第26節 賢王リュカと賢妃レアナ ~王家ってこれで回るのか~
聖爵という地位がなくなった。
元々聖人聖女の為に用意された爵位だったので当然なのだが。
それに伴い、銀行も「グラタンディア王国銀行」と改名された。
そして、リュカが王として即位し、レアナが王妃となった。
すなわち、レアナと結婚したということだ……描ききれないほどに、盛大な式だった……。
何だよミーソ汁の滝とか、納豆巻きが降り乱れる結婚式とか……盛大だけど意味不明な結婚式だ。
前王ネバリオは今後、ナットウ男爵として生涯を過ごすらしい……それでいいのか前王よ?
リュカ「しかし、この王の衣装……落ち着かないな、王ってのも実感が湧かないし」
レアナ「私なんて、聖女時代より煌びやかな服よ……なによこの宝石だらけのドレス」
レアナの胸には、以前からアレキサンドライトのネックレスが輝いていた。
どうやら、亡き母の形見らしいが……そのためレアナのドレスは、アレキサンドライトまみれである。
ネックレスだけだと昼と夜で色が変わり美しいと思っていたが、ドレスに沢山ある宝石は正直ケバい。
リュカ「王宮人事も思い切ったよなぁ」
レアナ「宰相をクビにして後任にカレー侯爵、補佐にワサビ伯爵令息……神殿派との確執はどこに行ったのよ」
リュカ「まあ、ワサビ伯爵が王宮派のナンバーツー兼ねこ貴族ナンバーツーだから……ギリギリ面目は保っているか」
レアナ「外務大臣にラーメン伯爵を推そうとしたけど、なんでも領地復興に専念したいとか」
リュカ「そしてヴァルミエ家が公爵に陞爵(しょうしゃく――爵位が上がること、ここではヴァルミエ侯爵から公爵になったことを意味する)かぁ……王家に連なるなら、当然といえば当然かもしれないな」
呑気に話してるように聞こえるが、リュカ王もレアナ王妃もあまりの変革に僅かに震えている。
そんな気持ちを払拭するために出した話題が……。
レアナ「ノヴェルム伯爵は生涯禁固刑よ」
リュカ「ホント他人事のように語るなぁ、仮にも血が繋がった父だろうに」
レアナ「実際、前世の記憶が戻って、神殿に売り渡された時点で……もう父とは思ってないわよ」
リュカ「そういえば、大神官や神官達は鉱山送りだって?」
レアナ「いい気味よ」
リュカ「そうそう、今後は穢魂者と呼ばれる者があらわれないようにしたって?」
レアナ「当然よ!『起動して』の一言で手に入る命律端末を、手に入れられない方がおかしかったのよ!」
リュカは無礼な神官達のことを思い出し、レアナ王妃はノヴェルム伯爵のことも思い出して、精神安定剤とするのだった。
リュカ「おい、俺相手なら良いけど、公務の時間は慎めよ」
レアナ「わかってるわよ」
リュカ「しかし王って何すればいいんだろうな、賢王の後継とか宣伝されてるけど」
レアナ「王太子教育も王妃教育もなかったわね」
リュカ「グラタン教育はあったけど、あれはグラタン食べただけだしなぁ?」
レアナ「謎が多いわね、グラタンディア王国……」
リュカ王もレアナ王妃も困惑しっぱなしである。
リュカ「そういえば、厨房はネバリオ前王に比べて食事が少ない事を気にしてたな」
レアナ「あんな胃袋ブラックホールと比べられてもねぇ?」
リュカ「あの時ほど、ハラヘリスの胃袋に感謝したことはなかったな」
レアナ「納豆巻きはデザート派の私でも、さすがに三十人前とか無理よ!」
そこに、宰相補佐になったマルボロ・ワサビ伯爵令息がやってきた。
マルボロ「ご機嫌うるわしゅう、両陛下」
リュカ「止めろってマルボロ。しかし王になると、ワサビ伯爵領に行けないのが辛いな」
レアナ「ああ、お寿司食べたい……」
マルボロは、この言葉に瞳を輝かせる。
マルボロ「そんな両陛下に朗報です!鮮魚を王宮に運ぶ目処が立ちました!」
チカ「兄くん、きっと必要だと思って、冷蔵庫と冷凍庫の技術をワサビ伯爵家に伝えておいたぞ!発電機の原理は伏せたままだ」
リュカ「ナイス!チカ!」
レアナ「やるじゃないチカ」
