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この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!全年齢版  作者: ゆずまめ鯉


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11/17

十一・仮面舞踏会にて

※軽いキス描写があります

※苦手な方はご注意ください


 秋も深まると、仮装パーティーの誘いが必然的に増えてくる。収穫を祝うとともに、悪霊を追い払うという行事を兼ねているためだ。あちらこちらで開催されている。

 ニエルと兄のアルノーは、両親が懇意にしているブレンダン侯爵家の仮面舞踏会に揃って招待されていた。忙しい両親の代わりに毎年出席している。


(ブレンダン侯爵家の料理長がふるまうローストビーフサンドは、小麦粉からこだわって手作りしているから絶品なんだよな)


 提供される軽食を毎回楽しみにしている。異性と交流することを諦めたわけではないけれど、どうせ相手にされないことは変わらないので食事目当てと割り切っている。

 ばっちり用意できたので、兄と共に会場へと向かった。入場前に入念な身体検査を受ければ身分を問わずに参加可能だ。原作のヒロイン、イリーナも友人に誘われ顔を出していた場所でもある。


「ニエル。挨拶したい人がいるから、ちょっと席を外すよ」

「うん。行ってらっしゃい」


 巨大なホールだというのにさっそく知人を見つけたらしきアルノーと別れ、ニエルは会場内をぐるりと見渡した。


(……ユージンだ)


 参加することは知っていたが、一人ではなく仮面をした令嬢二人をエスコートしていた。おそらく婚約者の侯爵令嬢に違いない。左右の腕に彼女らが掴まっている。


(婚約者とは手も触れたことがないなんて、やっぱり嘘じゃん)


 婚活ダンスパーティーと知らずに参加し、拗ねられた一件を思い浮かべる。本気にはしていなかったが、実際、エスコートしている姿を目にしてしまうとどういうわけか面白くなかった。それに、胸や腹の辺りがもやもやしてくる。昼に食べた揚げ物で、胸焼けしたのだろうかと首を傾げた。

 それと同時に、自分を熱心に口説いてくるユージンを他人にあてがいたいなら、むしろ好都合では、とも考えが至ってしまう。望ましいような、望ましくないような、どっちにしろ胸中複雑だった。

 そんなニエルの背後に、忍び寄る人影が一つ。


「やあ、こんばんは。ニエルくんじゃないか」

「…………」

「ニエルくんだよね? 僕にはわかるよ!」


 変態の属性がついてしまったスクール時代の先輩エリオットに、まんまと見つかり声をかけられてしまった。関わりたくないので知らんぷりする。ニエルが無視をすれば、するほどエリオットを喜ばせてしまうため、それもどうかと思うがやむを得ない。

 ついこの前、ユージンにこってり絞られたはずなのに、懲りていないようだ。いちいち相手にしないと決めたので、視線を逸らして素通りすることにした。

 エリオットがいるので軽食は一旦諦めて、一先ず中庭に避難することにした。広々とした中庭は、芸術方面に長けたブレンダン夫人が、計算して草花を配置しているため見応え抜群だ。そんなニエルの手を取ったのは、先ほどまで令嬢と一緒にいたユージンだった。


「ニエル。どこに行くの」

「中庭。先輩がいるから逃げなきゃ」

「それなら、僕も行こうかな」


 ユージンも、エリオットからは逃げたいらしい。手を引かれるまま中庭まで移動した。


「……令嬢の相手はいいのかよ」

「僕の役目は終わったよ」

「え?」


 急にいなくなったユージンを心配しているに違いない。そう思って気遣ったのに、想像とは異なる返事に二度見する。

 役目は終わった、ということは令嬢たちはもう帰ったのだろうか。いや、帰っているならば家まで送るか、会場の外まで見送るはずだ。けれど、姿を見かけてから、それほど経っていない。ニエルは首を傾げた。


