第13節 食品評議会 ~ハラヘリスの価値~
はじめてカレー侯爵の派閥――聖人聖女解放派閥の者が集まる、食品評議会が開催された。
残念ながら、領地復興に勤しむラーメン伯爵だけは欠席である。
カレー侯爵「さて……早速だが、ショウガ子爵とカラシ男爵が、我ら聖人聖女解放派閥への加入打診をしてきた」
オデン子爵「カラシのお陰で、我が領のおでんも一層美味しくなったしな……味噌おでんも一部で熱心な客層が」
ワサビ子爵「ショウガのお陰で、寿司の味も引き締まって、消費が増えましたな」
ソバ男爵「ショウガを入れた蕎麦汁、それにたぬき蕎麦は大好評だ」
ウドン男爵「うちのたぬきうどんは、たぬき蕎麦より人気ね」
オデン子爵「これは、まごうことなきハラヘリス殿の功績といっていいでしょう」
カレー侯爵「ラーメン伯爵からも、豚骨ラーメンに紅ショウガが合うと聞いておりますな」
基本的に、皆のハラヘリスへの反応はいい。ただ一人を除いて……。
それが『裏公爵』として地位が最も高い、ナットウ男爵だった。
ナットウ男爵「しかし、今まで散々無銭飲食を繰り返した者を信用していいものか……」
カレー侯爵「我が領もナットウ男爵と縁づくことができましたし……キーマカレーに納豆というのは、今や我が領の人気商品」
ナットウ男爵「いや、カレー侯爵を責めるつもりは毛頭ないのだ……ただ、きゃつ自身を信用できるかどうか、そういう話だ」
ワサビ子爵「まあまあ、こちら納豆巻きです」
ナットウ男爵「むぅ……いただこう。ところで皆は、無銭飲食分を回収できたのか?」
ナットウ男爵は少しずつ納豆巻きを食べる……とはいえ、その速度は常人のそれを遥かに超えている。
カレー侯爵「なんでも、聖人様と聖女様が、無銭飲食の賠償をするはずの話だったそうで……」
ワサビ子爵「我が領の無銭飲食分は、余裕で取り返せました」
オデン子爵「我が領ではトントンといったところですな」
きょとんとした顔をしたのは、ソバ男爵とウドン男爵だった。
ソバ男爵「我が領では無銭飲食なんてされていないな……そんなに麺連邦の食事はまずかったのか?」
ウドン男爵「我が領でもそうね……」
ナットウ男爵の影「ソバ男爵、ウドン男爵……お二人が言い争いをしている間に、きゃつは無銭飲食をしております」
ナットウ男爵は苦渋の決断をしようとしていた。
ナットウ男爵「ふむ……首輪をつける意味で、我らの傘下に入れてしまった方が有益か?」
しかし、カレー侯爵は少し苦い顔をする。
カレー侯爵「我が領で、無料試食官の仕事をしてもらったのですが……まさかの即日全対応で、今年度の支出が莫大になりまして。我が領での今年度分の聖人聖女予算の積立が……言いづらいのですが、減少する見込みです。この予算の件は、聖人様聖女様には伏せておりますが」
オデン子爵「なんとか、ヴァルミエ伯爵を取り込めれば……」
ソバ男爵「しかし、ヴァルミエ伯爵といえばゴリゴリの中立……という名目の神殿派……」
ウドン男爵「でも、確か代替わりしたわよね?」
ナットウ男爵「今のロラン・ヴァルミエ伯爵がどれほどの人物か……いかなる思想を持っているか、それもわからんからな」
頭を抱える貴族達、しかしそこでワサビ子爵が爆弾を落とす。
ワサビ子爵「まあ、そこは大丈夫かと……我が領とは関わりが深いので、皆さんより少しは、私の方が詳しいかと」
ナットウ男爵は目を光らせて、ワサビ子爵を見る。
ワサビ子爵「ヴァルミエ伯爵夫人オリビア様とは、もう十年近い間の取引があります。現ヴァルミエ伯爵の手引きでした」
オデン子爵「それが、一体何だというのだワサビ子爵!」
ワサビ子爵「まあ、落ち着いてください、オデン子爵。まず一つ、ロラン・ヴァルミエ伯爵は、前伯爵による聖人様の貴族籍剥奪を撤回してみせました。ナットウ男爵はご存知では?」
ナットウ男爵「うむ、それは承知しておるが……」
ワサビ子爵「そしてもう一つ、穢魂者と扱われたハラヘリス氏を保護し、ハラヘリス・ヴァルミエ男爵としたのも、ヴァルミエ伯爵の手腕です」
ウドン男爵「聞く限り、問題はなさそうね……理念的にはうちの派閥と近いわ」
トドメとばかりにワサビ子爵は言う。
ワサビ子爵「最後に、これはここだけのお話ですが……ヴァルミエ伯爵自身が、我々となんとか接触したいと」
ナットウ男爵「それは、影からも報告を受けておるが……しかし、どれほどの野心があるか知れぬ」
ソバ男爵「ヴァルミエ伯爵は、ヴァルミエ伯爵夫人オリビア様を最優先にしてると噂に聞きましたな。今後は酪農に力を入れるとか?」
そして、ナットウ男爵は心を決めた。
ナットウ男爵「まずはカレー侯爵への試食官費用返済、これを受け入れるかで判断しよう!」
カレー侯爵「ナットウ男爵がそう仰るならば、私から言うことは何もございません」
ワサビ子爵「しかし、それではヴァルミエ伯爵の力が削がれるのでは?」
ナットウ男爵「なに、実際に返済しろと言うのではない。受け入れるかどうかで、野心を測ってみようではないか。カレー侯爵への補填は、私がしよう」
こうして、食品評議会は幕を閉じた。




