第06節 ロラン兄 ~なんかロランティーナに改名してた~
ロラン「おかえり、リュカ……今まで大変だったわね」
リュカ「いや、ロラン兄……なんで言葉遣いまで女性風なんだよ!」
ロラン「あら、これからは私のことはロランティーナとお呼びなさい!」
リュカ「はぁ……頭痛い」
声は少し高めだが、どこか中性的で……まったくリュカとは似ていない。
本気で頭痛に悩まされるリュカであった。
レアナ「っていうか、ロラン……ロランティーナ様って女装が似合いすぎて、脳がバグるわ」
ロランティーナ「あら、聖女レアナ様、あなたの脳に問題はなくってよ……私の美しさが罪なだけですわ!」
レアナ「なんか、猫加護の時より混乱してる……なんか自信なくすわ」
この言葉に即座に反応するのがリュカのリュカたる所以であった。
リュカ「そんなことない、レアナは可愛い!」
レアナ「……っ⁉突然そんなこと言わないでよ、バカぁ!」
いつものように、レアナは顔を染め、リュカをポカポカと叩く。
ロランティーナ「さて、私の妻も待ってるから、神殿の中に入りましょう?聖女様のことも、ノヴェルム伯爵が今か今かと待っているわよ」
神殿内に入っていくロランティーナを見て、レアナはぼそっと言う。
レアナ「もう駄目……ロランティーナ様が女性にしか見えない……」
リュカ「慣れだ慣れ、猫姉に比べたら……これでもマシだぞ」
レアナ「いや、あんたの家族は一体どうなってるのよ⁉」
そうしてリュカとレアナが神殿に入ると、黒髪ロングの素朴な女性、猫姉タマ……もとい、オリビア兄嫁が待っていた。
手にしているのはいつものごとく、煮干しの粉末を入れた鉛の容器のミルク……やっぱり淡く青白い光を放ってるよな?もう受け入れたけどな!
オリビア「リュカ、おかえりなさいにゃ」
リュカ「おかえりなさい、じゃねーよ……こっちは家も神殿も追放されてたんだぜ、何を今さら」
オリビア「あら、ネズミがいるにゃ……ちょっと捕まえてくるにゃ」
レアナ「ねえ、ネズミって……いわゆる刺客のことよね?」
レアナの言い分は……常識的に考えればその通りだ。
その常識が通用しないと、何度も伝えたつもりだったが……やはり無理だったか。
リュカ「残念ながら、普通に動物のネズミだな。だから言ったろ?ロランティーナの方がずっとマシだと」
オリビア「ただいまにゃ」
リュカ「頼むから、せめて外ではネズミの死体をくわえるなよ!」
レアナ「(リュカの家、マジでヤバいわ……しかもオリビア様よりロランティーナ様の方が美しいってどういうこと⁉)」
そこに、壮年の男性がやってきた。
なんだかいやらしい笑みを浮かべている。
壮年の男性「やあ、元気そうだなレアナ」
レアナ「今さらなによ、私を神殿に売ったくせに」
レアナは瞳の温度を氷点下まで下げて応じる。
壮年の男性「ははは、人聞きが悪いな……レアナの能力を鑑みた結果だよ」
リュカ「こちらの方は?」
壮年の男性「おっと失礼、聖人様。私はノヴェルムです、伯爵位を賜っております」
レアナ「私の名目上の父よ」
ノヴェルム伯爵「レアナ……ちゃんと血は繋がってるぞ」
レアナ「ふーん、実の娘を神殿に売り飛ばして、随分とご機嫌じゃない」
ノヴェルム伯爵「そんなことはないぞ?レアナが聖女を辞めたという話から、賠償金で借金漬けだ」
レアナ「知らないわよ」
さすがに『借金漬け』という言葉を聞いては、リュカも無視はできない。
リュカ「おいおいレアナ、本当に聖女辞めてよかったのかよ……」
レアナ「あの神官を見て、まだそんなことが言えるのね?リュカは」
リュカ「う……確かに、あんな環境なら逃げ出したくもなるだろうし『売られた』と思うのも自然だ」
ノヴェルム伯爵「そ、そんな……聖人様までそのような……」
リュカ「だって、レアナの意志を無視して?金銭で神殿に引き渡したんだろう?そういうのを、人身売買って言うんだぜ」
レアナ「そうね、神殿は人身売買組織よ」
チカ「神殿は人身売買組織……マギシステムに登録したぞ。人身売買に関わった者は、社会的有害性フラグが立つ」
ホログラムを出さずに、声だけでチカが応える。
一斉に、神官達の命律端末が赤く点滅する。
ノヴェルム伯爵「どうかそう言わず……レアナ、どうか聖女の座に戻ってくれないか?」
レアナは命律端末を取り出し、改めて宣言する。
レアナ「起動して……『私レアナは生涯、人身売買組織の神殿に加担することはない』……はい、認証完了――無理矢理、私を聖女の座に戻そうとしたら、社会的有害性フラグ持ちの聖女の誕生ね?」
レアナによるノヴェルム伯爵の断罪が完了した。
