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第03節 マルボロとの対話 ~ワサビ伯爵を使いたかった~

 サファイアで彩られたスカートの青いドレスを着た、チカが唐突に言い出した。


チカ「兄くん、以前貨幣を『金・アルミニウム・銀』の序列にしないかと言ったことを覚えているか?」

リュカ「もちろん。それがどうしたんだ?」

チカ「アルミニウムの重量が軽すぎるんだ、説得力がないかもしれない。また、アルミニウムは王国独占技術に位置することにも留意した方がいい」

レアナ「要するに、何が言いたいのよ」

チカ「序列を『アルミニウム・金・銀』にしないかという提案だよ」


 レアナは首をかしげている。


リュカ「歴史的には確か『金・アルミニウム・銀』でよかったよな?」

チカ「ナポレオン三世の話か?あれはアルミニウムは金より上だった説の方が有力だな。で、序列をそのようにして、アルミニウムを板状の信用貨幣とするのだ。刻印などは簡単だが、そもそも精錬済みアルミニウム自体が稀少だから何とかなるだろう」

レアナ「偽アルミニウム貨幣対策は?」

チカ「アルミニウム自体の価値は、今の社会では極めて高い。さっき兄くんが言ったとおり、最低でも銀より上なのが現状だ。そもそも貨幣偽造は重罪だぞ?」

リュカ「しかし、いずれ銀行も整えていかないとな……」

チカ「なに心配はいらないよ兄くん、基本的なセキュリティはマギシステムでよろしくやっている」

レアナ「ねえ、マギシステムって私の知ってるAIとは遠く離れてるんだけど……」


 ひとまずセキュリティは脇に置いて、リュカとレアナも一考している。


リュカ「確かアルミニウムは加工が簡単だったよな?」

チカ「兄くん、そうだよ。だから金銭が絡む契約書としてアルミニウムを使う、という方向も考えられる」

レアナ「イメージとしては、小切手代わり?」

チカ「そういう使い方も考えられる、その時は王国の紋章の刻印を金で入れればいいだろう」

リュカ「この想定だと、アルミニウムの錬成量も少なくて済むな……希少性も保てる」

チカ「さて……兄くん、どうする?まずはアルミニウムの錬成か?」

リュカ「いや……今の話を聞いて、やることができた」

レアナ「アルミニウム加工の場所と、あとは中央周辺の銀行で使われている『証書』の金額と量かしらね」

チカ「さすがにノイズの言うことは違うな。『証書』全てを置き換える必要もあるまい、高額の取引に限定した方がいいな」


 そして、リュカはマルボロを呼び寄せた。


リュカ「マルボロ、アルミニウム加工工場をひとまず一件建設。そして、すしねこ王国銀行での貴族の取引を一覧にまとめるよう伝えてきてほしい」

マルボロ「かしこまりました」


 そこにレアナが待ったをかける。


レアナ「ちょっと待ってリュカ、アルミニウムは加工が簡単なのよね?」

リュカ「ああ、精錬さえすれば……その辺の町工場でも十分だろう」

レアナ「だったら、信用のためにアルミニウム加工は……せめて中央周辺の場合、ひとまず王城内でやった方がよくない?」

チカ「兄くん、ノイズに同調するのは少し癪だが……私も同意見だ」

リュカ「ということだ、工場の建設ではなく、王城内にアルミニウム加工室を確保してくれ」

マルボロ「かしこまりました、広さはどの程度必要でしょうか?」

リュカ「ああ、そうか……すしねこ王国銀行での証書一覧が来てから決めよう。しまったな、銅貨も少しずつ引き上げさせるべきだった」

マルボロ「そちらはご心配なく、既にすしねこ王国銀行での両替で銅貨保有量が増えております。あとは正式な銅貨廃止への告知をするだけです」

リュカ「それは中央だけの話か?」

マルボロ「いえ、地方も既に準備が整いつつあります。両替手数料として地方でも銅貨回収が進んでいますね」


 リュカは「もうマルボロが王でいいんじゃないか?」と思いながら声を掛ける。


レアナ「神殿の方に睨みを利かせているのは、ワサビ伯爵だったわよね?」

マルボロ「父は既に神殿から一歩引いております。ヴァルミエ公爵家に逆らえる家など……ありませんからね」


 ふと、気になったことをマルボロに聞く。


リュカ「ところで、煙草の方は上手く行っているのか?」

マルボロ「両陛下の即位により、王宮派と神殿派が合併した形になりますので、もはや中央周辺では……よほど事情がない限り『猫加護』を取り入れていますね。下手をすると『叛意あり』と見做されるのが現状です」

