第25節 狸親父を縛り付ける鎖 ~ハラヘリスとかいう懐かしい名前~
時は少し遡る。
ヴィルメリアが『王家の要請』として呼び出された時の謁見の間――
ヴィルメリア「すしねこ両陛下、ご機嫌うるわしゅう」
リュカ「なんか、こうして真っ当に敬意を表してくれる人って珍しいよな……」
レアナ「さて、突然呼び出してごめんなさいね。私の失言で、マルボロがカレー公爵に迷惑を掛けそうなのよ……どうにか食い止めてきてくれない?」
ヴィルメリア「かしこまりました。どのような手段で?」
リュカ「あまりヴィルメリアには伝えたくないが、この際仕方ない。マルボロは廃嫡されてから、カレー公爵の養子になろうとしている」
ヴィルメリア「まあ……それでは話がこじれる一方ではございませんか」
レアナ「カレー公爵に後継がいなかったと、私が勘違いしちゃったのよ。命律端末で確認したら後継がいたのよね」
リュカ「すまない、私たちの不手際の尻拭いをさせる形になってしまうのだが、引き受けてくれないか?」
ヴィルメリア「かしこまりました、では失礼します」
そうして、夕日の光が入ってくる頃にマルボロが戻ってきた。
マルボロ「ヴィルメリアに最悪のシナリオを提示されました!父上をなんとか止めなければ……私には耐えられない!」
レアナ「うーん、そんな物かしらね?リュカ、私のことどれくらい愛してる?」
リュカ「ん?当然、世界で一番だぞ?今さら何を聞いているんだか」
レアナ「私たちが引き裂かれそうになったら?」
リュカ「お前を殺して俺も死ぬ!」
レアナ「重いわよ!っていうか、私たち幸せよね……」
レアナもなんだかんだ、満更ではない顔をしている。
マルボロ「私は不幸の真っ只中ですよ!助けてください!」
レアナ「ところでリュカ、チカのことはどう思ってるの?」
リュカ「うーん、チカには言えないけど、なんか賢い娘くらいに感じてるな」
レアナ「私も言えないし言わないけど、似たようなものね……」
リュカ「緊急時以外は呼び出すな、というチカのメッセージがあるから呼び出してないけど、一旦マギシステム内部に入ってみる必要はあるかな」
レアナ「そうしてあげなさい」
マルボロ「それより、ワサビ公爵の爵位!だから言ったでしょう!私は反対だと!」
リュカ「いや、知らんがな」
リュカとしても、こんな方向に話が転がるとは思ってもみなかったので、八つ当たりをされても困るのだ。
マルボロ「うう、父上に毒を盛ったところで何も解決しない……正直、ヴィルメリアの案を飲むのが一番にすら感じてしまう!」
レアナ「そのヴィルメリアの案、ってどんなことなのよ?」
マルボロは泣きそうな表情で、ヴィルメリアのワサビ公爵との白い結婚、なんらかの手段でワサビ公爵の力を削ぐこと、従妹に爵位を譲った後はミネストローネ侯爵邸で過ごす案だったことを話す。
リュカ「ってか、そんなに複雑な話かぁ?」
レアナ「マルボロ、迷走してるわよね」
マルボロ「このままでは……ヴィルメリアと結婚できない!」
リュカ「まず話を整理するぞ?ミネストローネ侯爵家は後継が危ぶまれたが、令嬢を養子に取る方向で一旦収束……だから、ミネストローネ侯爵も消極的反対なんだろうな?」
レアナ「そこにワサビ公爵が養子とかいう話を持ち出すから……ミネストローネ侯爵も困り果てているんでしょ?爵位的に直接は言えないけど、要するに話の元凶はワサビ公爵!そこに、マルボロがカレー公爵の養子になる?ミネストローネ侯爵を放置するのかって話になるわよ!」
リュカ「要するに、ワサビ公爵をその地位に留めるか、いっそ言い分を聞いてマルボロが爵位を受け継ぐかすれば、万事落ち着くわけだな?」
マルボロ「さすがに、公爵になるのは、荷が重すぎます。かといって父上を押しとどめる?それこそ無茶な相談ですよ」
