第05節 水道と融資の分岐点 ~マルボロ・ブラック~
舞踏会までの時間も、別にリュカとレアナ達は遊んでいたわけではない。
貴族の取引金額から、マルボロはおおよそのアルミニウム必要量、加工に必要な部屋の広さを見積もった。
カレー侯爵(宰相)がワサビ伯爵に指示を出して工員を手配し、遂にアルミニウムが世に出ることとなった。
評判は上々だ。
「なんと軽いのか……これで金貨袋の搬送が不要になるのか」
「これが『小切手』というものか、王国紋章の神々しさよ……」
「さすがは賢王様と賢妃様だ……」
リュカは「うーん、銅を上水道管に使うために銅貨を廃止したかっただけなんだがな……」と思うのだった。
リュカ「なあ、レアナもチカも聞いてほしいんだけど、上水道と下水道、どっちを先に整えるべきだ?」
レアナ「私としては上水道優先がいいわね……でも、それじゃ下水でコレラの危険があるか……」
チカ「兄くんの質問の答えになっているかは不明だが、同時進行がいいだろう……ただし、現実はそう甘くはない」
リュカ「まずは上水道かと思ったが、そうしたら下水処理が悲惨になることに気づいてしまった、そうかコレラ……マルボロ、いるか?」
マルボロ「はい、なんでしょうか?」
リュカ「水道事業は、王都を先行モデルとして整えても大丈夫だと思うか?」
マルボロ「ああ……銅貨を集めていたのは、上水道事業のためでしたよね?問題はないかと」
レアナ「でもさ、王都先行になったら、他の中央貴族や地方がうるさくない?」
マルボロは黒い笑いをした。
マルボロ「なに、文句を言うような輩には……水道事業のために更に融資をさせればいいだけですよ?これだけ道路工事が進んでいる中、人材が集まるかどうか、ふふふ」
リュカ「ちょっと待て、こっちも融資の金貨が尽きたぞ!」
マルボロ「そこは両陛下のご決断次第でしょう。私有銀行から中央銀行にすれば、王国財政からも融資させる金貨を出せます……というか、あるみ証書があれば、実物の金貨すら必要なくなりますよね?」
レアナ「ねえ、なんか一足飛びに金本位制から信用経済に移行しようとしてない?」
リュカ「いや……ギリギリ、アルミニウムが希少価値を持っているから……」
チカ「これからの文明発展次第の話だな。電力が発明されれば、ホール・エルー法も名前を変えて広がり……アルミニウムの価値は暴落する」
リュカ「うわっ、無茶苦茶綱渡りじゃねーか!」
リュカは顔面蒼白になって叫ぶ。
レアナ「落ち着きなさいよ……まだ『電気』すら知られてないでしょ?」
チカ「兄くん、『電力』に関する情報を封印しようか?」
リュカ「……いや、それはよくない。文明発展は国民に任せるべきだ」
レアナ「はぁ、これだからリュカは……」
チカ「まあ心配することはあるまい、上下水道事業が終わってから、やっと水車で水力発電の目処が立つだろう……風車も今のところは気にすることはない」
リュカは恨めしそうに言う。
リュカ「チカ……まさか分かってて、この体制を作ったんじゃあるまいな?」
チカ「兄くんは、サボれる時にはサボってしまうからな、愛の鞭だよ」
レアナ「なんでリュカの話に、私まで巻き込まれてるのよ……」
リュカ「それも王妃の仕事だと思ってくれ……チカよ、下水道の設置にはどうすればいい?」
チカ「銅は上水道に使うんだろう?そう考えると、下水は陶が無難じゃないか?」
しかし、リュカもレアナも難しい顔だ。
リュカ「あんまり複雑な構造にはしたくないな」
レアナ「ねえ、陶って割れたりしないの?」
リュカ「あのトイレの便器みたいな奴だろ?確かにちょっと不安なんだよな」
レアナ「そもそも生活排水とトイレの排水をごっちゃにするのが良くないんじゃない?この世界じゃ肥溜めに使ってるんだし」
チカ「生活排水を地表の側溝で処理、といったところかな?」
リュカ「そうだな、としたらぼっとん便所はひとまず後回しにできる……元々の目的が最後になってしまうのが悔しいが。上下水道、ただし下水道は生活排水中心で……こちらは石材中心の陶併用、なんとかなりそうじゃないか?」
レアナ「いいと思うわよ、ただ側溝って子どもが落ちたりしないかしら?」
リュカ「石材でなんらかの蓋を作って、転落防止をすればいいだろう」
リュカはスッキリした顔で言う。
リュカ「では同時進行で、まずは銅貨廃止の令を出す。そして上水道の為の酸化銅管の作成と配管。また王都で手が空いてる者に生活排水の下水道を作ってもらおう」
マルボロ「かしこまりました。王都以外の貴族が何か言ってきたら、たっぷり吹っかけてやりましょう」
チカ「地理については任せてくれ、兄くん。滞りなく水が流れる経路を算出しておこう」
レアナ「酸化銅管の作り方も頼むわよ」
チカ「チッ……ノイズに水をさされた」
レアナ「また舌打ちとノイズ呼ばわり!これでもれっきとした王妃なのよ⁉」
そしててんやわんやの中で、銅貨を回収して上水道の配管を行い、生活排水の下水道も目処が付いた。
ちなみに、銅貨廃止と同時に手放した者達は、銅の値上がりに地団駄を踏んだが……そもそも大量の銅貨を蓄えてる人もいないので、大きな問題にはならなかった。
実際、銅貨を記念に持っていた人は、銅の値上がりと共に銀行に引き取って貰おうとした……が、もう二度と手に入らない銅貨を惜しむ金額しかつかなかったのだ。
多くの庶民は、今まで自分達が使っていた銅貨が溶かされ上水道管に使われている事を、誇らしげに語るのだった。
庶民は、目の前の仕事に明け暮れ、豊かさを享受していた。




