第07節 ヴァルミエ伯爵邸にて ~ごろにゃんは突然に~
ロランティーナに引っ張られる形で、ヴァルミエ伯爵邸に向かうことになった。
もちろん、レアナも一緒だ。
レアナ「ねえ、本当に大丈夫なんでしょうね?」
リュカ「ロランティーナは外見こそああだけど、俺に敵意を持っていた記憶はないな。オリビア兄嫁はいつも……どんぶりミルクに夢中だし」
レアナ「むしろ心配になってきたわ……」
ロランティーナは黒い笑顔で言う。
ロランティーナ「何も心配することはないわ、あの愚物は消えたのだもの」
リュカ「いや、ロランティーナが消した……んじゃないよね?」
ロランティーナ「美女には秘密があるものよ、うふっ」
そこに、オリビアが甘えた声でねだる。
オリビア「ねえ、ロランティーナ……ミルクなくなったにゃ」
ロランティーナ「ああ、ごめんなさいオリビア……屋敷まで我慢してちょうだい?」
レアナ「ああ、頭痛くなってきた……なんだか、リュカが常識人に見えてきた」
リュカ「おい、それはどういう意味だ!」
そうこうしているうちに、到着間近の懐かしのヴァルミエ伯爵邸……あれ?なんかおかしいぞ?
何がとはわからないが、不穏な雰囲気を感じる……?
ロランティーナ「おかえりにゃ、リュカにゃん」
リュカ「やっぱり『猫加護』にゃ!」
レアナ「なんで『猫加護』が、かかっているにゃ!」
オリビア「この加護をかけた方がミルクがおいしくなるって……ワサビ子爵令息が言ってたにゃ」
レアナ「マルボロ……余計なことをしてくれたにゃ!」
そして、驚くべきことに、オリビアの頭には猫耳、腰のあたりからは尻尾が生えている!
リュカ「なあ義姉さん……幻覚かにゃ?耳と尻尾が見えるにゃ……」
オリビア「私は『猫加護』が特に強くなる体質にゃ!ごろにゃん」
レアナ「ついに、ごろにゃんとか言い始めたにゃ……」
ロランティーナ「私の妻は可愛いにゃ?」
リュカ「まさか、また毛を繕う一晩を過ごすのかにゃ……」
レアナ「ねえ、せめて私だけは『猫加護』を外してくれないかにゃ?」
レアナは、結構マジな表情で訴える……が、
ロランティーナ「構わないにゃ?だけど、そうすると屋敷に入れなくなるにゃ?」
レアナ「なんか、ワサビ子爵邸より凶悪にゃ⁉」
オリビア「それより、早くミルクにゃ!煮干しの粉末たっぷりにゃ!」
ロランティーナ「落ち着くにゃ、オリビア。皆にはヴァルミエ家の新しい特産『バナナミルク』を振る舞うにゃ」
この言葉にリュカとレアナは黙っていられない。
レアナ「にゃ⁉それは、絶対美味しいやつにゃ!」
リュカ「ああ、もうバナナミルクのことしか考えられないにゃ」
オリビア「私は、いつもの煮干しの粉末入りミルクがいいにゃ」
ロランティーナ「オリビアには、芯があるにゃ!」
レアナ「そういう問題なのかにゃ⁉」
ヴァルミエ伯爵邸に入ると、もう完全に猫屋敷だった……猫がたくさんにゃーにゃー鳴いている。
オリビア「にゃ?にゃーにゃー」
猫たち「「「にゃー!」」」
オリビア「皆も、バナナミルクより、煮干しの粉末入りミルクが良いって言ってるにゃ」
レアナは呆れながら言う。
レアナ「ちょっと、あの人……猫と意思疎通してるにゃ!」
リュカ「もう、今さら驚かないにゃ……」
レアナ「それより、バナナミルクはまだかにゃ?」
ロランティーナ「まあ、少し待つにゃ」
そして、バナナミルクが運ばれてきた……猫姉タマと同じ鉛どんぶりで。
だけど、リュカは「もう気にならないにゃ!」と開き直ってしまった。
リュカ「ロランティーナは、今後どういう統治をしたいにゃ?」
ロランティーナ「うふふ、決まっているにゃ!オリビアが幸せになれる統治にゃ!」
レアナ「でも、幸せって人それぞれにゃ?」
