮りした録画を送った。。祖父母は驚いたけれど家に乗り込んできて、俺を引き取ると言ってくれた。義母と紋雅は厄介払いが出来たという態度を隠さず、父親は実父であるにもかかわらずモゴモゴと言葉に出来ない言い訳をほざいているばかりだった。
こうして俺は祖父母の計らいと援助で家を出て一人暮らしをはじめて、大学は県外の進学校に進学するように照準を定めた。
俺は親しい友達にはきぬよを兄に寝取られたことと、それがきっかけで家庭内で孤立して、祖父母の助けで一人暮らしを始めた事を説明した。
そして俺は県外の大学に進学し、同じ高校から進学した友人達や大学で出来た友達と一緒に人並みに楽しいキャンパスライフを送った。その中で女友達がヤリサーにつかまりそうになったので友人達と一緒にヤリサーを潰したりもしたけれど元気に大学生活を終えて、今は社会人として働いている。
そんな事を考えながら歩いていると、ようやく目的の場所の生まれ育った家に着いた。あの頃と同じ建物だけれど10年の間にところどころくたびれて、庭も手入れが行き届いていないように感じる。そして家の駐車場には、昔と違って黒色の大型ミニバンがとまっていた。ところどころにある擦り傷やへこみを横目に見てから、俺は家のチャイムを鳴らすのだった。




