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第12節 ハラヘリスの無料試食官のお仕事 ~お前は本当に人間か?~

 ハラヘリスはカレー侯爵邸で、各カレーを六十皿ずつ完食したらしい。

 そして翌日、早朝から早速依頼の仕事に着手したという。


リュカ「なあ、まずカレー侯爵領ってビーフカレー、チキンカレー、ポークカレー、キーマカレー、ナンカレー、そしてグリーンカレーがあったよな……累計三百六十皿か?」

レアナ「それがね……副菜との組み合わせてっていう話だったから、侯爵邸にある副菜の種類からして……軽く数万皿ね」

リュカ「あいつの胃袋、ブラックホールが常駐してるって言われても納得しかないな」


 リュカは呆れて言ったが、レアナの言葉に顔面蒼白になる。


レアナ「仮に、ホワイトホールがあったら、カレーまみれよね」

リュカ「そこに『ねこまんま』とかミルクとか……ただの残飯置き場じゃねーか……」

チカ「兄くん、ハラヘリスの体内にブラックホールは観測されていないぞ」

リュカ「そうか……どうやって数万皿のカレー食べてるんだ」


 チカの言葉に安堵するリュカだったが……。


チカ「超新星が生まれる時のような……超圧縮が発生していることは観測されたぞ、兄くん」

レアナ「どちらにせよ、宇宙論的にヤバいわね……」


 そこにハラヘリスが、侯爵邸に戻ってきた。


ハラヘリス「兄貴!仕事を終わらせてきたぜ!」

リュカ「そ、そうか……何店舗まわってきたんだ?」

ハラヘリス「決まってる!全店舗だ!」

リュカ「俺、聖人やめようかな……」

レアナ「私も復職した聖女、ちょっと休職したいかも……」

チカ「兄くん……このままだと、胃に国家予算が吸い込まれるぞ」

レアナ「って、ちょっと待って⁉カレー侯爵領のカレー店って何件あったの?」


 もはやリュカとレアナの思考回路はショート寸前だった。


ハラヘリス「さすがに覚えていないぞ、千件を超えてから数えられなくなった」

リュカ「さすがに、一店舗で六十皿は食べてないだろうからな……」

ハラヘリス「店ごとに全メニュー制覇したぞ!ざっくり一つの店で三百皿ちょっとだな!」

レアナ「さすが超新星胃袋……だけど、三十食で一食って言ってなかったかしら?」

ハラヘリス「大体三十食で一食だろ?で、それが三十食で一食、すなわち全て一食より少なくなる計算だ」

リュカ「いや、それはおかしい……なんだその再帰的一食未満理論(Recursive Feeding Collapse)……ああ、だからか……『ねこまんま』二十三食で吐きそうになってたのって」


 リュカとレアナは、混乱のあまり互いにハラヘリスの言葉を消化しようとする。


レアナ「えっと?三十食まで行かないと、普通の食事量で済む……?」

リュカ「ちょっと待て?三十皿×三十食=九百皿で一再帰食、その九百皿×三十食=二万七千皿で二再帰食から一食に、二万七千皿×三十食=八十一万食で三再帰食から一食に……これが永遠に繰り返されるから、永遠に一食に満たないって理解でいいんだよな?」

レアナ「もう頭が痛いわ、もはや数学でも哲学でもない……」

リュカ「これは……満腹という概念の再帰的消失と呼ぶべきか……満腹のゼノン的逆説?」

レアナ「恐るべし、超新星圧縮……概念災害ね」

リュカ「『RSZC――再帰的満腹ゼノン崩壊理論(Recursive Satiety-Zeno Catastrophe)』とでも呼ぶかな」


 そこに、ご機嫌のカレー侯爵がやってきた……あれ?昨日よりさらに若返ってないか?