レアナ「ねえ、ワサビ伯爵は辣腕だし……一歩引いたのなら、遊ばせておくのはもったいないわよ」

リュカ「そうだな、外務大臣か財務大臣あたりに就いてもらうかな」

マルボロ「その……申し訳ないのですが、辞退させて頂けませんか?」


 想定していなかった、辞退したいという言葉。


レアナ「ねえ、もしかして爵位の問題じゃないかしら……伯爵になりたてなのに『猫加護』の総本山、面白く思わない貴族もいるわよ」

リュカ「あー、そっかぁ……この王国の名前からして、ワサビ伯爵領の名産『寿司』と『猫加護』が入ってる『すしねこ王国』だしな」

レアナ「とりあえず今回は引いた方がいいわね、ワサビ伯爵との癒着が疑われるわ」

リュカ「本当に惜しいな……何とかならないかな」

マルボロ「父も、そのお気持ちだけで報われるでしょう。父はどちらかというと裏方を好みますから」


 ひとまずワサビ伯爵キャビンの話は打ち切って、マルボロの話に移る。


レアナ「ところで、マルボロに婚約者っているの?」

マルボロ「いえ……お恥ずかしい話ですが、未だ婚約者もいません。その件で神殿近くの宿にいたのが、両陛下に初めてお目にかかった時ですね」

リュカ「おい、ちょっと待て!それって俺たちが、婚約者探しを邪魔したってことにならないか⁉」

マルボロ「いえ、神殿派に接触するつもりもなかったので……形式だけですよ、ははは。確かに、お慕いする方はおりましたが……」

レアナ「その人とはどうなったの⁉」

マルボロ「一目見るだけで満足でした、今やその方も既婚者ですから……幸せそうでしたし、もう出る幕はありませんね」

リュカ「おい、それってもしかして……」


 マルボロは顔を伏せている、ああ……マルボロの想い人は、レアナだったのか。


マルボロ「今までは父も子爵だったので、お相手探しも難航していましたが……父によると、今では婚約打診も結構来ているようですよ。父のお眼鏡に適う女性でしたら、温かな家庭を築けるでしょう」

リュカ「そうか、応援しているぞ……」


 空気がシンミリしてしまったな。

 今後は、マルボロの前でレアナとイチャつくのは控えようと思うリュカ。


マルボロ「それに、今や『社会的有害性フラグ』が立ってますからね、その方」

リュカ「おい、それって……」

マルボロ「はい、宿屋の女将です」

リュカ「俺の、なんとも言えない感傷を返せぇぇっ!」

マルボロ「何を仰ってるのかわかりかねますが、あの時の『猫加護』の一晩はどうでしたか?」

リュカ「そうだ、レアナと散々毛を繕い合って『一目見るだけ』なんて話じゃねぇぇっ!」


 リュカは頭を抱える。


レアナ「ねえリュカ、もしかして私のことだと思ったのかしら?」

リュカ「ああ、そうだよ!悪いか!」

レアナ「マルボロの目を見ればわかるでしょ、あくまで私を聖女として見て、リュカとの仲を暖かく見守っていたわよ」

マルボロ「そうですね、聖女解放派閥だった我々がレアナ様をどうこうなんて話……起こるはずがありません。というか、あの宿での一件を見て……一気に女将への気持ちも冷めました」


 レアナは、軽く首を傾げながら言う。


レアナ「マルボロってもう結構いい年齢よね?婚約者打診っていっても、結構厳しいんじゃないの?」

マルボロ「はい、確かにもう私も十五歳……少し厳しい年齢かもしれませんが、同年代から少しターゲットを広げれば、案外いるもんですよ」

リュカ「え⁉マルボロって俺たちと同い年だったのかよ、その身長に雰囲気……すっかり騙されていた……詐欺だ」

レアナ「確かに私も、実家に売られたとは言え、それまでに婚約の話はなかったわね」

リュカ「俺にも、婚約者の話はなかったな」

マルボロ「やっぱり子爵嫡男と伯爵嫡男だと、世間の扱いが違いますね。子爵嫡男の時代だと、最悪平民でもという話が上がっていまして」


 確かに、煙草だけが名産の子爵と、寿司や『猫加護』を持つ伯爵では雲泥の差だろうと、リュカもレアナも思った。


マルボロ「あ、そろそろすしねこ王国銀行から報告書が来るでしょう。それでは失礼します」


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