「そういう君はどうしてここにいるの。誘われ待ちだった?」

「誘われ待ちってなんだよ。ブレンダン侯爵の誘いは断れないって、お前も知ってるくせに。兄さんと来たけど、はぐれたんだ。夫人に挨拶したら帰るつもりだった」

「……僕がいなかったら、どうなっていたことか……」

「はあ? どうもならないって」


 いつもの調子で突っかかれてはいるが、心なしかしつこい気がした。毎年参加していることを知っているのに、ちょっとした八つ当たりのようにも感じる。それほどまでに、エリオットに絡まれてほしくないんだろうかと考えていると、ふとニエルの眼前が暗くなった。眩しいくらいの外灯があるのに、どういうわけか遮られた。


(……え?)


 ユージンが一歩前に出たので、やけに距離が近いなと顔を上げた束の間。なぜか、唇と唇とが触れてしまった。前世でも今生でも、今まで誰とも経験したことのないキスだ。味わったことのない感触に、戸惑ったニエルは目を見開く。


(なんだ……これ!)


 咄嗟に離れようとしたが、背中に腕を回され阻まれてしまった。それだけでなく、どさくさに紛れて抱きしめられてしまった。逃げたいのに逃げられない。


「ゆ……ユージン!」


 動揺している隙に、舌を差し込まれそうになり、さすがにそれはダメだと胸を押し返すとようやく解放された。ゆっくりと唇が離れてゆく。この唇と口づけしてしまったのだ。一瞬のうちに頬がカッと熱くなり、恥ずかしさに襲われる。居た堪れなくなる。

 とりあえず、一言文句を告げようとしたところ、ユージンに先を越されてしまった。


「引かれると思って抑えていたけど、君はすぐ誰かに連れ去られそうになるから、もう少し態度に出すことにした」

「え?」

「君は、僕が本気だとは思っていないようだからね」


 図星を突かれてしまった。自分はあくまでも、ヒロインであるイリーナ・アルハインが登場するまでの代役だ。BLゲームではない。だから、ユージンが口説いても、本気ではないだろうと高をくくっていた。

 彼女が、どうして十二年経っても姿を現さないのか。接点の少ないモブのニエルが調べるには限界がある。ユージンも、イリーナが目の前に現れれば、こちらなんて見向きもせずに、そっちに好意を抱くことをニエルは知っている。知っているのだ。


「だって、お前は勘違いを――」

「ニエル。僕にキスをされて、どう感じたのか考えてほしい。嫌悪感はあったのか、なかったのか。それ以上のことを望んでいることも知ってほしいんだ。婚約者に君を選んだのは、ほかでもない僕だから」

「で、でも」

「お願いだ、ニエル」

「……はあ。わかったよ」


 ユージンが、恋をする相手は自分ではない。それを本人に伝えたいのに、伝えられない。なぜなら、ニエルは異世界転生者だからだ。ユージンが、誰と恋をするのか知っているのは、この世界でニエルしかいない。


(どうすればいいんだ……)


 最善を尽くしてきたつもりだったのに、足りなかったのだろうか。それとも、方法を間違えてしまったか。

 家まで送ってくれるというのでブレンダン夫人に挨拶し、ローストビーフサンドを土産にもらってから帰宅した。

 念願のキスだったというのに、あろうことか同性のユージンに奪われてしまった。


(あの顔に迫られて、逃げられるヤツなんているのか……?)


 嫌悪感を抱かなければならない場面だったのに、呆気に取られてそれどころではなかった。エリオットに迫られたときは、鳥肌が立っていたというのに、だ。

 ヒロインであるイリーナが、ユージンとキスをする場面は、当然ながらあそこではない。噴水公園にユージンを呼び出し、イリーナが一生懸命に告白すると、返事の代わりに口づけしてくれるのだ。雨上がりの夕暮れという、ロマンチックなムードの中、唇が重なるのが本来の初キスシーンになる。

 ユージンの好感度が、そこまで上昇しているとは想定していなかった。生憎、ヒロインではないので好感度は見られない。

 その夜、ニエルはぐるぐる思考を巡らせなかなか寝つけなかった。

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