第03節 レアナとの出会いと契約地獄 ~まさかの音声認識で電源オン~
俺リュカは、神殿の立ち入りを禁じられ、家からも追放された。
リュカ「さて……今後、どうやって生きていこうか……」
俺は今後の生活について、途方に暮れていた。
なんせ神殿で命律端末を受け取るだけのつもりだったから、所持金もほぼゼロだ。
奮発されたであろう、パリッとした服装も、今や虚しい。
荘厳な神殿を背中に、とぼとぼとあてもなく歩く。
そこに神殿から飛び出し、砂埃を巻き上げ、フード付きの純白の衣を揺らして駆けてくる少女の姿が見えた。
風に揺れるその衣は、まるで光そのもののようだ。
胸元に光るアレキサンドライトが目を引く。
髪はローズブラウンのボブヘアで、それだけで少し情熱的な印象を受ける……しかし、黒い瞳は英知を感じさせる。
目鼻立ちは整っているが、どこか安心感を抱かせる。
そんな、不思議な顔つきだった。
正直むっちゃ可愛い!駄目だ、惚れそうだ!
リュカ「聖女レアナ様……」
少女の正体を知って、穢魂者と認定されたリュカが、近づいて許される相手ではない。
道を空けようとしたら、聖女レアナ様は、リュカの前で止まった。
まさか俺を目指していたのか?いや、さすがに自意識過剰だよな?と、リュカは首を傾げた。
聖女レアナ「あなたが、リュカ・ヴァルミエ様ね?」
リュカ「家を追放されたので、今はただの平民リュカです、聖女レアナ様」
聖女レアナ「じゃあリュカ、あなたは命律端末に対して何を祈ったの?」
リュカ「……皆が笑顔で過ごせるように、皆が幸せになれるように祈りました。ですが、命律端末の反応はありませんでした」
聖女レアナ「……その祈り、本気だったのよね?」
聖女レアナ様は、なんとも表現しがたい表情をした。
リュカ「当然ですよ。そもそも祈りって、そういうものじゃないのですか?」
聖女レアナ「リュカ……もしかして、あなたも……」
少し間を置いて、聖女レアナ様は静かに笑った。
聖女レアナ「この言葉、もしかしたらあなたには通じるかもしれないわね……マギは『AI』、そして命律端末は『スマホ』……さて、どうかしら?」
リュカは無言で震え、この異世界の真実を自分なりに咀嚼した。
リュカ「聖女レアナ様も、転生者?いや、それより、まさかこの世界の『祈り』って音声入力だったんですか⁉」
聖女レアナ「そうね、祈りの間では『応えて』みたいな祈りが正解よ。誰もがそう願っていて、それを口に出すから、今まで問題が起こらなかっただけ」
リュカ「あの黒い板、電源ボタンすらなかったけど、え、まさか音声入力が初期設定って!その話を、あと一日早く聞きたかったですよ!」
聖女レアナ「無茶を言わないでよ、穢魂者発生の報を受けて、これでも最速で駆けつけたんだから」
聖女レアナ様は、それを裏付けるように、息を整えながら顔の汗を拭った。
その姿も少し色っぽい、いかん俺はロリコンじゃないぞ……実年齢は似たり寄ったりだけど。
ああ、そうか聖女レアナ様を可愛いと感じたのは、どこか日本人を彷彿とさせる顔つきだったからか。
リュカ「私のためにですか?だけど、もう神殿は出禁ですし、家を追放されてますから……いや、本当にこれからどうすればいいんだ俺」
聖女レアナ「私の名前を使っても、もう命律端末は手に入らないわね。このまま一緒に逃げる?異世界転生者二人、肩寄せ合って生きていかない?そういうの、ちょっとロマンチックじゃないかしら」
リュカ「まさかですよ。異世界転生者同士とはいえ、まだ会ったばかりじゃないですか。ひとまず、私はどこかで稼げないか仕事を探しますよ」
それに対し、聖女レアナ様は、意地悪そうな顔をして迫る。
聖女レアナ「その仕事探しも、命律端末が無いと苦労するわよ?職場に受け入れられるか、そして仕事ができるのか、などなど……」
リュカ「異世界でもスマホがなけりゃ詰みですか……夢がないなぁ」