マルボロ「鮮魚だけ持ってきましたので、炊飯して寿司飯を作ってとお時間はかかりますが」
寿司大好きっ娘のレアナ王妃、狂喜乱舞する。
レアナ「やったわ!ヒャッホー、これで寿司が食べられるわ!」
リュカ「今からだと、夕食かな?」
マルボロ「いえ、昼食には間に合わせます!」
リュカ「さすがマルボロ……」
レアナ「っていうか、何よこの忠誠心」
マルボロ「聖人様と聖女様が王家に入ったともなれば、もはや近隣諸国を含めて最高の地位のお方ですから!当然です!」
さらに宰相であるカレー侯爵がやってきた。
カレー侯爵「なんでも、聖人様聖女様のおかげで、中央全域に寿司を広められるようになったとか……」
レアナ「私たちは、何もしてないわよ?」
謙遜に聞こえるかもしれないが、本当に何もしていないリュカ王とレアナ王妃たちだった。
リュカ「ところで、カレー侯爵は大丈夫なのか?」
カレー侯爵「なに、我が領はカレーの聖地ですからな!劣化品を輸出する方が問題ですぞ」
リュカ「さすがカレー侯爵だ、カレーの価値を正しく理解している」
カレー侯爵「ははは、カレーは調味料と料理人さえいれば、どこでも作れますからな!」
レアナ「それもそうね。ところでラーメン伯爵、ウドン男爵、ソバ男爵は?」
カレー侯爵「それがですな、ラーメン伯爵が麺連邦に加わり『麺大連邦』となったのですよ」
この言葉に衝撃を受けたリュカ王とレアナ王妃。
リュカ「ちょっと待て!なんでそんな重大な話が私の元に上がってない!」
カレー侯爵「些事ですからな」
リュカ「っていうか、連邦から大連邦?独立するのか?」
カレー侯爵「ただの領地合併です、ですから些事ですと」
レアナ「ねえ、なんか私たちお荷物じゃない?」
リュカ「……うん、俺もそう思っていたところだ」
マルボロが口を開いた。
マルボロ「ところで、ラーメン伯爵が『ひやしちゅうか』なる物を開発したと」
リュカ「ああ、ラーメン伯爵領の復興のため、良いように使ってくれ」
マルボロ「かしこまりました」
リュカ王は基本的にマルボロに丸投げしているだけなのだが、それが結果を出しているのだから『賢王リュカ』の名が轟き渡っていた。
レアナ「ねえ、冷やし中華も食べたいわねぇ……」
リュカ「そうだな、ちょっとお願いしてみるか」
侍女「かしこまりました!」
そうして、夕食には冷やし中華が出るのであった。
レアナ「美味いけど、カラシあった方がいいわよね、お願い」
マルボロ「かしこまりました、ひとまずは厨房のカラシで」
このような一声で、冷やし中華の味が上がるのだから『賢妃レアナ』の名も同様に轟き渡るのだった。
リュカ「なんだか、冷たい物ばかり食べていたからか……本格おでん食べたいな」
マルボロ「それは……夏にも関わらず、冷やしおでんではないということでしょうか?」
レアナ「夏の熱々おでんもいいわね!」
マルボロ「かしこまりました」
翌朝には、上級メイド達がおどおどしながら熱々おでんを出してきた。
リュカ「夏に熱々おでんも風流だな!」
レアナ「そうね!卵もしっかり味が染みてる!」
リュカ「はんぺんも食ってみろ、これ凄いぞ!」
レアナ「後でね!今はちくわぶ食べてるの!」
そうしておでん鍋を空っぽにしたことで、上級メイド達は心底安堵したのだった。
これを聞いたマルボロは、夏に熱々おでんの提供を指示したという。
オデン子爵は、その売上げに驚愕した。
まさか夏でも需要があったとは、と膝をついたという。
ここまでやると、王家の財政を傾けるのでは……という疑問を抱くかもしれない。
しかし、リュカ王とレアナ王妃は所持している金貨のみで、これら食卓を実現していた、できてしまっていた。
なんせ日本円換算各一億円である、これを全額食費に充てたら、当然一生分賄えるだろう。
むしろ前王ネバリオの『毎食納豆巻き三十人前』より廉価だったのだから、誰も文句を言えない……否、言う理由がない。
その上、両陛下の食事により、税収増加すら見込まれるほどであったとさ。




