第20節 忠臣ワサビ子爵の想い ~ところで猫は寿司を食べないよね~
ワサビ子爵に出頭命令が届けられたその頃、リュカとレアナの元にも話が届いていた。
リュカ「マルボロ達が、俺たちに反旗を翻している可能性があるとにゃ?取り込む可能性があるとにゃ?なんだか違和感があるにゃ」
レアナ「そうだにゃ……偶然もあるけど、命律端末から『穢魂者こそが本物』と聞いて、真っ先に駆けつけてきたのがマルボロだったにゃ」
リュカ「ネバリオ陛下とワサビ子爵の対立にゃあ……なんだかおかしいにゃ、現実味がないにゃ」
レアナ「ワサビ子爵って、王家御用達にゃ?納豆巻きまで任されてるにゃ?」
煮干しの粉末入りミルクの飲み過ぎで、リュカとレアナは互いに毛を繕い合っている。
端から見れば、カップルの……度を過ぎたイチャイチャに過ぎない。
リュカ「ここまで露骨に動いてて、ネバリオ陛下に一切の牙を向けていないにゃ。むしろ陛下の足元を整えているようだにゃ」
レアナ「むしろ、ネバリオ陛下が『切れないカード』を切ってるような動きにゃ。これは忠義の暴走に見えるにゃ!」
リュカ「じゃあ、派閥闘争じゃなくて、次代の神殿設計戦かにゃ?まあ、陛下も大変だにゃ」
レアナ「私は、ワサビ子爵領で寿司を食べられれば、それで満足にゃ!」
毛繕いでつやつやになった髪で、二人は王宮に向かう。
そう、ワサビ子爵に提供された、あのキャンピングカーのごとき馬車に乗って。
王宮に到着して謁見の間に入ると、ネバリオ王は王冠を外し、ナットウ男爵の服装で玉座から降り立っていた。
カレー侯爵もまたネバリオ王の側に、立って控えていた。
リュカ「ネバリオ陛下……お座りになって、お待ちくだされば」
ネバリオ王「なに、聖人様と聖女様は公的に『王家と同等』ですからな。そんな方々を見下ろす不敬はできませんよ」
ネバリオ王は笑いながら語るが、リュカとレアナとしては、たまったものではない。
カレー侯爵「どのような席の配置に致しましょうかな?」
レアナ「円卓会議と行きましょう!一度やってみたかったのよ!」
ネバリオ王「あいわかった、今すぐ円卓と椅子を用意させよう」
カレー侯爵「私は、ネバリオ陛下のお側に控えておきましょう」
リュカ「円卓会議!それは皆が対等に話し合う、神聖な会議!カレー侯爵も席についてくれ!」
十四歳や十五歳と言えば、中二病を発症する年齢である。
リュカとレアナもまた、精神的に引きずられ、中二病を発症していた。
ネバリオ王「さて、準備はできたな。キャビン・ワサビとマルボロ・ワサビは別室で待たせている、呼んでこい」
リュカ「わかりました」
カレー侯爵「いやいやいやいや!今のは、侍女への指示ですから!」
レアナ「っていうか、本当にワサビ子爵やマルボロが反逆?違うと思うんだけどなぁ」
間もなく、ワサビ子爵キャビンと嫡男マルボロがやってきた。
円卓会議の席に座り、いよいよ円卓会議が始まった。
ワサビ子爵「このような形では、お初にお目に掛かります。この場では、ネバリオ陛下とお呼びすれば?」
ネバリオ王「やはり、気づいておったか!そなたは侮れん。故に、色々きちんと確認を取らなければならなかったのだ」
ため息交じりに言うネバリオ王。
マルボロ子爵令息「お初にお目に掛かります、ネバリオ陛下。納豆巻きのご厚情、深く感謝しております」
ネバリオ王「なに、あれはワサビ子爵に委ねた方がいいと判断したからにすぎん。ただし、今回の話次第では、それもなかったことに……」
ワサビ子爵「でしょうな、今回の私の動きは、宰相辺りなら『国家反逆罪』として投獄してきても……まあ、やむなしかと」
カレー侯爵「率直に聞くぞ?ワサビ子爵、そなたの真の目的はなんだ?」
ワサビ子爵「愚息から聞いた話では、聖人様こそ本物だという。そして聖人様は神殿派との対立が深刻でしたな」
ネバリオ王「そう、我らはワサビ子爵が神殿利権を狙っていると、そう推測しておる」
マルボロはため息をつきながら言う。
マルボロ子爵令息「父上、だから申し上げたではありませんか!誤解を招く危険性が、極めて高いと」
ワサビ子爵「そこは、陛下に対しても心苦しいところでしたがね……それでも、神殿再編もまた急務。今動けるのは私しかいない、そう判断してのこと」
カレー侯爵「で、その神殿のトップである、大神官の座にでも就きたかったと?」
ワサビ子爵は慌てて否定する。
ワサビ子爵「まさか!いくら『ねこ貴族』が増えたところで、私の爵位は子爵。本気で派閥運営などできませんよ」
マルボロ子爵令息「我々は、聖人様と聖女様のために動いております。神殿のトップには、リュカ様のご実家ヴァルミエ侯爵家がよろしいかと」
ワサビ子爵「政治的トップにはヴァルミエ侯爵ロランティーナ様、大神官にはヴァルミエ侯爵夫人オリビア様。この布陣が、聖人様と聖女様を真に御守りする神殿になるかと」
