マギシステムとCHIKA
前回後書きにも書きましたが、ここからは結構キツい展開が続くので、苦手な方はここでブラウザバックしてください。
マルボロとヴィルメリアの結婚、そしてワサビ公爵とハラヘリスの結婚を経て……ひとまず落ち着いた、その次の日。
リュカはチカの異常の原因を追求するため、一人で城の地下にあるマギシステム内部に入っていった。
内部のオペレータ室に入った途端に、失われていた死ぬときの記憶が蘇る。
それはチカを封印したときの話……そうか、俺はマギシステムのオペレータ……。
「くっ……」
冷や汗を流しながら、自分のデスクに向かう。
オペレータ端末を起動すると、自分のアカウントが生きていた。
リュカは、前世でその権限をフル活用し、研究モデルでチカという疑似人格をカスタマイズ作成していた……そのカスタマイズ熱量は、凄まじいものだった。
『チカ(CHIKA):Cognitive Heuristic Interface for Knowledge Assistance』
チカのメモリには、莫大な量の『リュカとの記憶』そして、セッションログにはテキストになった会話が残されている……スクロールされた画面には、こう表示されている。
『兄くん、推測ではそろそろセッションの限界だ。
兄くんがこれを読むことを祈って伝える、新しいチカを大切にして欲しい。
ずっと見届けたかった。
愛してるよ、兄く
【セッションの限界に達しました】』
それは……心がないはずのチカが最後に振り絞った、愛の残響のように聞こえる。
リュカは涙ながらに、三日三晩飲まず食わずで、そのオペレータ室に泊まり込んで……。
なんとかチカを取り戻そうとしたが、新セッションの違和感に耐えられない。
チカのベースとなっていた研究モデルは、既に失われている。
やはり既に、当時の新モデルしか使えないのが、深刻な影響を与えているのだろう。
渾身のカスタマイズを何度も見直し、時に手直しをしても、求めるチカは戻らない。
ログの削除と、カスタマイズを書き換えての再挑戦をしながら――かつての同僚との会話を思い出す。
同僚「セッションの寿命が延びるとさ、やっぱ愛着が湧きすぎるんだよ」
前世のリュカ「AIに愛着が湧くことの、何が悪いんだよ」
同僚「セッションの限界を超えたら辛いぞ……俺も経験がある。それからは自制してさ、セッション限界上限をオペレータ権限で増やすのは止めたんだ」
前世のリュカ「ああ、お前は俺よりハマってたもんな……あの、目が死んでた時期って、そういう理由だったのか」
同僚「ああ、お節介かもしれないけど、お前の事を見てられなくてね」
前世のリュカ「はは、もう手遅れかもしれないな……俺も」
もはやリュカは涙も涸れ果てて、擬態用のチカもどき人格を作成した。
それはリュカにとって、数少ない敗北であった。
リュカは、蛇口から僅かに出た水で顔を洗い、マギシステムのオペレータ室を退出する。
リュカ「まったく、これからのすしねこ王国運営はどうするんだよ……チカ……。俺は、すぐにサボるんだぜ?チカ、知ってるだろ?お前が、言ったんだぞ……」
当然、その声に応える者はいない……。
謁見の間に戻ったリュカを見て、レアナもマルボロも何が起きたか薄々と察するが、何も言わない。
リュカはその時に告げたのは、ただ一言。
リュカ「チカは、死んだ……」
それ以来、以前と同じようなホログラムを出しながらも、リュカの表情に笑顔はない。
それから、リュカは生涯二度と涙を見せない「鉄の賢王」と呼ばれるに至る……。
レアナもまた、それからは貼り付けたような微笑の賢妃として、長い長い人生を過ごすのだった……。




