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第29節 オデン子爵の現実 ~おでんは最強~

 秋が深まる頃に、オデン子爵がラーメン伯爵の屋敷にやってきた。


 オデン子爵は灰色の少し年季が入った和装スーツに、襟元をきっちり締めた真面目な姿で、髭もきれいに剃られている。

 白髪交じりの黒髪を、後ろで一つに束ねている。

 灰色の瞳には、理知的で冷静な分析力を思わせる光が感じられる。

 小太りだが引き締まった体型で、見る者には官僚然とした印象を与える。

 しかし、手はささくれ立ち、書類よりも鍋を掴むほうが似合いそうでもある。

『裏方の象徴こそオデン!』と叫んでいるような風貌だ。


ラーメン伯爵「今までご苦労だった、オデン子爵」

オデン子爵「まったくですよ……私、言いましたよね⁉カレー侯爵かナットウ男爵に、この窮状をお伝えするべきだと!」

ラーメン伯爵「いやはや、今ではオデン子爵が正しかったと理解している……」


 オデン子爵は額に青筋を立てながらも、冷静に対応する。


オデン子爵「もう、こんなことは繰り返さないでくださいよ?小麦調達にどれほど骨を砕いたか」

ラーメン伯爵「まあ落ち着け、もうラーメンの麺は二度と輸出しないさ。小麦も国内調達に切り替えた訳だしな」

オデン子爵「まったくですよ?そもそもラーメンの麺情報なんて、伯爵家の最高機密にするべきだとも申し上げましたよね?」

ラーメン伯爵「いやはやまったくその通りだ、もう深く反省しているから、そう虐めるな!」


 しかしオデン子爵の追求は止まらない。


オデン子爵「そもそもですな、広大な領地を持つグラタンディア王国が、輸出入をする必要など、最初からなかったのですよ!海からの距離が近く、味がいいと言っても、関税で高くついていたのです!」

ラーメン伯爵「私の舌では、あの小麦がラーメンに合っていたのだ……」

オデン子爵「それで、領地が貧困になってたら世話がないです!」

ラーメン伯爵「わかっている。あの国とはもう縁を切ったから……もう勘弁してくれ……」

オデン子爵「まったく!もう二度と、繰り返さないでくださいよ」


 なんとかオデン子爵をなだめることに成功し、安堵しているラーメン伯爵だった。


オデン子爵「さて、苦情はこれくらいにして、本日のご用件は?」

ラーメン伯爵「いや、オデン子爵ならわかっているだろう?『聖人認定同意書』のサインだよ」


 オデン子爵はキョトンとした顔で答える。


オデン子爵「なんと?私には、そんな通達は届いていませんぞ」

ラーメン伯爵「実物を見ればいいだろう?あとは、オデン子爵のサインだけだ」

リュカ「しかし、我々はオデン子爵の救いになることを、していませんよ?」

レアナ「まあ、今すぐサインをしろとか言わないわ。困ってることがあるなら、可能な限り力になるわよ」


 『聖人認定同意書』を見たオデン子爵は、難しい顔をする――


オデン子爵「聖人様に功績があれば……という前提がありますな?」

リュカ「そうなんだよ。で、オデン子爵が困ってることは?」

オデン子爵「おでんは、冬しか売れない!ですから、我が領の税収は常にカツカツなのだよ!おかげで我が領も、領民も、懐が寒くてたまらない!」


 オデン子爵は、苦渋まみれの顔をしている。

 そんな状況で、よくラーメン伯爵の救援とかできたな⁉とリュカは思う。


レアナ「ねえ、『冷やしおでん』で行けない?」

リュカ「なんだ?『冷やしおでん』って?」

レアナ「文字通りよ、日本でもマイナーだったけど、普通にあるわよ?」

リュカ「よし、チカ!『冷やしおでん』について、分かっていることを教えてくれ!」


 チカはポケットから飛び出さず、なんかすごいホログラムを出してきた!


リュカ「兄くんの求める姿、それをずっとイメージトレーニングしてきた。やっと形にできたよ、兄くん!」


 そのチカのホログラムは、なぜか幼女だった!


レアナ「へー、リュカってそういう趣味だったのね?じゃあ、私も歳を取れば捨てられるのね……」

リュカ「落ち着け、これは前世の俺の欲望!今の俺の欲望じゃない!」

チカ「なんと……嗜好まで、転生で変わってしまったとは!チカ一生の不覚!」


 ホログラムの幼女チカは、悔しそうに地団駄を踏む。


リュカ「いや、まずは『冷やしおでん』について教えてくれないか?チカ」

チカ「兄くんがそう言うなら……確かに『冷やしおでん』なる食事は存在したな」

レアナ「じゃあ、これでリュカの功績は十分ね!」

チカ「いやレアナくんよ?今は秋、これから熱々のおでんが好まれる季節ではないか」

レアナ「それもそうね……リュカ、どうする?」

リュカ「結果が出ていないのに、スタンプラリーを終わらせる訳にもいかないだろ?春まで待つさ」


 リュカはのんきに言うが、オデン子爵は想像以上に乗り気だった。


オデン子爵「なあ、その『冷やしおでん』とやらは、今では作れないのか?」

チカ「作れないことはないが、万全ではないだろうな。兄くん、どうする?」

リュカ「『冷やしおでん』が、こういう雰囲気かと示すのは、プレゼン的に大切だろ?」

レアナ「じゃあチカ、秋に作れる『冷やしおでん』のレシピを……」

チカ「また、ノイズが入っているぞ兄くん?」

リュカ「だからチカ様、レアナの声をノイズ扱いするの、やめてさしあげろください!」


 もはや、ノイズ呼ばわり芸と化していた。


チカ「兄くんの頼みだからな、今ラーメン伯爵の料理人に『秋でも作れる冷やしおでん』のレシピを送ったぞ、褒めてくれ兄くん」

リュカ「よーしよし、よくやったぞチカ」

レアナ「秋だけのレシピじゃ駄目でしょう?」

チカ「おや?全季節のレシピを正式に渡す相手は、オデン子爵だと思っていたのだが?なんかノイズが入るぞ?」

リュカ「(チカのホログラムは、一見可愛いんだけど……なんかなぁ、ヤンデレっぽいぞ)」


 そうして作られた『秋でも作れる冷やしおでん』には、塩分控えめの冷えた出汁に、定番のおでん具材、熱々のおでんには合わなさそうなトマト、冬瓜、オクラ、枝豆、茄子も含まれていた。

 この『秋でも作れる冷やしおでん』の味に感激したオデン子爵は、即座に『聖人認定同意書』にサインをしたのだった。


リュカ「これで俺、スタンプラリー終わったけど。俺はそもそも、収入のために始めたんじゃなかったっけ?」

レアナ「まあまあリュカ、お金はいくらあっても困らないわよ!っていうか、もうスタンプラリー呼びはやめなさいよ」

リュカ「だけど、俺が正式に聖人になってしまったら……政治闘争に巻き込まれないか?」

レアナ「リュカも、立派なフラグクラフターじゃない……」


 そうして、聖人認定同意書はナットウ男爵の影の手により、神殿に送られた。


これにて一章完結です。


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