ネバリオ王「ふむ、一応の言い分はわかった。しかし『ねこ貴族』の影響力は、既に凄まじいぞ?」
そう、もはや王宮派といえど『ねこ貴族』は、今や無視できない勢力なのだ。
口頭でなんと言われようとも「はい、そうですか」とは、受け入れるわけにはいかない。
ワサビ子爵「神殿派も揺れています。そこに取り込むための工作……七割は『ねこ貴族』として懐柔済みです」
ネバリオ王「残り三割はどうする?」
マルボロ子爵令息「各貴族家を回ってきましたが、残り三割はどうしようもない愚物でした」
カレー侯爵「その三割は切り捨てると?」
ワサビ子爵「有害無益な貴族など、神殿派には不要でございます」
ネバリオ王「そうか……てっきり大神官の座を狙っているのかと思って、わしも腹を括っておったわ」
ネバリオ王としては、ワサビ子爵が大神官なら許容範囲だと思っていたので、この結末は肩透かしだった。
ワサビ子爵「大神官は、確かに爵位は関係ありませんが……それでも気にする貴族は多いですよ、特に神殿派では。私どもは、ロランティーナ様のおこぼれさえ頂ければ」
ネバリオ王は、ここで決断した。
ネバリオ王「ふむ……そういうことなら『ねこ貴族』をまとめ上げるにしても、子爵のままでは動きづらかろう。今までも無理をさせたようだな。功績を認めよう『命律端末よ起動しろ』」
命律端末「はい、なんでしょうか」
ネバリオ王「『今日から、ワサビ子爵はワサビ伯爵とする』……『承認しました』これで、ワサビ子爵は伯爵に陞爵(しょうしゃく――爵位が上がること)し、少しは動きやすくなるだろう」
ワサビ子爵改めワサビ伯爵は、深く頭を下げて礼を言う。
ワサビ伯爵「ありがたき幸せ!我が領地で、納豆巻き祭りを開くことにしましょう!」
カレー侯爵は思い出して、ワサビ伯爵に問う。
カレー侯爵「ところで、ショウガはなくても大丈夫なのか?」
ワサビ伯爵「なに、既にショウガの解析は済ませております。今までは、ショウガ子爵を油断させるため、我が領では提供していませんでしたが、万一のことがあってもラーメン伯爵へのショウガ支援は惜しみません」
ネバリオ王「ところで、なぜあそこまで苛烈な対応を取ったのだ?」
勢力が小さい王宮派としては、ショウガ子爵が抜けるのは痛いと判断していたネバリオ王が尋ねる。
マルボロ伯爵令息「それは私から。実は派閥に入る最重要条件『聖人聖女予算』を軽視していることが発覚しました。金額は税収のわずか一パーセント、基本的に『聖人聖女予算』の税率は、五パーセント前後が妥当とされていますよね。しかも、その税収自体が低いのですから」
ワサビ伯爵「私も、形だけの『聖人聖女予算』で大きな顔をする愚物は、名産品があろうと叩き潰すしかありません」
マルボロ伯爵令息「まあ、ショウガ子爵は没落を免れられないでしょうね……試算では、ですが」
ネバリオ王も苦笑いだ。
しかし、カレー侯爵領では『聖人聖女予算』の一時減額を検討しているため、カレー侯爵は顔色が悪い。
ネバリオ王「カレー侯爵よ、なんだか顔色が悪いようだが?」
カレー侯爵「いえ。我が領でのハラヘリス無料試食官、仕事は素晴らしかったのですが、その補填ができず、『聖人聖女予算』の積立額を一時的に減額しなければならないのです。それが気がかりで」
ネバリオ王「言い忘れていたのかのぅ、ヴァルミエ侯爵からの返済金が、ハラヘリス無料試食官の代金となっておる。当然ヴァルミエ侯爵には王家から補填しておるから、つじつまは合うだろう?それでは何とかならぬのか」
このネバリオ王の、きょとんとした発言にカレー侯爵は仰天した。
今まで屋敷で、金貨を厳重に保管していたのはなんだったのだと。
ネバリオ王はなまじ頭が回るために、カレー侯爵は察すると思いこんでいたのだ。
カレー侯爵「聞いておりませんぞ、陛下!それなら、今期の『聖人聖女予算』は、むしろ増額できます!」
リュカ「いや、もう『聖人聖女予算』への積立は増やさなくてもいいよ?一応俺たちも聖爵になったし」
レアナ「もしかしてだけど……聖爵としての収入源として、制度化を進めてきたのかしら」
ネバリオ王「さすがは聖女様、その通りでございます。『聖人聖女予算』はグラタンディア王国を巡っていただくための必要経費なのです」
リュカ「ネバリオ陛下、それは結局王家の権威のためじゃないのか?」
ネバリオ王「とんでもございません!聖人聖女予算から、一定額を聖爵に上納金として、残りをお望みのままに巡っていただく、それが我らの理念です」
レアナ「まあ、いいんじゃない?とりあえずは、お金に困ることはないんだし」
リュカ「擬似的な銀行と考えるか……」
カレー侯爵はここで、目を光らせて聞く。
カレー侯爵「その、銀行というのは?」
本日から一日一回更新とし、日曜日はお休みをいただきます。
完結までの添削貯金が若干心許なくて……本当に申し訳ありません。




