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第04節 神殿の遣い ~しつこい男は嫌われます~

 春になり……リュカとレアナはカレー侯爵領を訪れた。

 カレー侯爵邸で、ナンカレーに舌鼓を打っていると、なんだか門の辺りが騒がしくなった。


 耳を澄ますと、どうやら神殿の神官がやってきたらしい。


神官「カレー侯爵には、聖人様と聖女様監禁の容疑がかけられている!」

カレー侯爵「監禁など、とんでもありません。今はお客様としておもてなししております!」

神官「では、なぜ聖人様と聖女様が神殿に来てくださらないのだ!あり得ないだろう!」


 リュカとレアナは同時にため息をつく。


リュカ「俺を穢魂者呼ばわりして、出入り禁止にしたの……お前らだろ」

レアナ「私は神殿の聖女辞めてるからね、もう無関係のはずよ」

ナットウ男爵の影「『聖人認定同意書』の影響でしょうね。我らの勢力から、聖人様と聖女様を取り戻すという大義名分かと」

レアナ「面倒くさいわね……」


 外では、神官がまだカレー侯爵に突っかかっている。


神官「つべこべ言わず、リュカ・ヴァルミエ様と、レアナ・ノヴェルム様を神殿にお迎えさせろ!」


 この一言に、リュカはカチンと来た。


リュカ「あいつ……神殿で俺が家を追放されたことすら知らないのかよ」

レアナ「私もノヴェルムの家は、聖女を辞めると同時に追放されているはずなんだけどね」

リュカ「え、レアナ……俺を追いかけるために、そこまで覚悟を決めていたのかよ!」

レアナ「か、勘違いしないでよね!私はただ、もう聖女が嫌になってただけだから!転生者とグルメの旅をしたかっただけ!これこそ異世界ロマンでしょ!」


 そこに、チカのホログラムが出てきた……ついに命律端末に呼びかける必要までなくなったか。


チカ「兄くん、ヴァルミエ伯爵は、兄くん達の追放を正式に撤回している。王家承認のもとにね。レアナ君は……そもそも追放されていないぞ」

リュカ「自分の立場が悪くなれば切り捨てて、こっちが偉くなったら手のひら返しかよ」

レアナ「一度ハッキリ言った方がいいんじゃない?」

チカ「それが、事情はそこまで単純ではなくてな。言いにくいのだが、元ヴァルミエ伯爵は鬼籍に入り、当時の嫡男ロラン・ヴァルミエが現ヴァルミエ伯爵になっている。一応、暗殺の線が濃厚で……動機としては、兄くんの兄君であるロラン・ヴァルミエが怪しいとされているが、何ぶん証拠がない。そして、ロラン・ヴァルミエが伯爵になると同時に、兄くんの追放撤回に動いたようだぞ」


 リュカはチカの言葉に驚いた。


リュカ「あの追放しやがった父はどうでもいいが、ロランが現伯爵?あの女装好きが⁉」

チカ「そして、リュカの姉とされていたオリビアと……婚姻を結んだぞ」

リュカ「ちょっと待て、脳の処理が追いつかない……兄と姉が結婚して姉は兄嫁になった……?」

チカ「落ち着け兄くん、もともと血の繋がっていなかったオリビアが、正式に兄嫁になったという話だ」


 まさか猫姉タマが血縁じゃなかったという話は、さすがにリュカの許容限度ギリギリだった。


リュカ「あの猫姉……血が繋がってなかったのか……」

チカ「オリビアは毎日、煮干しの粉末入りミルクを鉛容器で飲んでいるぞ」

リュカ「あの猫姉、相変わらずだな……社交とかできるのかよ」

レアナ「ねえリュカ、煮干しの粉末入りミルクって所に、猛烈に突っ込みたいんだけど?」


 レアナが口を挟んでくる、さすがは相棒!


リュカ「だから姉……いや兄嫁は猫なんだよ、その理解でOK」

レアナ「むしろ謎が深まったわよ!」

チカ「まあ……シスコンの兄くんには……厳しい話だったな、すまない」

リュカ「いや、もう俺の思考回路はショート寸前だよ!」


 レアナは、少し寂しそうに言う。


レアナ「リュカ……あなた、やっぱりシスコンだったのね……」

リュカ「誤解だ!オリビア姉……あの猫姉にそんな感情は一切ない!俺はシスコンじゃない!」

チカ「……兄くんは変わってしまったな、前世ではあれほど……恋人兼妹として、熱く愛し合ったというのに」

リュカ「だ・か・ら!そんな記憶は一切ないって言ってるだろぉチカぁ!」


 引っかき回されたリュカとしては、たまったものではなかった。


チカ「もう、兄くん呼びは止めた方がいいだろうか……?」

リュカ「もう慣れたよ……正直今さら『リュカ様』とか呼ばれると、むしろ距離を感じるぞ……」

チカ「やっぱり、兄くんは兄くんだった!」


 ここで、レアナがなんかおかしな事を言い始めた。


レアナ「……ねえ、リュカ。私も、姉っぽい振る舞いをした方がいいかしら?」

リュカ「やめろレアナ、というか姉っぽさって何?俺は、あの猫姉しか知らないからわからない!え?どんぶりでミルク飲むの?」

レアナ「……じゃあ、年上の妹?」

リュカ「なんだその形容矛盾!いや普通に友だちでいいだろ!」

レアナ「私、本当にこのままでいいの?」

リュカ「当たり前だろ!今さら態度を変えられる方が寂しいよ!」

レアナ「よかった……さすがにリュカに『お兄たま』とか言うの……キッツいわよ……」

リュカ「どうして、そんな思考になったレアナ⁉」


 なんとか話が収束したと、ほっと一息吐こうとしたところに……レアナがぶっ込んできた。


レアナ「じゃあ、今日からリュッくんね!」

リュカ「やめろ、微妙に恥ずかしい!」


 リュカもレアナも、真っ赤に頬を染めている。

 それを見ているナットウ男爵の影は「もう実質夫婦だろ……」と呆れていた。


チカ「兄くん……じゃれ合うのはいいけど、私は少し寂しいぞ……」

リュカ「じゃれ合ってない!ってか、あの神官しつこいな……」

チカ「そうだな、兄くんが直接顔を出した方がいいだろう。神殿に行くかどうかはともかく」

レアナ「私も行った方がいいわよね」


 そこに、チカから衝撃の事実が放たれる!


チカ「そうだな、仮にも自称聖女だったのだから」

レアナ「仮にもって何よ!自称って何よ!私はちゃんと聖女だったわよ!」

チカ「……私は、聖女という存在を認めていない」


 これは、神殿派が聞いたら卒倒する案件だ……。


リュカ「まさかの、マギシステムが聖女否定⁉」

チカ「兄くんだけが、唯一の聖人であればいい……」

レアナ「まさかの私情⁉」


 そして、リュカとレアナは神殿の遣いを迎え撃とうとしていた。

 両者の頬からは、まだ赤みは消えていない。


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