第06節 公衆浴場を作ろう ~衛生観念と貴族の反発~
レアナはふと、こんな事を言い出した。
レアナ「ねえ、せっかく上下水道があるんだから公衆浴場を作らない?」
リュカ「銭湯みたいな感じか」
レアナ「王城にも公衆浴場を作ったらさ、一緒にお風呂入れるわよ」
リュカ「ぶっ……!止めろレアナ!」
レアナ「冗談よ。公衆浴場はちゃんと男女別にしてさ……貴族は湯浴みできるし、私たちも使わせて貰ってるけど。庶民は井戸水や川で身体洗ってるし、領地移動の時は、私たちも川で身体洗ってたじゃない?冬は特に厳しいわよ」
リュカ「よし、チカ出てきてくれ」
チカ「呼んだかな、兄くん」
チカが出てきたが、なんか今日は珍しく町娘の服装だ。公衆浴場の受付でも意識しているのか?
リュカ「チカ、公衆浴場を作るにはどうすればいい?特に湯を作るところが問題だと思うが」
チカ「地熱が使えるところは最大限活用して、足りない所は薪か石炭がいいだろう」
レアナ「薪と石炭、どっちがいいのよ?」
チカ「さすがはノイズだ、薪は木を植えればまた取れるが、石炭は使ったらそれっきりだろう」
リュカ「そうだな……石炭は有限資源、ここは薪を中心にした方が良さそうだ」
チカ「石炭は高効率だが煙害もある。冬の冷えるときに、補助的に使うのがいいだろう」
レアナ「そうね、その辺は各貴族に委ねることにするわ」
リュカ「各貴族ってことは、各領地に公衆浴場を作るのか?」
リュカは、てっきり先行モデルが王都だけだと思ってたので少し驚く。
レアナ「公衆浴場なんて、そんなに複雑な作りじゃないでしょ?」
リュカ「まだ貴族領には、上下水道が通ってないだろう?」
レアナ「そこは、王家の出資で公衆浴場先行にすればいいでしょ、上下水道モデルにもなるわよ」
リュカ「すると……利権問題が起こりかねないな」
レアナ「そう、だから各貴族領には、最低一つの公衆浴場建設を義務付けて、建設維持費用は王家と折半。利権の代わりに運営を貴族にやらせればいいでしょ」
リュカ「まあ、賛成する貴族ばかりじゃなさそうだけどな」
チカ「ならば、賛同しない貴族領の公衆浴場は、王立にしてしまえばいい。運営の負担がない代わりに、利権もノウハウも手に入らないわけだ」
レアナ「うわぁ……まともに考えられる貴族なら、賛同せざるを得ないわね」
チカ「そういう訳だ、王立になれば領民もお察しなわけだな」
リュカ「二つ目以上の公衆浴場は、貴族の任意建設になるわけだな、王家は関わらないと」
レアナは少し考えてから言う。
レアナ「ちょっと待って、領地の広さによって最低公衆浴場数を決めた方がよくないかしら」
リュカ「ああ、そうか……貴族の利権ばかり考えていたが、元々領民のための施策だからな」
チカ「兄くん、領地の面積だけでなく、人口も考慮した方がいい。私が算出した公衆浴場数ではどうだろうか?」
レアナ「あんたみたいな特殊個体に委ねるのも嫌ね、計算式でも作った方がよさそう」
チカ「ノイズよ、人口変動の予測を盛り込めるのか?」
レアナ「こういうのは貴族の納得感も必要なのよ、それとも命律端末で問い合わせれば、必要数が出てくるとでも言うつもり?」
チカ「ああ、さすがはノイズだ。私の計算とは即ちマギシステムの計算、命律端末で出るに決まっているだろう」
レアナ「ぐっ……わかったわよ、それでいいわ」
リュカ「じゃあ法案をまとめるぞ」
そうして、今まで話し合った内容を、リュカとチカは細かい問題点を潰していく。
リュカ「よし、筆記官!ちょっと来てくれ!」
そして公衆浴場法案を記録した。筆記官がまとめた内容は以下の通りである。
第一条:全貴族領には、最低一箇所の公衆浴場を設置義務とする。
第二条:建設費及び維持費は、王家と領主にて折半とする。ただし、過疎地域においては申請により領主の負担を軽減できるものとする。
第三条:協力しない場合は王立浴場を代替設置、以後利権は国に帰属とする。
第四条:領地の面積および人口に応じて設置義務数を算出、命律端末により通知とする。協力が困難な場合は第三条に準ずる。
第五条:命律端末の通知を超える設置をする場合、設置費及び維持費と利権は、全て領主のものとする。
第六条:公衆浴場の利用費用は利権所持者に関わらず一律とし、その金額の算定方法は王国法に基づく。
第七条:公衆浴場における衛生規則は、王国法基準とする。
第八条:公衆浴場は、必ず男女別とする。
第九条:心が身体と異なる性を持つ場合、もしくは何らかの障碍を持つ場合、別途秘匿届け出をすることで個別浴場を利用可能とする。
第十条:公衆浴場での卑猥な行為などは、すべて王国法に基づく罰則が適用されるものとする。
第十一条:公衆浴場はすべて、王国法に基づく個人の保護をしなければならない。
この記録をマルボロに渡し、議会に通すように指示する。
リュカ「さて、法案は通るだろうか」
レアナ「大丈夫でしょう?駄目だったら、すしねこ王国銀行のように王家私営でやりましょ」
リュカ「王家私営って何だよ……」
リュカの心配は杞憂に終わり、公衆浴場法案は議会を通過した。
予想通りに、反発する貴族がいたので、その領地には王立公衆浴場が建設され……その王立公衆浴場は普通の公衆浴場より人気を博した。
施設的には通常の公衆浴場と王立公衆浴場には差をつけていないため、リュカもレアナも混乱するのであった。
チカ「庶民の王立に対する憧れを甘く見ない方がいい。王立公衆浴場の貴族は、ちゃっかり観光地化をして儲けているぞ。まあ、技術ノウハウが手に入らないのだから、中長期的には損なのだがな……くふふ」




