第23節 狸親父のわがまま ~オッサン、自分の年齢考えろ~
レアナはぽつりと言った。
レアナ「ねえ、ワサビ公爵の動きは封じたけど、マルボロは結婚するんでしょ?」
マルボロ「私もそのつもりでいたのですが……後継問題がありまして」
リュカ「どういうことだ?ワサビ公爵家を継ぐのは、マルボロだろう?」
マルボロ「そう思っていたのですが……ミネストローネ侯爵家で問題が起こりまして」
マルボロはため息をつきながら続ける。
マルボロ「元々、ミネストローネ侯爵家はヴィルメリアの兄君が継ぐ予定だったのです。しかし、先日その兄君が馬車の事故に遭い、後継となるのは不可能になりました」
レアナ「え、じゃあどうなるのよ……?」
マルボロ「伯爵時代ならまだ、私には従妹がいるので……従妹を養子に取って、私が婿入りでもよろしいかと思っていたのですが――公爵位ともなると、従妹はマナーの面でいささか問題があり、本人も拒絶しております。ミネストローネ侯爵も消極的ながら反対の姿勢です」
リュカ「ミネストローネ侯爵家にも親族くらいはいるだろう?」
マルボロ「いるにはいるのですが……その、適齢期の男子となると……申し上げにくいのですが、いささか人格に問題があり――ミネストローネ侯爵も、令嬢を養子に取る方向で考えております」
しかし、マルボロの顔は暗い。
マルボロ「父上はまだ公爵位を受け入れられないらしく、ミネストローネ侯爵の養子になると言い出して、ほとほと困っています」
レアナ「ちょっと待ってよ!現公爵が侯爵に養子に入るとか前代未聞でしょ⁉」
マルボロ「ええ、当然ミネストローネ侯爵も内心ではあり得ないと思っているのでしょうが、爵位関係から真っ向反対もできないようで――『私が後継になろうではないか!』『いえいえ、公爵様にお任せするわけにはまいりません』の押し問答ですよ」
リュカ「しかし狸親父にも困ったものだな、ところでヴィルメリアの兄はそんなに悪いのか?」
マルボロ「事故の衝撃で頭を打ったそうで、医者と命律端末の診断では『難治性突発性中二病(RPI-ChuNi)』と呼ぶ不治の病に……おいたわしや」
リュカとレアナは混乱している、いや何だよ『難治性突発性中二病』とは――
レアナ「ねぇ、その『難治性突発性中二病』って一体なによ?」
マルボロ「舞踏会に奇抜な黒の衣装で登場したり、突如『円卓会議を開く』と言っては場を混乱させたりで――ミネストローネ侯爵も諦めざるを得なかったと」
かつて『円卓会議』で、旧ネバリオ王に円卓を用意させたリュカとレアナは、顔を見合わせて苦笑いだ。
リュカ「うーん、それ位なら能力的には問題ないだろう?」
マルボロ「生活も夜行性になり、アメの中で『穢れた魂を、少しだけ洗い流してくれるようだ』と叫んでいたり、領地の森を『魔獣の森』と呼び始めて唐突に狩りに出かけたり……能力は問題がないものの、婚約者も離れて……後継をどうするかという深刻な問題が――」
レアナ「まあ、豪雨の中で叫びたくなる気持ちはなんかわかるわ」
マルボロ「いえ、そっちのアメではなく、舐めるアメの方です」
リュカ「あー、そりゃ婚約者も逃げるわ」
レアナ「ねえ、突発性中二病なのよね?そうでないときはどうしてるの?」
マルボロ「なんでも、病の症状が出ない時にはベッドで、症状が出ているときより苦しそうにうめいているそうです」
リュカ「それは……ミネストローネ侯爵も苦渋の選択だっただろうな、下手をすると屋敷を黒く塗りたくって――闇に堕ちる」
リュカは深刻な顔で告げた。
マルボロ「そもそもですよ?父上が養子に行ったら、ワサビ公爵はどうするんですか⁉私が公爵じゃないですか!」
レアナ「そっちが本音ね」
マルボロ「まあ、私も従妹を半分懐柔して、ワサビ公爵の養子になるのも時間の問題なのですが……父上の反対が厳しく」
リュカ「えっと、整理するぞ?マルボロは従妹を養子にして、自身が婿入りしようとしている。だが従妹の件も婿入りの件も、立ち塞がっているのがワサビ公爵、ということだな?」
レアナ「さすがに王家は、家の問題にまで立ち入れないわよ?」
マルボロ「ええ。ですから、私の廃嫡狙いが妥当かと。そして後継のいない貴族家に養子にしてもらい……」
リュカ「それ、受けてくれる貴族はいるのか?」
レアナ「そういえば、カレー公爵って後継がいなかったわよね?」
レアナの話に、目を光らせるマルボロであった……。




