第01節 ラーメン伯爵の実力 ~冬の豚骨ラーメンでホクホク~
レアナは、孤児院のみならず、スラムの人々にも、まずは卵入り三分粥を炊き出しとして次々と振る舞った。
リュカは、スラムと化した住居を修繕していった。
リュカもまた、淡く青白い光のトラウマを、諦めとともに、少しずつ自己洗脳気味に受け入れていた。
リュカとレアナは、夜間はラーメン伯爵邸で過ごしている。
レアナ「ところでさ、今の住民支援って、ナットウ男爵のと約束の関係は大丈夫なの?」
リュカ「大丈夫だろ?金貨をラーメン伯爵に渡してるわけじゃない、だからナットウ男爵との約束は破っていない!」
レアナ「ふふっ、本当に詭弁ね……」
リュカ「ところで、明日の夕飯はラーメン屋に行かないか?」
レアナ「いいわね!ヒヤムギ騎士団長に良い店を聞こうかしらね」
リュカ「しかし、ラーメン伯爵はよっぽど、カレーラーメンがお気に召したようだな……」
レアナ「そうね……美味しいとはいえ、さすがに一週間も連続だと飽きるわよ」
そこにチカのホログラムが現れる。
チカ「兄くん。ラーメン伯爵は、あれでカレーラーメンが最高のおもてなしだと思っているのだよ」
リュカ「おもてなしの方向性が違う!」
レアナ「ワサビ子爵領での、豚汁を出したがった板前と、同じ心境なのかしら?」
リュカ「っていうか、普通のカレーライスも食べたいな」
レアナ「そうは言ってもね……冬の間の移動はキツいわよ?冷たい水で身体を洗う?それとも、お湯を沸かして洗う?」
チカ「兄くん、スパイスなどは揃っているのだから、厨房に依頼すれば済む話ではないのか?」
しかし、レアナは残念そうに言う。
レアナ「イネを三分粥にして配ってるから無理ね。卵かけご飯だって、たまの贅沢なのよ」
チカ「おや?またもや、何かノイズが入るのだが?」
リュカ「だから、ノイズ呼ばわりは止めて差し上げろください!」
チカ「まあ、兄くんだけがカレーライス食べられればいい」
リュカ「共同資産で、そんな鬼のような提案をするなぁ!」
レアナ「まあ、春になったらカレー侯爵の領地に行きましょう……」
翌朝『たまの贅沢』である、卵かけご飯を食べている時に、レアナはヒヤムギ騎士団長に尋ねた。
レアナ「ねえ、ヒヤムギ騎士団長?美味しいラーメン屋を紹介してくれない?」
ヒヤムギ騎士団長「と言われましてもな……現状、ラーメン伯爵邸が一番と自負しておりますが」
リュカ「いや、さすがに毎日カレーラーメンではな。たまには豚骨ラーメンを食べたいんだ」
ヒヤムギ騎士団長「かしこまりました、今宵は豚骨ラーメンをご用意いたします」
レアナ「ラーメン伯爵はいいのかしら?」
ヒヤムギ騎士団長「なに、カレーラーメンなら、ラーメン伯爵には一昨日の残り、これを出すだけですから!」
まさか、毎日ラーメンを作っているわけではなかったという事実に驚愕する。
リュカ「なあ、それ大丈夫か?腹を壊さないか?」
ヒヤムギ騎士団長「なに、ご安心を!お二人にはきちんと、毎日ラーメンを作っております!」
レアナ「なんか不憫ね、ラーメン伯爵……」
ヒヤムギ騎士団長「ラーメン伯爵は、ラーメンであれば昨年の物でも腹を壊しません!ハッハッハ!」
リュカ「なあ、ヒヤムギの冷静さはどこに行ったんだ……?」
レアナ「カレーラーメンを食べた日から、ヒヤムギの冷静が行方不明ね……」
そうして、夜には待望の豚骨ラーメンが出てきた。
レアナ「……何かしら?豚骨ラーメンってこうだったかしら?」
リュカ「うーん、なんて言うか、彩りが偏っているような……?」
レアナ「でも、味は絶品なのよね……」
リュカ「なんか、喉元まで言葉が出てきそうで、出てこない……」
チカ「私には視覚がないから、兄くんが何を言っているのか正確に把握できない――無念!」
ここで不足していたのは……紅ショウガであった。
レアナ「ねえヒヤムギ騎士団長。ところで、ラーメンの麺を作る小麦は大丈夫なの?」
ヒヤムギ騎士団長「小麦の国内調達は、聖人様聖女様のご厚情を賜り、予定より大幅に前倒しができましたから!」
リュカ「本当に外貨に困ってただけなんだな、ラーメン伯爵。ちゃんと金があれば有能そうだ」
レアナ「この調子なら、間もなく炊き出しも三分粥から五分粥に移行できそうね」
チカ「なんだノイズ、イネをケチっていただけかと思っていたぞ」
リュカ「まあ、イネと卵を買えばいい話か……」
ナットウ男爵の影「はっ、ただちにイネと卵の調達を手配いたします!」
レアナ「うわっ、また出た!」
ナットウ男爵の影「なお、リュカ様レアナ様の施しについては、ナットウ男爵様にご報告いたしましたが、問題無しとのことでした!」
リュカ「……正式に許しが出たのはいいけど、なんだろうな、この微妙な感覚」
レアナ「……そうね、なんか行動を監視されているみたい」
翌日には、二人は無事カレーライスを食べることができた。
そして、五分粥の提供も、イネと卵の残りを計算する必要もなく、実施できたのだった。




