第23節 依存と回復とラーメンと ~ラーメン伯爵領再生篇~
問題児ハラヘリス・ヴァルミエ子爵――いつの間にか子爵になっていた――を連れて、ワサビ伯爵領の納豆巻き祭りに向かう途中、ラーメン伯爵領に入った。
幸い、リュカとレアナの名で、ハラヘリスの出禁は解除された。
ハラヘリス「なあ、なんか嫌な臭いがするんだが?」
リュカ「なんだって?ハラヘリスなら、ラーメン伯爵領に来たら、喜ぶと思ったんだがな……」
レアナ「ねえ、ハラヘリス……それは全部の店?」
ハラヘリス「いや、一部の店だぞ?ほとんどの店からは、美味しそうな匂いがする」
レアナ「ねえ、これ……ハラヘリスの言う『嫌な臭いがする店』をリストにして、ラーメン伯爵に伝えた方がいいと思うわ」
そこにチカのホログラムが現れた、なんかまた年齢上がってる?
チカ「やあ兄くん。私には知覚がないから、正確な判断はできないが……ハラヘリスの言葉は無視できないぞ」
リュカ「どういうことだ?」
チカ「ハラヘリスは純粋に食欲で動いている、すなわち食以外の何かが動いている可能性があるということだよ」
リュカ「わかった、まずはその店をピックアップして、ラーメン伯爵に報告だな……」
そうして、ピックアップした店は……軒並み豪華なラーメン店舗だった。
レアナ「もうほとんど確定でしょ、こいつらラーメン伯爵領で食い荒らす麻薬売人よ」
リュカ「まあ、俺だってそう思う……早速ラーメン伯爵に伝えに行こう」
ラーメン伯爵邸に向かうと、なんだか以前より屋敷が寂れているように見える。
屋敷保持を後回しにして、領民のために金貨袋二十個の支援を使っているのだろう。
聖爵ということで、ラーメン伯爵との面会はすぐに叶ったのだが……。
ラーメン伯爵「やはり、あの店どもは薬物を利用していたようだな……あまりに不自然な売上げなので、こちらも警戒はしていたのだが、全く根拠がないことにはな……」
ハラヘリス「嫌な臭いはするし嫌だけど、俺なら!変な薬なんかにやられないぞ!」
リュカ「いや……ハラヘリスの能力を疑う訳じゃないけど、本当に大丈夫なのか?」
ハラヘリス「俺は美味しい物を沢山食べたいだけだ、不純物を混ぜてるなら指摘できるし……なんなら、どこにあるか教えようか?」
ラーメン伯爵「頼む、徹底的に暴いてくれ!」
リュカ「証拠はどうするんですか?」
ラーメン伯爵「騎士団を突入させて、後で掴めばいいさ」
ラーメン伯爵は怪しい笑いを浮かべる。
レアナ「それ、冤罪だったらどうする気なのよ……」
ラーメン伯爵「なに、その時はネバリオ王に握りつぶして貰うさ……なんなら冤罪でも構わん……」
リュカ「うわ、ラーメン伯爵……黒い……」
そんなこんなで、ラーメン伯爵領に巣食っていた、薬物入りラーメンは撲滅された。
ハラヘリス「やったー!これで嫌な臭いがなくなった!」
レアナ「待ちなさいハラヘリス、まだラーメン伯爵に、無料試食官としての話を通してないでしょ!」
ラーメン伯爵は笑いながら言う。
ラーメン伯爵「無料試食官として、ハラヘリス子爵様は来てくださっていたのか!どうか、我が領の立て直しをお助けください!」
レアナ「ラーメン伯爵……ハラヘリスに食べさせると、伯爵領が傾きますよ」
ラーメン伯爵「なに、我が領でも『グルメランキング』が出来上がれば、その程度どうとでもなる!」
リュカ「おい、ラーメン伯爵は大丈夫なのか?」
レアナ「あんまり大丈夫には見えないわね」
ハラヘリス「よっしゃわかった、いつものアレだな!任せとけ!」