聖女レアナ「あ、忘れてたわ……『命律端末、応えて。私は聖女の座を降ります』――『現時点からレアナ・ノヴェルムは聖女の座を降りたことを認めます』……さて、やっと聖女の座を捨てられたわ!リュカに拾われなければ、さみしい一人旅かぁ、不安だなぁ(ちらっ)」
リュカ「え、今の!ただの脅迫じゃないですか⁉ってか、なんで今になって聖女の座を降りたんですか⁉」
聖女レアナ「もう、様付けも、丁寧語も一切禁止ね!私はただの平民レアナ!今ならなんと、一家に一台!お得な命律端末付き!!」
そう言って、ドンと胸を叩く聖女レアナ様――じゃなくて、レアナだったが――
リュカ「グイグイくるな⁉ってかそれスマホの押し売りじゃねーか!」
レアナ「だけど……命律端末があれば、便利なのは本当よ?」
リュカは一瞬考える。
リュカ「スマホ押し売りの件はおいといて、今日はもう遅いから、ひとまず寝る場所をどうにかしよう。俺は金がないから、野宿になってしまうが、レアナは宿は大丈夫か?」
レアナ「聖女の稼ぎを舐めないでよね!軽く半年くらいは、養ってあげられるんだから!」
そうして、レアナは取り出した財布を自慢げに見せる。
リュカ「十三歳にして、同年代女性のヒモになる?いや、俺の人生はホントにどうなるんだよ!勘弁してくれ」
思わず頭を抱えたくなるリュカだったが、二人旅に少し胸が躍っていた。
レアナ「その間に、仕事を探しましょ!ヒモじゃなくて貸金!利子は単利で一割、良心的でしょ?」
リュカ「結構ちゃっかりしてるなぁ――それ月利?それとも年利?俺、もう借りてることになってるのかよ⁉」
レアナ「うん!ちゃんと命律端末経由で!契約も口頭成立してるわよ!証人は『マギシステム』……ああ『マギ』の正式名称ね!」
リュカ「そんな魔王みたいな契約あるか!いや……あるんだよな『マギ』よ……お前、認めちゃったか」
ここでリュカは気づいていないが、レアナの口頭成立というのは、ただのブラフである。
レアナ「はー、よかったわよ、私の他に転生者がいて!これで堅苦しい聖女の座も放り出せた!」
リュカ「随分と気楽そうだな?」
レアナ「私が前世の記憶を取り戻したのが、命律端末授与式。あの時の私の衝撃を想像してよね⁉命律端末の起動と同時に『これ、スマホじゃん!』って叫んじゃったわよ!」
リュカ「なんかいいなぁ。俺もレアナの年齢まで前世の記憶がなければ、スマホ手に入ったんだろうな。姉の青白く光るミルクをどんぶりで飲む姿にも、違和感はなかったんだろうな……」
レアナの顔が少し青くなる。
レアナ「青白く光るミルクって、なんか見た目からしてヤバそうね」
リュカ「なあ、あれマギシステムやスマホと関係してるか?」
レアナ「関係あるわけがないじゃない!」
今までリュカが自分を騙していた仮説『マギシステムの祝福』が、崩れ去った瞬間だった。
リュカ「なぜか鉛の特製の器を使ってたんだぜ⁉ああ、完全に俺も被ばくしてる案件じゃねーか!」
レアナ「だけど、お姉様がそんなものを飲んでる理由がわからないわね……マギシステムの指示?」
リュカ「わからない。雑な放射線治療の指示だったとか?」
レアナ「むしろ寿命縮むわよね、それ。まあ気にしすぎよ!放射線ってそもそもの話として、色はついてないでしょ!それに、ミルクは常温保存していないでしょ?」
リュカ「いや、この世界に冷蔵庫はないだろ?普通に常温だよ」
レアナ「……それアウトよ、乳製品ナメないで!」
歩きながら、比較的安価な宿にたどり着いた。
二階建てで、一階が食堂というスタンダードでありながら、なかなか美味しそうな香りがする。
レアナ「はぁ、お寿司食べたいわ……」
リュカ「言葉の飯テロ止めろぉぉぉ!」
米も鮮魚もワサビも醤油も何もない世界で『お寿司』……この言葉の破壊力に死にそうになるリュカだった。