 ちらほらあった白髪すら綺麗になくなっている。


カレー侯爵「いやー、助かったよ!ハラヘリス・ヴァルミエ男爵。こんなに早く仕事を終わらせてくれるとは!」

ハラヘリス「食べて感謝されたの、初めてかもなぁ、役に立てたなら嬉しい」

カレー侯爵「あなたのお陰で、カレー侯爵領のおすすめ店舗リストが作れそうだ!」


 そこで、何か思い立ったようにハラヘリスが言葉を続ける。


ハラヘリス「ところでカレー侯爵、キーマカレー店で味が冴えない店が多かったけど」

カレー侯爵「そうなんだよなぁ……数が少ないから、上下格差ができてしまって」

ハラヘリス「そのキーマカレーに、温めてとろりとした卵、そして納豆の組み合わせはどうだ⁉」

カレー侯爵「カレーに納豆を入れるというアイデア自体は、過去あったのだがイマイチでな……ただ、とろり卵というのは未検証だった、試してみよう」


 さらにハラヘリスは続ける……。


ハラヘリス「あと、炊いたイネを使ったグリーンカレー、あれは納豆に合うと思うぞ⁉」

カレー侯爵「なんと……」

ハラヘリス「ビーフカレーに、バターを入れて納豆、これも絶対暴力的に美味しくなる!」

カレー侯爵「早速、厨房に作らせてみよう!」

リュカ「お前……ただの食欲魔神じゃなかったんだな」

レアナ「っていうか、話を聞いていると、食べたくなってきたわ……」


 ハラヘリスは思い出したように言う。


ハラヘリス「なあ、ショウガってあるだろ?」

リュカ「ああ、一部の地域で使われてる香辛料だろ?」

レアナ「まんまショウガ子爵領よ……ほら、シャブシャブ準男爵領からワサビ子爵領に向かう途中に通った」

ハラヘリス「ワサビ子爵領の寿司は美味しかったんだけど『ショウガがあればな……』と思ったぞ」


 レアナはハッとする。


レアナ「た、確かに……!ワサビのありがたみで、すっかり抜け落ちてたわ」

ハラヘリス「あと、麺連邦のざる蕎麦、あれはワサビの代わりにショウガのすり下ろしを使っても美味しくなりそうだぞ」


 リュカもハッとする。


リュカ「うわ、思い出してしまった……一時期ワサビの代わりにショウガ入れてざる蕎麦を食べてたわ!」

ハラヘリス「天ぷら蕎麦や天ぷらうどんを作る要領で、簡単に作れる天ぷらの衣をな、冷やしたうどんに入れたら美味しいと思うぞ。デキンだったから実際に食べたことはないが、匂いからすると豚骨ラーメンにもショウガは合いそうな気がする」

リュカ「そうだよ、豚骨ラーメンと言えば紅ショウガ!」

レアナ「そ……それもそうね、天かすがあるかどうか分からないけど、冷やしたぬきうどんは美味しいし!」

リュカ「ハラヘリス……お前天才か……」

レアナ「天ぷらはともかく、天かすは見落としてたわ」


 さらにハラヘリスは続ける。


ハラヘリス「あと、カラシ……これ使いどころが難しいことで有名だけど、おでんに合うと思うぞ」

レアナ「そうよ!おでんと言えばカラシ!なんで忘れてたのよ!私のバカバカ!」

ハラヘリス「おでんには味噌も合うと思うぞ……寿司のワサビ子爵領でミーソ汁が出てたから、あれの元を使えば」

レアナ「そうよ!おでんに味噌、これ名古屋周辺の定番じゃない!」


 もはやレアナは自傷行為に走りそうな勢いだ、とりあえずリュカはレアナを抱きしめておいた。


ハラヘリス「最後に、これも俺は実際食べてないけど……ラーメン伯爵領の麺って、冷やして酸っぱい汁で、細切れにした野菜とかにカラシにハムの千切り……」

リュカ「それ、冷やし中華じゃねーか!なんで思い至らなかった!」


 レアナを抱きしめたリュカは、腕の力を失い、なんならリュカが自傷行為に走りそうな勢いだった。

 そんなリュカを抱きしめたのはレアナだった。


ハラヘリス「実際食べてみないとわからないが、ラーメン伯爵領の麺は、まだまだ可能性があるように見えるぞ」

レアナ「ねえねえリュカ、ハラヘリスって想定外の拾い物だったんじゃない⁉」


 レアナは、リュカの正気を取り戻すために、とにかく効果のありそうな言葉を放った。


リュカ「こんな有能な意見を出せるのに、なんで今まで無銭飲食ばかりしてたんだ!」

ハラヘリス「働いたら腹が減る……ああ、腹が減ってきた」

レアナ「今日どれだけカレー食べてきたと思ってるのよおぉぉぉ!!!」


 ちゃっかり、ハラヘリスはカレー侯爵の元でまたカレーを数千皿をご馳走になったそうな。


チカ「兄くん……これは明らかに、胃袋が常温ワームホール化している現象だぞ?内部ではハラヘリス・ミニバースが形成され、独自の時空間で食物が消化されているのだ……名付けてミニバース消化理論(Mini-Verse Gastronomy)」

レアナ「つまり、ハラヘリスは……異世界国家?」

リュカ「うん、もう宇宙法違反とかで逮捕してくれないかな」


 しかし、残念ながら宇宙法など前世でも現世でも存在しないのであった……。


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