そうして数時間後……ハラヘリスが戻ってきた。
もちろんリュカとレアナは必死に止めようと駆け回って探したのだが、無駄足であった。
ハラヘリス「全店舗、全メニューを制覇してきたぜ!」
リュカ「マジでそれは止めてくれ……」
レアナ「まあまあリュカ、一応これも公務でしょ?ネバリオ王から必要経費として出るわよ」
ラーメン伯爵「ナットウ男爵から伝えられているからな、ネバリオ王なら必要経費を出す、そう確約を得ている!」
リュカとレアナは複雑な気持ちになった……ああ、ラーメン伯爵は『ナットウ男爵=ネバリオ王』を知らないんだ……と。
ラーメン伯爵「おお、これはありがたい……判断に困っていた店の情報も数値化されている!」
リュカ「そうですか……ところで捕縛した、大手ラーメン屋はいいんですか?」
ラーメン伯爵「当たり前だ!違法薬物を使ってる店が領内にある、そんな噂が広まる前でよかった!」
レアナ「それならいいんですが……」
リュカ「まさか『シャブ』だったんじゃないだろうな?」
そこに、チカのホログラムが現れた。
チカ「安心しろ兄くん、使われていた薬物は『大魔』だ……『シャブ』ほどの依存性はないはず」
リュカ「それでも、客からの反発は出ないのか?」
チカ「正直、その可能性はある。ただ、ラーメン伯爵の対策でどうとでもなるだろう。その程度の依存性だ」
レアナ「なんでチカはそんなに、依存性に詳しいのよ……」
リュカも首を傾げたくなる、なんでマギシステムはこんなに依存性に詳しいんだ。
チカ「またノイズが……まあ仕方がない。依存性が最も凶悪なのは、ワサビ伯爵領の『煙草』だぞ」
リュカ「え、そんなに煙草ってヤバいのか?」
レアナ「もしかして『シャブ』よりヤバい……?」
チカ「ノイズはそんなことも知らないのか、兄くんなら当然知っていると思うが、煙草は依存性だけなら『シャブ』を大きく上回る」
チカは、リュカが疑問を上げていたことをスルーして、レアナだけを攻撃する。
リュカ「なあ……ワサビ伯爵に煙草の生産を止めさせるとか……」
レアナ「無理でしょ。前世で……どれだけの人が禁煙失敗したと思ってるのよ」
リュカもレアナも、少し悲しくなる。
ラーメン伯爵「まあ『シャブ』でなくてよかったよかった、あれは完全違法だからな!」
レアナ「あれ?『大魔』も違法じゃなかったかしら?」
リュカ「いや……『大魔』は条件付き合法なんだよな、だから少ないながらも生産はできる。シャブは生産や所持自体が違法になるんだよ、だからラーメン伯爵も安心しているんだ」
レアナ「その条件って何よ」
リュカ「医療用」
レアナ「この辺の倫理観、マジで前世と同じじゃない……」
リュカはチカに慣れているから不思議に思わなかったが、レアナにとっては不思議らしい。
ラーメン伯爵「よくわからないが『大魔』なら深刻な話じゃないだろう、食べた者を拘束して一ヶ月も監禁すれば大丈夫なはずだ!」
リュカ「さすが異世界、やることがえげつない」
レアナ「だけど、これ位は必要よ……懲罰的にも、医療的にも」
ラーメン伯爵「さて、これらの店の常連達も捕らえよ!」
リュカ「容赦ねぇな、ところで……もしかしてレアナの前世って看護師かなにか?」
レアナ「さあ、どうかしら……?」
この件で拘束された者達は、本物の美味しいラーメンを食べて、無事一ヶ月で『大魔』の呪縛から抜け出したそうな。
言うまでもなく『大魔』とは、前世で『あの植物』と呼ばれていたものと同質のものだった。




