第09節 伝説の胃魂者ハラヘリス ~ちょっと待てそれはヤバい~
ハラヘリスはポツリポツリと話し始めた。
ハラヘリス「最初はカレー侯爵領に行ったにゃ、グリーンカレー美味しかったにゃ!六十皿食べたにゃ!」
レアナ「これを聞くだけで、もう無銭飲食の想像がつくにゃ」
初っ端から、レアナは半分あきらめ顔だった。
リュカ「カレーは作るの大変にゃ……」
ハラヘリス「それがだにゃ、カレー愛を語ったら半額にしてくれたにゃ!」
これにはさすがにレアナも驚いた。
レアナ「半額って……さすがカレー侯爵領だにゃ……」
ハラヘリス「だけど、一文無しだったので追い出されたにゃ……またいつか食べたいにゃ」
リュカ「働いて、ちゃんと返すにゃ」
ハラヘリスは少しションボリしながら続ける。
ハラヘリス「次はワサビ子爵領に行ったにゃ、寿司も!納豆巻きも!最高だったにゃ!四十人前くらい食べたにゃ!」
リュカ「まさかのナットウ男爵超えにゃ⁉」
レアナ「一文無しだったんだにゃ?よく食べさせてもらえたにゃ……」
ハラヘリス「そこでも、寿司と納豆巻きの愛を語ったにゃ。そうしたらお貴族様が来たにゃ」
リュカは『なんだこいつ』と思いながら話を聞く。
レアナ「ナットウ男爵かにゃ?それともワサビ子爵令息かにゃ?」
ハラヘリス「誰か知らないけど二人だったにゃ!ここでも、お貴族様が感激してくれたにゃ!二十人前奢ってもらったにゃ!」
リュカ「累計六十人前にゃ⁉」
レアナ「それまでに食べた四十人前の代金、どうしたにゃ?」
ハラヘリス「さっきも言った通り、一文無しにゃ。店から逃げたら、お貴族様に『デキン』とか叫ばれたにゃ……もう入れないにゃ……」
レアナ「そりゃそうだにゃ」
ハラヘリスは相変わらずションボリしながら、さらに続ける。
ハラヘリス「ナットウ男爵領に行ったら、そこでも『デキン』にされてたにゃ……」
リュカ「まあ、当たり前だにゃ、ナットウ男爵の目の前で無銭飲食をするとか、どれだけ心臓だにゃ」
リュカはもはや呆れていた。
本当に、命律端末を与えてよかったのか……と後悔していた。
ハラヘリス「仕方ないので、ソバ男爵領とウドン男爵領が合併した『麺連邦』に向かったにゃ」
レアナ「もう、聞かなくても……話の流れと、オチが見えるにゃ」
ハラヘリス「蕎麦も!うどんも!美味しかったにゃ!その愛を語ったら、またまた、お貴族様が二人きたにゃ!」
リュカ「それ、ソバ男爵とウドン男爵だにゃあ?」
ハラヘリス「二人のお貴族様は、言い争いを始めたにゃ。愛を語れば語るほど、言い争いが過熱したにゃ」
レアナ「今回は、さすがに半額にならなかったにゃ?」
ハラヘリス「言い争いをしてる間に、蕎麦とうどんをそれぞれ二十人前食べてから、こっそり逃げたにゃ!」
リュカとレアナは頭を抱える。
ハラヘリス「仕方がないので、冬しか賑わってない、オデン子爵領に向かったにゃ」
リュカ「オデン子爵なら、半額とかそういうことしそうにないにゃ……」
ハラヘリス「俺も、ちゃんと学習するにゃ!おでん屋台で鍋を十個くらい空にしてから、逃げ出したにゃ!」
レアナ「駄目にゃ、この食欲魔神!早くなんとかしないとにゃ……もう『穢魂者』じゃなく『胃魂者』だにゃ」
ハラヘリスの話は続く……。
ハラヘリス「最後は、美食の街として最近有名になった、ラーメン伯爵領に向かったにゃ!」
リュカ「おいおい。今は、ラーメン伯爵って建て直しに必死にゃ……可哀想だにゃ……」
ハラヘリス「なんだか知らないけど、そこでも『デキン』になってたにゃ、これじゃ腹を膨らませることがデキンにゃ!」
レアナ「もう、ことごとく派閥の領地でやらかしてるにゃ……なんでロランティーナは、ハラヘリスを拾ったのかにゃ……」
リュカは、ラーメン伯爵がハラヘリスの餌食になってないことに、密かにホッとしたのだった。
リュカ「なんかハラヘリスを認めたの……間違いだった気がしてきたにゃ」
ハラヘリス「それもこれも、穢魂者扱いされたせいだにゃ!それで……嘆いていたら、ロランティーナ様が匿ってくれたにゃ!」
レアナ「それ、本当に穢魂者と関係ないにゃ……」
リュカ「命律端末がないから、何もデキンにゃ?」
リュカが一応フォローを入れると、今まで沈黙していたロランティーナが話に加わる。
ロランティーナ「命律端末がないと、こんなに悲惨になるにゃ……心のままに生きられない、そんな社会なんて、糞食らえだにゃ!」
オリビア「そうだにゃ!煮干しの粉末入りミルクが飲めないなら……私も、世界を破壊する方法をマギ様に聞くにゃ!」
リュカ「ロランティーナ、こんだけ派閥の人間を敵に回した男を匿って、よく派閥に入るなんて言えたにゃ⁉」
レアナ「こんなの、どうやって口添えするにゃ⁉」
ハラヘリス「大丈夫にゃ!命律端末を手に入れたから、これから金を稼ぐにゃ!次に爵位を買うにゃ!最後に『投資』で金で金を生むにゃ!」
さすがにレアナも黙ってはいない。
レアナ「爵位を金で買えるとか、表だって言ったら大炎上にゃ⁉」
ロランティーナ「仕方ないにゃ、リュカに譲る予定だったヴァルミエ男爵位は、ハラヘリスに与えるにゃ」
突然ハラヘリスに男爵位を譲ると言われ、冷静でいられるほどリュカは大人ではなかった。
ブラコンのロランティーナは、リュカが男爵になるのを許せなかった。
だからこそ、自ら中継ぎ伯爵となり、早期に爵位を譲る計画を立てていた。
リュカ「いきなり、俺の人生真っ暗にゃ!」
レアナ「……諦めるにゃ、この人達に常識は通用しないにゃ……結局、胃袋って最強の武器なのかにゃ」
ロランティーナ「時間は有限にゃ、命律端末!起動するにゃ!」
命律端末「はい、なんでしょうかにゃ?」
ロランティーナ「今ここに、ロラン・ヴァルミエ伯爵として命じるにゃ!『ハラヘリスにヴァルミエ男爵位を譲渡する』だにゃ!」
命律端末「承りましたにゃ。『ハラヘリス・ヴァルミエ男爵、本日付で爵位を拝受にゃ。無銭飲食:総額不明にゃ。所持金:ゼロにゃ。胃袋:ブラックホール級にゃ』」
ロランティーナ「これで、ハラヘリスは今日から『ハラヘリス・ヴァルミエ男爵』だにゃ!」
ハラヘリス「これで、俺はお貴族様の仲間入りにゃー!嬉しくて腹が減ってきたにゃ!『ねこまんま』十人前くれにゃ!」
レアナ「さっきまでの『ウップ』は何だったのにゃ……」
こうして、途方もない無銭飲食の罪だけを背負った……ハラヘリスという名ばかり男爵が爆誕した。




