十二・気まずい食事会
あまり眠れないまま迎えた翌日。なんとも言えない気まずさを感じながらも、本日はユージン主催の食事会に招かれているので、遅れないよう身支度を整えて出発する。兄のアルノーも一緒だ。
到着するなり事前に用意していた手土産を渡すと、「気を遣わなくていいのに」と言われてしまったが、礼儀を重んじるよう育てられているので聞き流す。
「弟だけでなく、私までお招きいただき恐縮です」
「食事会といっても身内しかいないので、気を楽にしてください」
「ありがとうございます」
案内されたテラス席には、すでに沢山の料理が並べられていた。ユージン以外に、アイアンズ夫妻が席についており、座るように促された。広大な領土を視察するために、普段はあちらこちら忙しく飛び回っている二人が揃っているのは珍しい。数年振りだ。
(昨夜、そこにいる息子からキスされたばかりなのに、その翌日に親に会うとか気まずすぎるだろ!)
今すぐ帰りたくなるところを必死に堪える。並べられた料理はどれも出来立てで美味しそうなのに、食欲が湧くだろうかと心配になる。
「遠慮しなくていいからね。ほら、これ好きでしょ? こっちもあるよ」
「あ、ああ、うん」
好物のローストビーフだけでなく、海老や鮪、鮭を贅沢に使ったちらし寿司、鶏を丸ごと揚げていたり、香ばしい匂いのするトマトとバジルのピザがあったり、ほろほろとした牛肉入りのボロネーゼやパンナコッタ、ティラミス、無花果が用意されていた。どれもこれもニエルの好きなものばかりだ。ユージンが誰をもてなしたいのかがひと目で伝わってくる。
緊張していることがばれたらしく、給仕係りを制したユージンは、ニエルの目の前に置かれた皿に、次から次へと料理を取り分けてくれた。お礼を言いながら口にした。
「ニエル。ここにないもので、なにか食べたいものはある?」
尋ねられてふと考える。旬真っただ中の無花果も気に入っているが、一つ浮かんだので素直に答える。
「そうだな……旬はとっくに過ぎたけど、枇杷かな。この国ではあまり見かけないから」
ニエルの返答を耳にしたアイアンズ夫妻と兄のアルノーは、一瞬、動きを止めた。そして三人は感嘆の声を漏らす。
「まあまあ」
「おやおや」
「なんと」
(あれ、正直に答えたらまずかったのか!?)
質問されたから無難に答えた。ただそれだけなのに、テーブルマナー的には問題だったのだろうかとニエルは頭を悩ませる。
「わかった。僕が必ず用意するから待っていて」
「え? う、うん」
ただなにも考えずに答えただけなのにな、と驚きながらも食べる手は止めない。
そんな中。傍に仕えていた給仕が、レタスや紫玉ねぎ、コーン、ツナ、海老などが入ったサラダをユージンの皿に盛りつけた。そこには、細切りにされた人参も入っている。ユージンは、幼少の頃から生の人参が苦手だ。ニエルは、無意識のうちにその人参を自分の皿に移した。ユージンの苦手なものは、好き嫌いの一切ないニエルが食べている。二人にとっては自然なやり取りだったのだが、それを見ていた兄のアルノーは目を細めた。
「君たちはお似合いだね」
「え?」
ニエルには、その意味が理解できなかった。
「いつでもいらしてちょうだい。ニエルさん、それからアルノーさん」
「私たち家族は、君たちが来ることをいつでも歓迎しているよ」
「あ、ありがとうございます……」
ユージンだけでなく、その両親からも実の息子のように親切にしてもらっている。有り難く思う反面、後ろめたさを感じていた。本来ならば、この場にいるべき人間はニエルではないからだ。
(……この人たちを、がっかりさせたくないのにな……)
せっかく腹いっぱい食べただけでなく、手土産をもらったというのに落ち込みそうになった。兄に心配させたくないので、それ以上考えるのをやめた。食後の運動がてら歩いて帰った。