ノヴェルム伯爵「そ、そんな……我がノヴェルム家は今後どうすれば」
レアナ「今まで甘い汁を吸っていたんでしょう?ちょっとは働いたら?」
リュカ「おい、それはノヴェルム伯爵に言いすぎじゃないか?」
レアナ「今まで巡ってきた貴族達、あのシャブを作ってたシャブシャブ準男爵でさえ、働いていたでしょう?ノヴェルム家は、あれよりはるかに堕落してるわよ」
リュカ「ああ……じゃあ同情の余地はないな、チカいいか?」
チカ「兄くん……さっきはうっかりレアナ君に反応してしまったが、私は兄くん一筋だ」
リュカ「それは構わないさ……『俺リュカは、人身売買組織である神殿、及びノヴェルム伯爵に、今後一切の支援をすることはない』……これで認証されるか?――無理強いしたら、俺も社会的有害性フラグ持ちの聖人になるな?」
チカ「大丈夫だ兄くん、これでノヴェルム伯爵は莫大な借金に加え、聖人にも聖女にも見捨てられたとして、没落は避けられないだろうね。既にノヴェルム伯爵には、深刻な社会的有害性フラグも立っているからな」
こうして、リュカによるノヴェルム伯爵断罪も完了した。
リュカ「それでいい、サンキューなチカ」
チカ「兄くん、愛しているよ」
一瞬、命律端末が暖かくなり、そしてチカの声は消えた。
ノヴェルム伯爵「あああ、これではノヴェルム伯爵家はおしまいだぁぁぁ!」
そんなノヴェルム伯爵は放置されたまま、大神官が駆け寄ってきた。
大神官「なぜ我々が、人身売買組織としてマギ様に見なされるのですか⁉」
レアナ「ノヴェルムに幾ら渡したの?それが人身売買でなくて何よ」
リュカ「本当に神殿は不愉快だな、聖人の座を捨てたいくらいだ……胸くそ悪い」
レアナ「まあ、撤回できるものならしてみなさいよ大神官様?」
大神官は命律端末を取り出し、怒鳴りつける。
大神官「なんで我々神殿が人身売買組織扱いを受けるのだ!私にまで、社会的有害性フラグとは!」
命律端末「弁明と思われるので応答します。事実を踏まえた上で、もはや弁解の余地なしとマギシステムは判断しました」
大神官「では、神殿はどうなる⁉」
命律端末「一度は解体され、再建できるのであれば、されることになるでしょう、そこにあなたが関わることはありません」
大神官「私は、どうなるのだ⁉」
命律端末「人身売買組織に与した者たちは、王国法で厳しく罰せられます」
大神官「そこを、なんとかできないか⁉」
命律端末「罰金と保釈金を支払えば、自由『だけ』は取り戻せるでしょう。また聖人虐待の罪にも問われていますので、そちらもお忘れなきよう」
大神官「そ、それは……聖人様が命律端末を起動できなかったから……」
命律端末「私にはどうすることもできません。既に王国が動いています」
怒涛の勢いで命律端末に問い詰めていた大神官は、あまりの状況の酷さに、膝から崩れ落ちた。
レアナ「これ、絶対ナットウ男爵が動いてるわよね」
リュカ「多分な、神殿の大掃除でもしたかったんだろ……」
レアナもリュカも、スッキリした気持ちである。
ノヴェルム伯爵「そんな、私もゴミだと言われるのですか!」
リュカ「いや……ゴミじゃないな、それはゴミに失礼だ。お前などただの大罪人だ(にっこり)」
レアナ「よかったわね、聖人様に正式な立ち位置を教えてもらえて(にっこり)」
ノヴェルム伯爵「あぁぁ、私は神殿とは関わりない!聖人虐待などに関与してないからな!」
リュカ「ノヴェルム伯爵が問われているのは、レアナに関する人身売買の罪だろ?今さら手遅れだな(にっこり)」
そして、例のごとくナットウ男爵の影たちがなだれ込んで……ノヴェルム伯爵と大神官を捕らえた。
ナットウ男爵は、今日はパリッとした服を着ていた。
ナットウ男爵「人身売買に関わった神官のみならず、聖人虐待に関与した神官も全員捕らえよ!社会的有害性フラグではなく、王国法に基づく犯罪、そのための捕縛である!」
ナットウ男爵の影「「「はっ!!!」」」
リュカ「なんで騎士じゃなくて、ナットウ男爵の影が動くんだろうな?」
レアナ「決まってるんじゃない?裏公爵としての顔よ。騎士団より、ナットウ男爵の影の方が格上なのよ……男爵とか詐欺ね、多分あれは近衛騎士レベルよ」
次々と捕らえられる大神官や神官たち……あーあ、これじゃ神殿維持とか無理だろ。
あ、カレー侯爵を恫喝していた神官も捕らえられてる。
しかし、ロランティーナとオリビアは、何の罪にも問われなかった。
ロランティーナ「さあリュカ!まずは我が家に向かいましょう!レアナ様もご一緒に!」
レアナ「……大丈夫なの?」
リュカ「命の危険は……ないと思うぞ」




