第15節 ナットウ男爵の実際 ~裏公爵どころじゃない!~
馬車の中で、ナットウ男爵は唐突に語り始めた。
ナットウ男爵「実は、わしは男爵ではないのだ……」
ロランティーナ「いえ、それは見ていれば分かりますが……裏の公爵だと、可愛いリュカから聞いておりますわ」
ナットウ男爵「いや、それすらも世を欺くための情報操作なのだ……」
ロランティーナ「これ以上は聞かなかったことにいたしましょう」
ロランティーナの声は、未だに冷たいままだ。
ナットウ男爵「駄目だ、ここまで話がこじれた以上、せめて聞いてほしい。私は王……『ネバリオ・グラタンディア七世──グラタンディア王家最後の血統にして、発酵の理を継ぐ者』だ、男爵も裏の公爵も、世を欺く身分なのだ……」
オリビア「王様より、煮干しの粉末入りミルクが欲しいにゃ」
ロランティーナ「そうね、もう少し待ってちょうだい……オリビア」
カレー侯爵は、オリビアの反応に驚愕を隠せない。
カレー侯爵「な……ネバリオ陛下の名乗りが、こんなにも軽く流されるとは……」
ネバリオ王「いいのだ、我々は……それだけの事をしてしまったのだ」
ロランティーナ「で、陛下がわざわざ我々に会いに来た……ということですか?」
ネバリオ王「その通り、やっと腐敗した神殿を叩き潰すことができたが……それでも中立派、いや正確に言おう。神殿派は、未だ相当数にのぼる」
ロランティーナ「まあ、うちの愚物もその神殿派でしたからね、おおよそ承知しておりますわ」
途方もない国家機密級の話をしながら、馬車はヴァルミエ伯爵邸にたどり着いた。
ロランティーナ「さあ、オリビア、我が家にゃ!煮干しの粉末入りミルクが待ってるにゃ!」
オリビア「やったにゃー!」
ネバリオ王「にゃ……私の名乗りはそんなに弱かったかにゃ?」
ネバリオ王は、しょんぼりしながらカレー侯爵に問いかける。
カレー侯爵「そんなことはないですにゃ。ただ、彼らは若干強めに癖がある、それだけですにゃ」
ネバリオ王「若干強めにって、意味が分からないにゃ」
出迎えにきたリュカとレアナがやってくる。
リュカ「あれ、ナットウ男爵にゃ?」
レアナ「確かロランティーナ様たちは、どこかに借金返済に行ったはずにゃ?」
ネバリオ王「ロランティーナ様には私の身分は明かしたからにゃ。これ以上は、お二人に隠す意味がないにゃ。私がネバリオ王にゃ」
カレー侯爵「私が保証するにゃ」
リュカ「聞きたくなかったにゃー!カレー侯爵の『猫加護』モードにゃ!」
レアナ「それより、ネバリオ王にゃ!」
リュカ「そうにゃ!ネバリオ王って言ったら『賢王ネバリオ・グラタンディア七世』にゃ⁉」
レアナ「そうにゃのよ……ナットウ男爵が、発酵食品ならなんでも任せとけと言った時……気づくべきだったにゃ」
リュカは驚き、それと対称的にレアナは悔しそうにする。
リュカ「ところで、借金の返済先ってナットウ男爵だったにゃ?」
ネバリオ王「気にすることはないにゃ、ロランティーナの覚悟を知りたかっただけにゃ、一文も取る気はないにゃ」
カレー侯爵「しまったにゃ!馬車から金貨を下ろして、邸宅に置きっぱなしにゃ!」
カレー侯爵は顔面蒼白にして叫ぶ。
ネバリオ王「大丈夫にゃ。影に補填分を持って来させているにゃ!ハラヘリスの功績を考えれば安いものにゃ!」
カレー侯爵「そうですかにゃ……陛下がそう仰るのにゃら……」
リュカ「まあ、こんな所で立ち話もにゃんですからにゃ……」
そうして、ネバリオ王とカレー侯爵はヴァルミエ伯爵邸に入っていく。
ネバリオ王「なんだにゃ、素晴らしい匂いがするにゃ!」
カレー侯爵「『ねこまんま』の匂いと、ミルクの匂いが混じってるにゃ」
ロランティーナ「あら、ネバリオ陛下も『ねこまんま』を食べますかにゃ?」
ネバリオ王「わしは天下の納豆好きだにゃ!だけど……なんだか、この『ねこまんま』には抗えないにゃ!」
カレー侯爵はネバリオ王の言葉に一番驚いた。
カレー侯爵「よくそれで、ワサビ子爵領でやっていけたにゃ……」
リュカ「にゃー!『ねこまんま』をありったけ用意するにゃ!」
レアナ「私も、もう『ねこまんま』の匂いに!耐えられないにゃ!」
ネバリオ王「わしも、今日だけは『ねこまんま』に屈するにゃ!」
カレー侯爵「よかったにゃ……これでわしも、我慢する必要がないにゃー!」
そうして、鍋に大量の『ねこまんま』が用意された……。
リュカ「『ねこまんま』!いただきにゃー」
レアナ「ずるいわよ!いただきにゃー」
ネバリオ王「あれで、いいのかにゃ?」
カレー侯爵「あれが、真の『猫加護』支配下の常識にゃ……これから覚悟するにゃ」
そこに、ネバリオ王の影から……こっそりと納豆がネバリオ王に捧げられた。
ネバリオ王「にゃ⁉味付けがない納豆など……邪道だと思ってたにゃ!だけど、これは行けそうな気がするにゃ」
カレー侯爵「陛下、いけませんにゃ!気がするだけじゃ駄目にゃ!」
ネバリオ王「なんじゃこの納豆……ほのかにミルクが混ぜられてるにゃ……なんと美味なのにゃ……にゃっとうまんま」
カレー侯爵「わしも……耐えられなくなってきたにゃ……」
そうして、カレー侯爵もミルク入り納豆の餌食になるのだった。
当然、その夜は一晩皆で毛を繕い合った……にゃ
ただ、オリビア兄嫁だけは、やはりロランティーナにしか毛を繕わせなかったにゃ……。




