第05節 神殿への強制連行 ~神官とナンカレーと聖女の胃袋~
リュカとレアナが侯爵家の門まで向かうと、神官は満面の笑みで、もみ手をし始めた。
神官「おお、聖人様に聖女様……ご無事なようでよかったです。さすがです、カレー侯爵の監禁から脱出するとは!」
リュカ「あのな、カレー侯爵も言ってる通り、俺たちはナンカレーをご馳走になってただけだぞ」
レアナ「っていうか、私もう聖女辞めたんだけど?マギに確認してる?」
レアナは呆れながら問いかける。
神官「おお、ナンカレーという謎物体で監禁されていたわけですな……しかも洗脳効果まであるとは、これは神殿の徹底調査が必要な事案!」
レアナ「あのさぁ、その辺の屋台を見ていないの?ナンカレーは……ただの食べ物よ(ただの、なんて言いたくないけど)」
リュカ「なあ、こいつ……話が通じない感がビンビン出てるぞ」
神官「話が通じないだなんてことはありません!ささ、ヴァルミエ伯爵とノヴェルム伯爵が神殿でお待ちです!」
話が通じないことを自覚しない相手ほど、厄介なものはいない。
SNSだったら即ブロック案件だな……と思う、リュカとレアナだった。
リュカ「そもそも、俺は穢魂者として神殿から追放された身だぞ」
神官「ご安心を!聖人となられた今、大神官すらリュカ・ヴァルミエ様に逆らえません」
リュカも呆れていたが、レアナの追撃も鋭い。
レアナ「あんまり信じるんじゃないわよ?聖女だった私ですら、大神官に逆らおうとしても……神殿の連中は聞く耳持たずだったわ」
リュカ「わかってるさ。俺はそもそも、神殿を信じられない」
神官「そんなご無体な……私はここで腹を切ります。それをもって神殿の忠誠をご理解ください」
リュカはギョッとするが、レアナは涼しい顔をしていた。
リュカ「おい、サラッと自分の命を盾に脅迫してきたぞ、この神官……」
レアナ「ね?神官からしてヤバいでしょ?いつものことよ」
リュカ「そんな中、よく俺を追いかけて神殿脱出できたな……」
神官「我々は、聖女様の自己申告を信じておりません、きっとそれもナンカレーの呪縛!」
リュカ「どっちかというと、レアナは寿司だったよな」
レアナ「寿司はもちろん好きだけど、納豆も、カレーも、蕎麦も、うどんも、おでんも、ラーメンも当然大好きよ?」
リュカ「そうだった……この食欲魔神め……」
その瞬間、神官の目が据わり、明らかに忠誠心とは真逆の光を帯びて言う。
神官「いかに聖人リュカ・ヴァルミエ様といえど、聖女様を魔神呼ばわりは許しがたいですな」
レアナ「ね?忠誠とか言いつつ、忠誠心ゼロなのが神殿」
そこに、幼女チカのホログラムが降臨した……助かった。
チカ「マギシステムは、そもそも聖女制度を認めていないぞ」
神官「なんだ、この幼女は!マギ様を貶めるとは無礼千万!斬り捨ててくれる!」
レアナ「大体、命律端末からホログラムを作るなんて、誰が信じてくれるのよ……」
リュカ「それもそうだった!」
そして、マジでチカを斬りつける神官……うわぁ、ヤベぇ!
しかし、ホログラムだから、その剣は通り抜ける。
神官「おのれ、物の怪か悪魔のたぐいだな!これ以上、聖人様と聖女様を貶めるようなら、神殿全勢力をもって討伐する!」
リュカ「チカ……一度、そのホログラムを引っ込めてくれ」
チカ「ホログラム?ああ、この幻影のことか。兄くんの指示なら」
チカのホログラムは消えたが、神官はどこか不審の目で、二人を睨みつけている。
神官「どうやら、聖人様と聖女様は何らか、邪悪な存在に取り憑かれているようですな……これがナンカレーの恐怖!少し手荒になりますが、神殿に来ていただきます」
大勢の神官に囲まれて、神殿への強制連行が始まった。
目でカレー侯爵に謝罪したが……カレー侯爵は苦笑するだけであった。
馬車は……正直ワサビ子爵家謹製の馬車の方が快適だった。
というか、なんで俺たちと一緒に護衛神官が二人も乗り込んでるんだ?
……レアナとも、うかうか話もできない。
俺たちの馬車……あの気の良いカレー侯爵なら大丈夫だ!きっと守り抜いてくれる!御者もいるしな!
夜は護衛神官つきで宿屋に泊まり、ほとんどリュカとレアナは話せないまま、神殿まで強制連行された。
そうして神殿で出迎えたのは……金糸のような長い金髪をなびかせる、水色のドレスを着た、女装姿の兄ロランであった……。
胸があるように見えるが、きっとあれは詰め物だろう。




