第17節 陞爵と『ねこまんま』地獄 ~煮干しは踊り、会議は踊らず~
リュカとレアナは、屋敷でミルクを舐めていた。
オリビア兄嫁曰く『完全食』の、煮干しの粉末入りミルクである。
レアナ「にゃー、煮干しの粉末入りミルクも美味しいけどにゃあ……『ねこまんま』食べたいにゃ……」
リュカ「我慢するにゃ……『ねこまんま』食べ始めたら太るにゃ」
レアナ「そうなのにゃ……だけどミルク飲みすぎも太らないかにゃ?」
リュカ「我慢のしすぎはよくないにゃ、バナナミルクよりは、まだ安心にゃ……」
リュカとレアナは煮干しの粉末入りミルクを舐めているが、ハラヘリスがついに爆発した。
ハラヘリス「もう我慢できないにゃ!『ねこまんま』を食べるにゃ!」
リュカ「止めるにゃハラヘリス!俺たちが保たないにゃ!」
ハラヘリス「知らないにゃ!おーい!『ねこまんま』百人前にゃ!」
そうして運び込まれてくる、膨大な量の『ねこまんま』……。
ドタバタしている所に、ロランティーナとオリビア兄嫁がやってきた。
ロランティーナ「『ねこまんま』じゃないかにゃ!私も食べたいにゃ!」
オリビア「私は煮干しの粉末入りミルクにゃ!」
そうして厨房はフル稼働し、メイド達は必死に『ねこまんま』と煮干しの粉末入りミルクを運び込む。
ちなみにハラヘリスが頼んだ『ねこまんま』は、既に半分くらい消えていた……。
リュカ「ところで、何の用かにゃ?」
ロランティーナ「リュカ……貴族ではなくなることに、未練はあるかにゃ?」
レアナは他家のこととはいえ、呆れの言葉が止まらなかった。
レアナ「にゃにを言ってるんだかにゃあ……ヴァルミエ伯爵家はリュカを追放したり、家に戻したり……やりたい放題だにゃ」
ロランティーナ「愚物の行いは申し訳なかったにゃ……リュカにも謝るにゃ……」
リュカ「別にいいにゃ。というか、もう平民でいいにゃ」
レアナ「リュカにゃん……平民になったら結婚しようにゃ?」
リュカ「まだ若すぎるにゃ?」
などと言っているリュカとレアナは、どちらも頬を紅潮させている。
メイド達は『ねこまんま』と煮干しの粉末入りミルクを運びながら「もう成人してるだろう」と総員、心の中でツッコミを入れる。
ロランティーナ「その件なんだにゃあ……リュカとレアナ様を『聖爵』にするという話が上がってるにゃ」
リュカ「それは、ネバリオ陛下からにゃ?」
ロランティーナ「そうにゃ、非公式だけど侯爵相当にゃ?」
レアナ「それって、私も『聖爵』になれるってことにゃ?」
ロランティーナ「二人とも受けてくれるにゃら、そうなるにゃ」
リュカとレアナは即断する。
リュカ「男爵位はハラヘリスに渡ったしにゃあ……特に損もなさそうだし、いいにゃ!」
レアナ「私の家も没落するにゃ!喜んで受けるにゃ!」
ロランティーナ「わかったにゃ、ネバリオ陛下にもそう伝えておくにゃ。あ、そういう話なら、私も侯爵になるからよろしくにゃ!」
リュカ「何をサラッと言ってるにゃ⁉」
レアナ「リュカ……不憫な子にゃ……」
既に十四歳になったリュカが、同い年の十四歳レアナに慰められるのであった。
一方その頃……宿に残ったネバリオ王とカレー侯爵はというと……。
ネバリオ王「苦労をかけるな、カレー侯爵」
カレー侯爵「いえ、仮にも王宮派の派閥トップですから……これくらいは」
ネバリオ王とカレー侯爵は難しい顔をしている。
ネバリオ王「しかし、ワサビ子爵が読み切れん。特に反旗を翻しているようにも見えないのだが、見方によっては独立派閥を作ろうとしているようにもな……」
カレー侯爵「そういえば、ワサビ子爵は以前『ねこ貴族』構想を、軽口で言っていましたな」
カレー侯爵は思い出したことを、そのまま言う。
ネバリオ王「ああ、あれか。ただの冗談であればよいのだが……本気であるなら、敵対の可能性も視野に入れねばならん」
カレー侯爵「切り捨てないので?」
ネバリオ王「まだ、わしが王であることをワサビ子爵には明かしていないのでな……ひとまず泳がせてみる」
この言葉に驚くカレー侯爵だった。
カレー侯爵「これは驚きましたな、まさかワサビ子爵が陛下の事を存じ上げないとは……」
ネバリオ王「なぜ、わしがワサビ子爵にしたと思ってる?そして、なぜわし自身がナットウ男爵を名乗っていたと思ってる?」
カレー侯爵「……申し訳ございません。信頼と偽装のためかと」
ネバリオ王「もちろん、ワサビ子爵を疑いたくなどない……だから『読み切れん』と言ったのだ、今のところ明確な証拠もない。影もその兆候を一切掴めてないそうだ」
ため息を吐きながらネバリオ王はこぼす。
カレー侯爵「あまりワサビ子爵に影を使い過ぎると、色々と支障が出ますからね……」
ネバリオ王「そういうことだ、心から信じられるのがカレー侯爵、そなただけというのは……なんと心細いことか」
カレー侯爵「ありがたいお言葉ですが、ラーメン伯爵やオデン子爵のこともお忘れなく」
ネバリオ王「もちろん、信じてはいる。だけど『心から』と言えるのは、やはりそなただけなのだよ……」
カレー侯爵「指摘されると、ワサビ子爵がヴァルミエ伯爵に近づいた動きすら、不穏に見えてきますな……」
こうして、宿屋で行われた王宮派の首脳会談は幕を閉じたのだった。




