第11節 カレー侯爵領の無銭飲食賠償 ~俺様主義は駄目です~
カレー侯爵領にたどり着いた。
いつもの門番が、いつもの奴を問いかけてくる。
門番「カレー味のうんこと、うんこ味のカレー……」
ハラヘリス「カレー!」
門番「よろしい」
リュカ「おいおい、それでいいのか門番」
レアナ「だって、ここカレー侯爵領よ?」
リュカ「それもそっか……」
そうして、ハラヘリスが無銭飲食をした店に向かう。
店主「おい、お前!無銭飲食の分際で、何しに来やがった!頭を丸めたって許さないぞ!」
リュカ「うちのハラヘリスがご迷惑をおかけしました……こちら代金です」
店主「おお、賠償しに来たのか!ならば、よろしい!」
あまりにあっけない店主の対応に、リュカは拍子抜けした。
ハラヘリス「やった!これでグリーンカレー食べ放題!」
リュカ「駄目だぞ、これ以上は金を払わん」
ハラヘリス「そんな兄貴、殺生な……」
レアナ「無銭飲食の賠償を肩代わりしてもらいながら、その言い分……いい加減キレるわよ?」
ハラヘリス「兄貴!ありがとうございました!」
レアナ「よろしい」
リュカ「(おいおい、礼を言えばいいってもんじゃないぞレアナ……)」
ハラヘリス「だけど、さすがにお腹が空いたぞ兄貴」
リュカ「それもそうだな、じゃあ現実的な範囲でなら……」
ハラヘリス「店主!グリーンカレー三十皿!」
レアナ「それの!どこが!現実的な範囲なのよ!」
しかし、店主が速攻で……グリーンカレー三十皿を次々と用意してしまったので、リュカは泣く泣くその代金を支払うのだった。
っていうか店員は何人いるんだよ。
両手にグリーンカレーを持った店員が……十人は並んで待ち構えているぞ⁉
リュカ「あのな、一人前ってわかるか?」
ハラヘリス「だいたい分かるぞ!三十人前頼めば大体一人前だ!」
レアナはこの意味不明理論に白目を剥いている。
リュカ「駄目だコイツ、早くなんとかしないと……ちょっとハラヘリス、命律端末に聞いてみろ」
ハラヘリス「わかった!起動してにゃ!」
レアナ「『にゃ』は要らないわよ……まったく『猫加護』って何なのよ」
命律端末「なんでしょうか?」
ハラヘリス「食堂で三十人前頼めば、大体一人前だろ?」
命律端末は、心なしか冷たい口調で応える。
命律端末「それを自分の資金で支払えるならば、一切問題はありません。通常は食堂の一人前は一人前です」
ハラヘリス「ほら!兄貴が払ってくれるなら、三十皿が一人前だ!」
命律端末「その理屈は成立しません、リュカとハラヘリスは別個の存在ですから」
気のせいか、ハラヘリスの命律端末からブリザードが発生しそうな気がしてきた。
ハラヘリス「なんだって⁉だって、俺は……金を持ってないぞ」
命律端末「その場合、一人前の食事を頼む権利すらありません」
ハラヘリス「なんてことだ……穢魂者じゃなくなっても、こんなに辛く悲しいとは……いや、兄貴の金は俺の金、俺の金は俺の金だ!」
命律端末「それは通称ジャイア……俺様主義と呼ばれます」
ハラヘリス「ほらな?ちゃんと俺様主義っていう名前が付いてる!」
ハラヘリスのドヤ顔に、もはやリュカは怒鳴る気すら起きない。
リュカ「俺様主義は正しい行いじゃないぞ……」
命律端末「俺様主義は社会的に有害です。また、それを肯定する社会は崩壊の道を辿り……」
ハラヘリス「歴史って残酷だにゃ……」
そうして、ハラヘリスは命律端末をしまっているが、なんだか満足そうだ。
レアナ「もう駄目だと思うわコイツ……これで男爵とか、ホント頭痛い……」
