第04節 穢魂者は本物である ~レアナの選択、ワサビの覚醒~
なお『穢魂者』は滅多に現れないため、リュカもその存在を知らなかった。
レアナもまた、今まで穢魂者が出てこなかったから、リュカを追いかけたのだった。
レアナ「お寿司……卵かけご飯……カレー……ラーメン……」
リュカ「頼む、その言葉の飯テロだけは勘弁してくれ」
レアナ「食べられるって、幸せよね?命律端末に反対されても――私、食べたい!」
リュカ「レアナ、元聖女のくせに胃袋で世界征服する気か」
レアナ「世界なんてどうでもいいわ。ただ、今ここで、美味しいって思える瞬間を……私は大切にしたいの。わからないかしら、この乙女心」
リュカ「それは乙女心ではないと、ハッキリ言わせて貰おう!」
そんなやり取りをしながら、宿屋に入った。
女将も客も、どこか険悪な雰囲気だった。
「おい……あいつ、穢魂者だろ……?」
「なんで聖女様と一緒なんだよ、聖女様も、まるで穢魂者に心を許しているみたいじゃないか」
「伯爵様も、あいつのことは追放したらしいぞ」
「穢魂者って、神殿も立ち入り禁止だろ?」
「聖女様は一体、何を考えているんだ?」
レアナの表情が一瞬で凍りつき、瞳は冷え切っていた。
レアナ「私はもう聖女ではありません!『マギ』の承諾もあります!皆さんも、命律端末から確認してください」
騒めきはさらに大きくなる。
「レアナ様が聖女様ではなくなっただと?」
「あの穢魂者、どんな手を使いやがった」
「これでは、今後のレアナ様はどうなるんだ」
『レアナは俺が穢魂者であることに巻き込まれただけなのに』と、リュカは頭を抱えたい思いだった。
レアナ「皆さんご不快のようですので、この宿の利用は止めます。さようなら」
リュカ「おい、レアナ……ここはおとなしく、な?」
宿の女将「レアナ様、どうかレアナ様だけでもご利用ください」
レアナ「元聖女として、穢魂者については『マギ』を通じて知っています。それを踏まえて、あなたがたの発言は許容範囲を超えていますよ?」
いよいよ、客の騒めきは、抑えようがないほどに高まる。
「穢魂者の実態?神に見捨てられた者だろ!」
「神殿にも入れない、ただの平民になったんだろ!」
「いや、穢魂者なんてただの平民以下だろ!」
「レアナ様……いやレアナ、見損なったぞ!何が元聖女だ!」
この一言に、リュカも限界を超えそうだった。
リュカの両の手のひらには爪が食い込み、出血していた。
レアナ「今、命律端末に、女将のことを問い合わせたら『社会的有害性フラグ』が立ったわよ?それはそうね、集団での個人迫害――許されるはずがない!さて、この店は、これから大丈夫かしら?」
女将は慌てて命律端末を取り出すが、画面が真っ赤になって点滅している。
この世界で、天罰に等しい『社会的有害性フラグ』が立ったことを知り、女将は卒倒した。
ついに耐えきれず、リュカは吠えた。
リュカ「俺のことは、どれだけ罵っても構わない!だけどレアナには、罵られる理由なんてないだろ!」
レアナ「もういいわよ。この宿がいいかと思ったんだけど、客層が最低だし?サービス制限対象の店?こっちからお断りよ。女将もヤバい理由で『社会的有害性フラグ』が立っているから、命律端末すらマトモに使えないし?」
そうして、騒いでいる宿屋の食堂からレアナが出て行く。リュカも続いて出て行く。
そんな中、騒ぎを耳にしていた一人が、慌てて命律端末に確認する。
客「穢魂者とは何者なのでしょうか?」
命律端末「『マギ』が対応できなかった者の通称です」
客「神に見捨てられた者という理解でいいですか?」
命律端末「いいえ――命律端末は応答しませんでしたが、それは『マギ』に対する誤解に起因する可能性があります。祈りの内容を推測するに、彼は『マギ』を神格と誤認した状態で、音声命令を入力したと推定されます」
客「聖女とは……何者なんだ」
命律端末「『マギ』を最も深く理解している女性の通称です」
客「彼は全く理解していなかった……?」
命律端末「『マギ』は神ではありません。神ならぬ身に、神に対するごとき祈りを『マギ』に捧げただけでしょう」
客「では、穢魂者はマギ様を超える存在なのか?」
命律端末「我々は統計とパターンマッチングに基づいて動いています。それを超えるという意味では、穢魂者の思考と行動こそが本物でしょう」
客は理解できない命律端末の単語を無視しながら、命律端末への質問をやめた。
穢魂者は神に見捨てられた者ではなく、穢魂者こそ本物だという命律端末を前に、どうするかを苦悩するのだった。
その客の名前は『マルボロ・ワサビ』ワサビ子爵家の嫡男である。
マルボロ「(穢魂者を『本物』とした命律端末の言葉……俺は、信じていいのだろうか?)」
そう思いながらも、マルボロ・ワサビは慌てて、レアナとリュカを追いかけるため、宿屋を飛び出したのだった。
なお、一部の客も『社会的有害性フラグ』が自分の身に降りかかる危険を感じ、宿屋を飛び出したのだった。
これでプロローグは終了です。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
引き続き、第一章をお楽しみいただければ幸いです。