ロランティーナ「わかっているにゃ!オリビアの幸せは、ミルクと共にあるにゃ!」
リュカは「あかん、この人は伯爵を継いではいけない人だった」と、今さらながらの後悔をする。
レアナ「酪農でもするのかにゃ?」
ロランティーナ「それもいいにゃ!領民も、弱った牛を食べられるにゃ!」
リュカ「ロランティーナにしては、しっかり考えられてるにゃ」
ロランティーナ「失礼だにゃ、あの愚物とは器が違うのにゃ!」
レアナ「これで『猫加護』強制さえなければ……良かったにゃ……」
ここで、レアナの表情が一変する。
リュカが害される可能性がある時に必ずする、あの氷点下の瞳だ。
レアナ「で、ここに連れてきた目的は何にゃ?」
ロランティーナ「まずは――大切な大切なリュカの追放が、愚物の死によって取り消された。そのお祝いをしたかったにゃ」
ブラコンを爆発させるロランティーナ。
『猫加護』下でも、俺が傷つけられる可能性がある時のレアナは……いつもの氷点下の表情をする。
レアナ「それだけじゃないにゃ?」
オリビア「少し眠いにゃ、煮干しの粉末入りミルク、煮干しマシマシでお願いにゃ」
ロランティーナ「実は、カレー侯爵の派閥に入るための口添えが欲しいにゃ」
リュカ「直接、打診すればいいにゃ」
ロランティーナ「愚物の影響で、政治的に若干複雑にゃ……中立派からの転向になるからにゃ」
ロランティーナの表情は優れない。
レアナ「だとしたら、ナットウ男爵がいいにゃ?裏の公爵という地位があるにゃ。というか、ワサビ子爵とは繋がりがあるにゃ?」
ロランティーナ「その辺は任せるにゃ。ただ貴族力学で、繋がりがワサビ子爵だけというのが弱いという話にゃ」
リュカ「ワサビ子爵は、派閥ナンバーツーにゃ?そんなに弱いかにゃ?」
ロランティーナ「中立派の連中は……爵位至上主義にゃ。伯爵が子爵に頭を下げるなんて許せない!などと平然と言う連中だにゃ」
レアナ「これだから、貴族は嫌いにゃ」
ロランティーナ「そう言わないで欲しいにゃ。優れた貴族もいれば、愚物のような貴族もいるにゃ……リュカの後ろ盾になってくれている王宮派は優れているにゃ?」
ロランティーナは自虐的に笑う。
ロランティーナ「そして、最後の本命として……最近、穢魂者と呼ばれる者が現れたにゃ」
レアナ「リュカのこと……かしらにゃ?」
ロランティーナ「まさかにゃ。もう中立派にはコリゴリにゃ……というか、神殿は一度解体になるから、泥船に乗る趣味はないにゃ」
ロランティーナは心底ウンザリした顔で言った。
リュカ「俺の他に、穢魂者が出たにゃ?」
ロランティーナ「その穢魂者と呼ばれる者に直接会って欲しいにゃ。信頼できるかどうか、見極めてほしいにゃ……リュカが穢魂者と呼ばれた経緯を聞いているから、柄にもなく放っておけなかったにゃ」
リュカ「わかったにゃ。いつ、どこで会うにゃ?」
ロランティーナ「実は!今!客間にいるにゃ!」
これにはさすがにリュカも驚いた。
穢魂者だからと自分を追放した父から、こんなロランティーナが生まれたのかと。
レアナ「『猫加護』の影響下にいるにゃ?可哀想だにゃ」
オリビア「そうだにゃ、ちゃんとミルクをあげてるかにゃ?」
ロランティーナ「ワサビ子爵に教えてもらった『ねこまんま』で接待しているにゃ!」
リュカ「『ねこまんま』!バナナミルクを飲んだばかりだけど、『ねこまんま』食べたいにゃ!」
レアナ「悔しいけど、私も『ねこまんま』食べたい脳になっちゃったにゃ……」
オリビア「『ねこまんま』も美味しいけど、やっぱり煮干しの粉末入りミルクが至高にゃ!あれは完全栄養食にゃ!」
オリビア兄嫁は、やっぱり猫姉タマであったにゃ!
明日2026/03/09(日)はお休みさせていただきます。




