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この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!全年齢版  作者: ゆずまめ鯉


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十六・狩猟大会

 紅葉が見頃を迎え、錦秋(きんしゅう)に染まる十月中旬。晴れ晴れとした日曜日。公爵家主催の狩猟大会が開催される。年に二回の春と秋に野山を駆け巡り、雉や兎、狐、狸、猪、鹿など多くの獲物を仕留めたものを優勝とする。見事一位になれば、みなが獲得した動物はすべてその人のものとなる。ニエルとユージンも誘いを受けて参加していた。


「また腰抜け野郎がいるのかよ。辛気くせーな」

「なんのために出てるんだろうな、下手くそなのに」


 ひそひそ話が聞こえるが、毎度のことなので無視した。ニエルが参加しているのは、ブレンダン侯爵が協賛しているからだ。無下にはできない。


(ここにいる連中の中でも、俺は上手い方だけど、あいにく、殺生には興味がないんだよ)


 生前のニエルは、なぜかアーチェリーと乗馬だけは大得意だった。ずば抜けていた。

 十二歳のある日。一度も経験したことがないというのに、どちらも一発で成功させたところ、才能があるとインストラクターが大絶賛した。オリンピックを目指した方がいいと強く勧められた。さすがにお世辞だと聞き流したが、両親や妹が挑戦すると、三人とも失敗していた。インストラクターは首を傾げていた。

 そのときの経験があったからか、ニエルとして異世界転生しても、その腕前は変わっていなかった。

 ユージンもどちらかといえば上手い方だが、ニエルに賛同しているため、狩猟大会に出ても基本的に殺生することはない。やむを得ない事情がある場合を除いて、むやみに命を奪うことはない。毛皮の類いも所持していない。

 ユージンをもてはやすものたちは、動物愛護の精神だと絶賛した。しかし、それをよく思わない人間も一定数いるのは事実だ。相容れることはないので、極力関わりを持たないように避けていた。


「君の腕前を知ったら、みんな度肝を抜くのに」

「ユージン。いつの話をしてるんだ」

「五年前だよ。僕の背後に現れた巨大猪を、君が仕留めてくれなかったら、今、僕はこの場にいないからね」

「大げさだって」


 ユージンがいうように、まだ十三歳だった頃も、こうして狩猟大会に参加したことがある。子どもの猪を狩られたことに激怒した母猪は、たまたま近くにいたユージンの背後を狙って襲ってきたのだ。その猪の額を狙って矢を放ち、見事に仕留めたのがニエルだ。その日の中でも、一番大きな獲物だったが、狩猟が得意だと知られると後が面倒なので、兄のアルノーが仕留めたと嘘をついた。


「あのとき、父が爵位と領地を君に与えると言ったのに、『そんなつもりで仕留めたんじゃないです』って、走って逃げちゃったんだよね」


 声真似までされて居心地が悪くなる。アイアンズ公爵から、男爵の爵位を与えられそうになり怖じ気づいたのは本当だ。ガルフィオン伯爵は父だが、ニエルは伯爵でもなんでもない。優秀な兄がいるので爵位を継ぐつもりもない。大飯食らいの放蕩息子でいるつもりだ。

 本来ならば、爵位は国王と女王だけの権限だが、この世界では公爵や侯爵ならば爵位を与えられるという。さすが乙女ゲームの世界観だ。


「おまえの家は、みんな大げさなんだよ」

「そんなことないよ。嫡男を助けたんだからね」

「でも、俺が動かなくても誰かが撃ったと思うけどな。大人もいたし」


 子息が怪我をした場合は、主催の責任になるため警護や見回りは強化していた。


「それでもいいんだ。僕は君に救われて嬉しかったからね」

「もう、さすがに聞き飽きたって!」


 爵位と領地を辞退した代わりに、バターペアという貴重な梨をもらった。瑞々しい甘さが引き立つあの味は、五年という歳月が過ぎても忘れられない。それほど美味だった。

 狩猟大会に出ても、動物に矢を放たないよう心がけているため、やることがなくて暇だ。一人でいると、狩猟の心得を延々と語りたがる厄介者ばかり寄ってくるので、なるべくユージンと共に行動していた。


「そうだ。来週の鍛練は、久しぶりにアーチェリーにしようか」

「いいけど、今回も決着つかないんじゃないか?」


 半年前にもアーチェリーで対決したが、どちらも的を外さないので最終的にはじゃんけんで勝敗を決めた。毎度そうだ。まだ幼い頃はニエルの方が上手かったが、ユージンは秘密裏に練習したのか、それともメインキャラというチートが発動したのか、めきめきと上達した。今では互角の実力だ。


「それはそれで楽しいよ。僕は君と遊べるならなんだっていいんだ」

「ユージンが退屈しないならいいけど……」

「するもんか」


 獲物を探すふりをして今後の予定を立てていた。そんな二人の元へ、遠方から一本の矢が放たれた。ビュンと風を切る音と共にこちらへ向かっているのが見える。


「まずい!」


 咄嗟にユージンを庇おうと前方に出たところ、物陰にいた護衛騎士のフランクがさっと姿を現し、勢いのあった矢を剣先で弾いた。


「お怪我はございませんか。ユージン様、ニエル様」

「フランクさんのお陰で、俺もユージンも無傷だよ。ありがとう」

「ご無事でなによりです」


 フランクに助けてもらった礼を告げている最中、ユージンに腕を引っ張られた。


「ニエル。どうして君は、真っ先に僕をかばうんだ」

「無意識に動いちゃうんだよ。仕方ないだろ」


 メインキャラであるユージンを守るために、標準スキルとして染みついているのかもしれない。これが初めてではない。


「僕ではなく、自分の身の安全を第一に考えてほしい」

「はいはい。なるべく気をつけるよ」

「この次破ったら、問答無用でキスするから」

「えっ!? わ、ばか、フランクさんに聞かれたらどうするんだ……!」


 至近距離で待機しているというのに、真顔でそんなことを言い出したのでニエルは焦った。フランクは微動だにしないが、絶対に聴こえているはずだ。恥ずかしい。


「僕と君の会話に聞き耳立てないよ」

「そうだとしても、人前ではやめろ」

「人前じゃなければいいの?」

「い、いいよ!」


 売り言葉に買い言葉。勢いのまま返事をしてしまった。けれど、この場合はやむを得ない。

 ニエルはユージンの婚約者ではあるが、婚約者は他にもいる。しかし、キスしたことが知られてしまうのはさすがに気まずい。できることなら誰にも知られたくはない。

 早まっただろうかと後悔しつつも、狩猟大会は滞りなく終わった。

 矢を誤射した人物が優勝し、誤射の謝罪で、獲得した獲物をすべて貢がれそうになったが、そちらは丁重にお断りした。毛皮を作るつもりはないので、狐や狸の類いを押しつけられなくてよかったと安堵した。

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