リュカ「まったく同感だ……無銭飲食賠償の前に貴族教育から……いや一般常識から叩き直さないと」
……食事を終わらせてから、カレー侯爵邸にやってきた。
ロランティーナの……ヴァルミエ伯爵の意向を伝えて、少しでも有利に話を動かさなければいけないからだ。
門番「おお、聖人様に聖女様!今すぐカレー侯爵にお取り次ぎいたします」
リュカ「いやいや、今日は侯爵の都合を聞きに来ただけですから……」
門番「以前もお伝えしましたが、聖人様聖女様は王族より優先するようにとの指示がありますので!それでは!」
レアナ「さすが、カレー侯爵は聖人聖女解放運動派閥の長ね……」
リュカ「ハラヘリス、悪いがその辺の宿で一泊してくれ」
ハラヘリス「そんな兄貴!一文無しでどうやって宿に泊まるんだ?」
レアナ「あら、金がないと宿に泊まれない、それがわかるとは凄い前進ね……」
レアナの皮肉もキレッキレである。
門番「聖人様と聖女様のお供の方でしたら、是非カレー侯爵邸へ!」
ハラヘリス「さっすが兄貴にゃ!」
リュカ「まあ、こう言ってくれるのに無碍にするのもよくないか……お願いします」
こうして、ハラヘリスは客室に連れられ、リュカとレアナは執務室に向かった。
リュカ「ハラヘリスの奴、またカレー食べてないだろうな?」
レアナ「あり得ない期待なんて……するもんじゃないわよ」
リュカ「それもそうだな……ああ、聖人聖女予算に手をつける日が、ガンガン近づいている……」
レアナ「まあ、心配しないで!裏公爵のナットウ男爵に支援を依頼しましょ?」
執務室でドアをノックすると、どう見ても髪がフサフサになり、肌の張りまで戻ったようなカレー侯爵が出迎えた。
もう頭がテカってない!むしろ植毛でもしたんじゃないかってくらいに髪がフサフサ!
よっぽど神殿からの圧力、そのストレスが凄かったのだろう。
カレー侯爵「やあやあ、よく来てくれました!」
リュカ「なんだか、カレー侯爵領民に……うちのハラヘリスが、とんでもないご迷惑をお掛けしたようで……」
レアナ「カレー侯爵領だけじゃなく、派閥のほとんどの領地を……回らないといけないのです」
もはやリュカとレアナは、土下座しかねない勢いだった。
カレー侯爵「いえいえ、ハラヘリス様は今やヴァルミエ男爵として、聖人様の親族となられたお方!」
リュカ「いや……貴族が領民に無銭飲食とか駄目でしょ……」
カレー侯爵「ところで、ある筋から聞きましたが、ハラヘリス様の味覚に関しては信頼できるとの情報が……」
これに反応したのは、レアナだった。
レアナ「あ、そっか……カレー侯爵やワサビ子爵の所では六十人前、麺連邦では計四十人前……この差は大きいわね」
リュカ「とりあえず、お詫びになにか力になれませんか?」
カレー侯爵「実は、それをお願いしたかったのですよ!全てのカレー店、および副菜店をハラヘリス様に巡っていただきたいのです」
レアナ「だけど、そんな費用を支払っていたら、私たちも、いよいよ聖人聖女予算に手をつけなければ……」
カレー侯爵「ただ、食べて貰うだけでいいのです!お代は全てこちら持ちです。ただし、その量の統計を取らせていただければ……これで、カレー領の出店ランキングが出来上がりますからな!今もハラヘリス様に、侯爵家のカレーを一通り食していただいている所でして」
リュカ「それで、少しでも罪滅ぼしになるのなら……」
レアナ「なんか、ハラヘリスが調子に乗りそうよね……」
しかし、カレー侯爵の案は……食費問題を抱えているリュカとレアナにとっても渡りに船であったのだ。
カレー侯爵は神か?髪が復活しただけに。




