第21節 銀行について考えましょう ~新しい事って設計が難しいよね~
カレー侯爵の言葉を受けて、リュカが答える。
リュカ「細かい話は省くけれど……例えばカレー侯爵領とワサビ伯爵領に銀行があったとする」
レアナ「この二領には、本当に欲しいわね……当然、銀行はグルメロード全体、王宮派の領地全てに欲しいんだけど」
リュカ「で、銀行というのは……たとえばカレー侯爵領の銀行で、俺が金貨を預けて『証書』と交換する。そしてワサビ伯爵領の銀行で、その『証書』を出せば預けたのと同じ量の金貨が手元に戻る。最低限これを押さえておけば大丈夫だ」
レアナ「細かい話は色々詰める必要がありそうね」
そこにチカのホログラムが現れた……幼女姿より少し大人びた印象がある、髪の毛も伸びている。
チカ「兄くんの説明は、原始的な銀行だな?」
リュカ「まあ、最初はこれ位の説明でいいかなと」
チカ「兄くんの説明を補足すると、やがて『証書』そのものが価値を持つようになる。大量の金貨の代わりに『証書』で取引ができるようになるな」
レアナ「いつでも『証書』があれば、金貨と交換できるという『信用』が生まれるからね」
円卓会議の中心は、既にワサビ伯爵の話ではなく、銀行という概念に移っていた。
ネバリオ王もカレー侯爵も、必死に話に付いてこようとしている。
レアナ「この世界は金貨、銀貨、銅貨が貨幣だから……金本位制よね」
チカ「その通りだな。いずれ金貨の絶対量が足りなくなったときは『証書』があれば交換できるという『信用』の体制に移るが、素直に待っていたら遥か未来になるだろうし、今はいいだろう」
リュカ「銀行は『証書』を発行する権限を持っているから、実際の保有金貨量以上の交換証書を発行することすらできる……んだったよな」
レアナ「そうして、銀行は投資をして、更に金貨自体を増やして辻褄を合わせるのよね……ところで利息の話はいいかしら」
チカ「利息の話については、ひとまず銀行が軌道に乗ってからでいいだろう。愛しているよ、兄くん」
そうしてチカのホログラムは姿を消した。
ネバリオ王は深刻な顔をして考え始めた……。
ネバリオ王「あまりに驚きの話ではあった……だが聖人様と聖女様、そしてマギ様まで肯定している以上、これは未来予知レベルの話であろう……」
カレー侯爵「そうですな……ただ問題となるのは、この銀行での金貨移動では?」
ネバリオ王「そこよな……預ける場所、引き出す場所が偏ると、金貨を引き出せないという事態が起こりかねん……」
リュカとレアナはこの言葉を受けて、即座に銀行案を引っ込めようとする。
リュカ「やっぱ銀行は難しいか……じゃあ忘れて!」
レアナ「そうよね、私たちの言ってるのって口学問だし……」
ネバリオ王「否!これほどの話を聞かされて、銀行を作らないなどあり得ない!」
カレー侯爵「ただ、やっぱり金貨との交換というのが……銀行は、少なくとも始めは赤字になりますよね?」
リュカは、納得したように答える。
リュカ「どんな複雑な話かと思えば、なんだそんなことですか。手数料を取ればいいんです、なんで無償にする必要があるんですか」
レアナ「そうね、大金を預ける以上……その管理や護衛だって、結構なコストが掛かるんだし」
カレー侯爵「すなわち、これは国家事業というより……商売なのか?」
リュカ「ゆくゆくは国家事業にした方がいいでしょうね、信用の面でも。ですが、銀行の赤字を避けるためなら、国営でも、手数料を取るのは最低限必須でしょう」
レアナ「利便性の対価として、銀行という商売……あんまり聖女っぽくないかしら?」
ネバリオ王もカレー侯爵も、そしてワサビ伯爵もマルボロも頭から湯気が出そうな勢いだ……。
リュカ「皆さんも、新しい概念に触れてお疲れでしょうから、一旦休憩にしませんか?」
ネバリオ王「そうだな……おーい、全員分のグラタンを用意してくれ、私にはいつもの納豆巻きもだ!」
こうして食事休憩に入る円卓会議だった。