情けないマルボロである。
リュカ「じゃあ、ミネストローネ侯爵とヴィルメリアに迷惑をかけるのを、よしとするのか?」
レアナ「っていうかさ、公爵位くらいどうってことないでしょ?マルボロなら」
リュカ「まあ、ワサビ公爵を公爵に縛り付ける案……あるにはあるがな、ただ正直気が進まない」
マルボロ「リュカ陛下!それはどのような案ですか⁉」
レアナ「まあ、リュカの考えてること、なんとなく分かるわよ?地位に貪欲な後妻を持たせろ、みたいな話でしょ?」
リュカ「まあ……そういうことだ。そんな女性を義母と呼ぶのは、マルボロとしてもキツいだろうが」
マルボロ「いえ――心当たりなら、あります!私の従妹は、礼儀作法こそなっていないものの、父上にとても懐いていて、だから養子の件について懐柔できたのです」
リュカとレアナは、マルボロが全く立ち直っていない混乱にあることを把握した。
リュカ「なぁ、マルボロの従妹ってことは、ワサビ公爵の姪に当たるだろ?それ、駄目なやつじゃないか?」
レアナ「命律端末、応えて」
命律端末「はい、なんでしょうか?」
レアナ「男が姪と結婚するの、アウトよね?」
命律端末「はい、血が濃くなりすぎるため、三等親における傍系血族の婚姻は禁止しております。直系ですと六等親まで禁止です」
リュカ「聞いての通りだ、マルボロ案は却下だな」
マルボロ「そ、そんな……」
レアナ「かといって、ミネストローネ侯爵家にこれ以上負担を掛けるのもねぇ?養子候補の令嬢は、軒並み性格がいいという評判だし、あの狸親父に差し出すには惜しすぎるわ」
リュカ「マルボロ、カレー公爵を呼んできてくれ」
マルボロ「……かしこまりました」
そうして、とぼとぼとカレー公爵の元に向かうマルボロ。
レアナ「どうするのよ?」
リュカ「カレー公爵なら、未亡人のアテくらい、あるんじゃないかと思って」
レアナ「あー、確かにね……だけど、ワサビ公爵がそんな婚姻を飲むのかしら?」
リュカ「相手次第だよな、ワサビ公爵を縛り付ける、魅力のある女性……?」
マルボロは、カレー公爵を連れて謁見の間に戻ってきた。
レアナ「ねえ、カレー公爵。ワサビ公爵をその地位に縛り付けられる女性に、心当たりはないかしら?」
リュカ「年頃の未亡人あたりが良いかと思ったんだが」
カレー公爵「未亡人は確かに幾人か心当たりがございますが、ワサビ公爵をその地位に引き留められるかと聞かれると……正直、厳しいでしょうな」
レアナ「未亡人という条件でなくてもいいわ、行き遅れでも」
カレー公爵「一応、一人だけ心当たりがございます。ただ、不敬に当たるかと思いましてな」
カレー公爵は、目を泳がせて額の汗を拭く。
気のせいか、カレー公爵の頭髪が寂しくなってきている……。
リュカ「不敬?そんな女性の心当たりはないぞ?」
カレー公爵「陛下の義姪であらせられる、ハラヘリス・ヴァルミエ子爵様でございます」
レアナ「懐かしい名前ね!ハラヘリスって、確か地方の食改善に行ってたんじゃなかったかしら?」
カレー公爵「近々全ての地方領地を巡り終えて、王都に戻ってくるとのことです。ハラヘリス様も良いお年頃ですが、婚約については相手方の皆、消極的でございます。その理由が、膨大な食費に起因しているとのこと」
リュカ「よし、あいつなら無限とも呼べる食欲!ワサビ公爵家の財源を食い潰してくれそうだ!」
マルボロ「いや、さすがにそれは勘弁してくださいよ……」
レアナ「あら、ヴィルメリアとの結婚が流れてもいいのかしら?」
リュカ「これは王命だ、ワサビ公爵キャビンとヴァルミエ子爵ハラヘリスが婚姻するよう手配せよ!」
そうして、リュカの義姪であるハラヘリス・ヴァルミエ子爵の帰還まで待つのであった。




