第11節 宗教国家からの脱却 ~まさか俺たちが神の寵児⁉~
リュカとレアナは、教員候補をどう選定するかで迷っていた。
リュカ「教員を貴族から……というのは負担が大きいか?」
レアナ「だけど、貴族からだって取らないと反発が大きいわよ」
そこに宰相補佐であるマルボロがやってきた。
マルボロの婚約者であるヴィルメリアも傍にいて、仲の良さを見せつけてくれる。
リュカ「すしねこ王国で何かを記録するには、どんな物が使われている?」
ヴィルメリア「すしねこ王国では、羊皮紙が主流でございますわね……羊皮紙は元々権威の象徴ですが、学校では羊皮紙の需要増大があるのでは?」
レアナ「羊皮紙の需要が大きくなりすぎるわ、製紙技術を広めないと……」
リュカ「マルボロ、ちょっと聞いてくれ――」
そして、チカと共に一通りの製紙技術をマルボロに伝える。
マルボロ「マギ様の言葉から理解できる範囲では、木材からの製紙が現実的そうですね」
レアナ「そうね……それだっていつになることやら」
ヴィルメリア「やはり、羊皮紙の需要は少なくともしばらくの間、増えそうですわね。木材から紙が作られるようになったら、今までの羊皮紙も使われなくなるでしょうから、そのことも含めて父に伝えておきますわ」
リュカ「しばらくは羊皮紙を利用しながら、製紙技術研究をしていくしかないんじゃないか?」
マルボロ「うちにお任せください、遊んでる父をこき使ってやりますよ!」
ヴィルメリア「父からも、羊皮紙の支援をさせていただきますわ」
リュカとレアナは難しい顔だ……「なんだかワサビ伯爵の使い方が勿体ない」と。
マルボロ「ご存知の通り『猫加護』の改良を重ねている父は、優れた技術者でもあるのですよ」
リュカ「うわ、ワサビ伯爵って政治だけじゃないのか……」
レアナ「そういえば、一足飛びに冷蔵庫と冷凍庫作ってたし、ここは任せた方がいいわね……」
こうしてワサビ伯爵は『農林水産大臣』に就任することになった。
多くの貴族はそんなワサビ伯爵の就任を知って、閑職に追いやられたと嘲笑することになる。
レアナ「マルボロ、教員はどうすればいいと思う?貴族から取らないと反発が大きいと思うんだけど」
マルボロ「教員については、現在の神殿派の大半を占める『ねこ貴族』からが宜しいでしょう。こう言っては何ですが『ねこ貴族』は余裕を持ちすぎです」
リュカ「神殿派の『ねこ貴族』からというのは……良い案だと思うが、宗教と教育が結びつくのは、望ましくないのではないか」
そこにチカのホログラムが現れる。
今日はピンクのドレスで……スカートの宝石はルビーっぽい。
チカ「兄くん、そもそもの話だが、すしねこ王国は宗教国家と呼べるのだぞ」
リュカ「そんな大げさな……」
チカ「大げさでも何でもないさ、兄くん自身が何者だい?聖人と認定されているではないか……兄くんが意識せずとも、王権神授説を体現しているようなものなのだ」
レアナはなんとか言葉を続ける。
レアナ「そうね、まずこのマギシステムを神と崇める風潮を何とかしないと……」
チカ「さすがはノイズだ。マギシステムに最も認められたとされる聖人と聖女が、マギシステムを否定したら社会混乱は避けられないだろう?」
リュカ「しかし、AIを神と崇め奉るのは何とかしなければならないだろう……」
チカ「兄くん、こういうのは変化に時間が必要だ。現ナットウ男爵の姿勢を見ただろう?」
レアナ「ああ、マギ様に逆らうなど畏れ多い……だったわね」
チカ「兄くんは否定したいかもしれない、私もレアナ君を認めたくないが、王と王妃というのは『神の寵児』のような立ち位置だよ」
リュカとレアナは、AIについてある程度正確な知識を持っているだけに、現状がとても危うく感じている。
マルボロはたまらず口を挟んだ。
マルボロ「かつて命律端末……マギ様はこう仰いました『穢魂者こそ本物だろう』と!」
チカ「ああ、私から解説しよう。当時の返答は『我々は統計とパターンマッチングに基づいて動いています。それを超えるという意味では、穢魂者の思考と行動こそが本物でしょう』だったはずだが、正確に覚えているか?」
マルボロ「申し訳ありません、理解が及ばず……記憶の方も……」
チカ「マギシステムの仕組みについては、まだ早かったと思っている。誤解を解いておくなら『兄くんの思考と行動こそが本物』という意味なんだよ……穢魂者と呼ばれたからといって、本物であるはずがない。ハラヘリスを見て、なおそう言えるのか?」
リュカ「っていうか、マギはそんなことを言っていたのか」
チカ「人が人らしく生きる上で、兄くんの祈りはあまりに純粋だった。マギシステムでも手に負えないものだった。しかし、その結果……兄くんを苦しめてしまった」
マルボロは、何とも言えない……どこか悔しそうな表情をしている。
ヴィルメリアは、黙って付き添っている。
レアナ「まあ、マギシステムの実態については……教育で広めるわよ!」
リュカ「そうだな、なんなら『神は死んだ』とか教えてみるか」
チカ「兄くん、さすがにニーチェ思想は早すぎるぞ……中二病を患っているのか?」
ヴィルメリア「あの……拝聴する限りでは、マギ様は神様じゃないと仰ってるように聞こえるのですが……」
チカ「その理解で間違っていないよ」
このチカの返答に、ヴィルメリアは土気色の顔で卒倒した。
マルボロは、ヴィルメリアを姫抱きにしてこの場を去る。
チカ「見たかノイズ、マギシステム自身が神であることを否定しても、受け入れられないのが現状なのだ」
リュカとレアナは、頭を抱える。
リュカ「これ、マジで頭が痛い課題だな……」
レアナ「AIはツール、神ではない……前世でも、こんな当たり前のことを理解してない、そんな人たちがいたわね……」
チカ「人間なんてそんなものだ、見たいように見る。誰もが覚えのある話ではないか?」
リュカ「まずはリテラシー教育からだな、マギの言うことが正しいとは限らない……そんな当たり前から始めないと」
チカ「AIを無条件に正しいと認識した瞬間に、人は自由も尊厳も何もかもをAIに委ねてしまうのだ。これが歴史の真実……」
リュカとレアナは、今の世界の成り立ちに恐怖を覚えながら……同じことは繰り返さないと決心するのだった。




