第19節 ねこ貴族勢力の拡大 ~かつ丼に蕎麦やうどんのメニューは鉄板~
聖人聖女解放派閥からのショウガ子爵離脱は、衝撃的な事件だった。
しかし、ワサビ子爵は即座にショウガ子爵に対し「派閥から抜けるとしても、せめてラーメン伯爵とだけは」と頭を下げた。
その日から、ワサビ子爵領の寿司から、ショウガが消えた。
これにより、寿司の売上げが一割減という、無視できない結果が出ている。
ネバリオ王「ワサビ子爵は、一体何をしたいのだ?これでは、ほとんど自爆ではないか」
カレー侯爵「不幸中の幸いとしては、ワサビ子爵が頭を下げて、なんとかラーメン伯爵とショウガ子爵の繋がりを維持したことですな」
ネバリオ王「ショウガ子爵とオデン子爵は、繋がりがなかったよな?」
カレー侯爵「その通りでございます、オデン子爵と縁が深いのはカラシ男爵、そしてワサビ子爵とも仲は良好のようですからな」
ネバリオ王は唸りながらつぶやく。
ネバリオ王「正直、ショウガ子爵は少し扱いづらかったけどな。だが、さすがに派閥から追い出すほどではなかろう。これではマイナスではないか」
カレー侯爵「それがですね、麺連邦での『ねこあげ』人気が凄まじく、派閥全体からすれば、むしろプラスという予測でして」
ネバリオ王「しかし『猫加護』の件があったとはいえ、ワサビ子爵もショウガ子爵と取引を継続してもよかろうに?」
カレー侯爵「これは一つの推測なのですが、敢えて寿司にショウガを出さないことで、他領との経済バランスを取ったとも見えてしまい」
その頃、マルボロは神殿派でありながら、過激な主張には与しないことで知られるカツドン伯爵に近づいていた。
マルボロ子爵令息「……どうですか?かつ丼の濃厚さと、うどんや蕎麦のサッパリした組み合わせは?」
カツドン伯爵「ふむ、なるほど確かに美味しいな。だが、これを紹介する、そなたらの『利』は何なのか?」
マルボロ子爵令息「『猫加護』です。これを屋敷だけでいいので、展開して頂きたいのです」
カツドン伯爵「聖人聖女解放派閥に加わったと名高い、あのヴァルミエ侯爵邸にも展開されている、あれか?しかし、かつ丼と相性が悪いのでは?ソバ男爵とウドン男爵の繋がりは惜しいが……やはり、受け入れることは難しいな」
カツドン伯爵の口調は、どこか否定的な雰囲気が漂う。
マルボロ子爵令息「実は『猫加護』は日々進化を続けておりまして、カツドン伯爵に展開して頂きたいのは最新版――猫の好みを享受しながらも、かつ丼を美味しく頂ける加護です!かつ丼の隣に並んだ『ねこあげ』入りの蕎麦やうどん……御一考ください」
カツドン伯爵「あい、わかった。……確かにな、『猫加護』を展開すれば『ねこあげ』が更に美味しくなる。そなたの言葉を信じ、私も王宮派に転じようではないか」
マルボロ子爵令息「いえ。王宮派が、これ以上力を持つのも現状では危険なのです。ひとまずは『ねこ貴族』として振る舞って頂ければ……『猫加護』の展開、それが私どもの『利』です」
カツドン伯爵の『ねこ貴族』化と『猫加護』接待により『ねこ貴族』の名が広まった。
『ねこ貴族』になりたい貴族が、ワサビ子爵領を訪れ、嬉々として『猫加護』と『ねこあげ』を持ち帰る。
もはや『ねこ貴族』は、神殿派の一大勢力と化したのであった。
ネバリオ王「そうか、ワサビ子爵の狙いは王宮派の乗っ取りと拡大……それなら納得がいくわい」
カレー侯爵「なんだか、それだけではなさそうな気がしますけどね」
ネバリオ王「ふむ、どういうことだ?侯爵よ」
ネバリオ王はカレー侯爵の言葉を一瞬理解できなかった。
カレー侯爵「『ねこ貴族』の中心を占めるのは、カツドン伯爵を中心とした、神殿派中庸の最大派閥ですよね?そこが事実上、ワサビ子爵の傘下となったわけですな?」
ネバリオ王「すると、真の狙いは神殿……大神官の座でも狙っておるのか」
カレー侯爵「極端な敵対がなければ、ワサビ子爵に大神官を任せるのも、あるいはよろしいのではないかと」
ネバリオ王「確かに、ヴァルミエ侯爵自身が、今や『ねこ貴族』と見做されておるからな」
カレー侯爵「しかし、聖人様と聖女様が『ねこ貴族』に下ってしまうのは、かなり手痛いですな。かの『計画』を進めるには」
ネバリオ王「これは、そろそろワサビ子爵に真意を確かめねばなるまいな」
そうして、ワサビ子爵邸に王宮出頭命令が届けられた。
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