第28節 秋に燃ゆるカレーラーメン革命 ~豚骨の向こう側へ~
ナットウ男爵の連絡を受けて、カレー侯爵が直々にラーメン伯爵領の地を踏んだ。
リュカ&レアナ「「(いやいや、明らかにこの派閥のトップは、ナットウ男爵でしょ⁉普通に裏の公爵だし、王家に口出しできるみたいだし……)」」
ラーメン伯爵「このたびは、ご足労ありがとうございます」
カレー侯爵「いやなに、構わない。聖人様と聖女様の計らいで、好きなカレーを食べられるようになったから、むしろ気楽な身分だよ」
ラーメン伯爵は、深くカレー侯爵に頭を下げる。
ちなみに、今日のカレー侯爵は、頭がテカってない!
レアナ「なんか、カレー侯爵の頭髪、増えてない?」
リュカ「それだけ、好きなカレーを食べられなかったのが、ストレスだったんだろう?あの、無理やりだった頭頂部の毛が、自然になっている」
ラーメン伯爵「ところで、この度はどのようなご用件で?」
カレー侯爵「いや、なにナットウ男爵から『何らか支援しろ』と指示が降ってきたからな、その調査という名目だよ」
リュカ「なあ、俺……思ったんだけど、カレーラーメンって悪くない案じゃないか?ほら、カップ麺でもあっただろう?」
レアナ「カレーラーメンは、普通にあるわよね……ああ、また私は太るのかしら」
リュカ「レアナは十分痩せていて美しい!心配するな!」
レアナ「――っ!いきなり何を言うのよ!」
レアナは真っ赤になって、リュカをポカポカと叩く。
その姿に、ナットウ男爵の影は、やはりほっこり和んでいるのだった。
リュカ「まあ、カレーラーメンを提案してみるか」
ラーメン伯爵「なんだと!カレーラーメンだと⁉」
リュカ「いえ、あくまで提案ですし、すぐに形になるかは分かりませんが……」
カレー侯爵「カレーがラーメンにまで使われるようになれば!ああ、夢が広がるな!既に、カレーうどんは爆発的な売上げだ」
カレー侯爵は、なぜか今日は汗すらかいていない。秋という季節ゆえか?
ラーメン伯爵「よし、早速ラーメン店の者を呼べ!ただし、治安悪化に積極的な加担をしていた店は、除外だ!」
ヒヤムギ騎士団長「ご心配なく!そのような店は、既に営業許可を剥奪しております!」
カレー侯爵「おお、面白いカレーができそうだ!」
ラーメン伯爵「備蓄小麦を使え!予定より早く小麦調達できそうだからな!」
レアナ「あんたの一言って、毎回爆弾級の影響を与えるわよね?まるで異世界チート主人公……」
リュカ「やめろレアナ、どこに世界中の全員が持っているチートアイテム命律端末を、手に入れられない主人公なんているんだ」
そして一時間も経つと、カレーラーメンの試作品が次々と並べられる。
カレー侯爵「ふむ……これは従来型のカレーよりは、少しルゥが濃いくらいが……合いそうだな」
ラーメン伯爵「私は豚骨ラーメン派でしたが……なんですか、この暴力的なラーメンは!どれも甲乙つけがたい」
ヒヤムギ騎士団長「私も、いつか口にする日が来るだろうか……」
ラーメン伯爵「私では食べきれない、残りはヒヤムギが食べろ!」
ヒヤムギ騎士団長「はっ!ありがたき幸せ!」
ヒヤムギ騎士団長は、カレーラーメンを食べて……もはや涙目だ。
ヒヤムギ騎士団長「なんと美味なのだ。これが、カレー侯爵領の実力」
カレー侯爵「そうではない。今まで、たゆまぬ鍛錬を積んだラーメン伯爵領と、カレーが組み合わさった必然だ」
ラーメン伯爵「ありがたきお言葉。しかし輸入品で味にこだわった結果、領民を苦しめるのでは、本末転倒でした」
ヒヤムギ騎士団長を片目で見やり、カレー侯爵は告げる。
カレー侯爵「しかし、悪かったなラーメン伯爵。今まで、民から搾取しているとばかり思っていたが、これほどの苦境に陥っていたとは」
ラーメン伯爵「いえ、私も……もっと素直に、ナットウ男爵かカレー侯爵にお伝えするべきでした。小麦の国内調達も同様です」
カレー侯爵「やむを得まい?私は領地問題が厳しかったし、ナットウ男爵は、一時期とはいえ病気で納豆を食せなかったと聞く。それに、ラーメンの素材にこだわることは、決して悪いことだけではない。外交をも一部支えていたんだ」
ラーメン伯爵「……そうでした。領地経営は本当に難しいですね」
カレー侯爵は自虐的に言う。
カレー侯爵「私は、自国内で完結しているが、ラーメン伯爵は外国との貿易に頼っていた。唐突な外貨不足に対応するのは、あまりに酷というものであろう?」
ラーメン伯爵「それが、オデン子爵からのお力添えで、来年頭にはラーメン生産は軌道に乗る見込みでした」
カレー侯爵「なんと!まったく、相変わらず、ラーメン伯爵には敵わんな。だから本音では政敵にしたくなかったのだ、優秀なワサビ子爵と組んででもな」
ラーメン伯爵「お世辞でも、そこまで買っていただけていたなら、恐縮です」
カレー侯爵「なに、ラーメン伯爵が本気で動いたら、普通に派閥トップの座は私ではなかったでしょうな」
ラーメン伯爵「それは、さすがに買いかぶりです。今の、ラーメン伯爵領がそれを示しています……こればかりは、言い訳ができません」
この会話内容はナットウ男爵の影により記録され、ナットウ男爵に筒抜けなのであった……。
リュカ「ところで、カレーラーメンは、どれが良いかとかあったんですか?」
ラーメン伯爵「私はカレーに疎くてな。なかなかカレー侯爵領に行けず、申し訳ない」
カレー侯爵「私の味覚からすると、出されたうち三つ目のラーメンが一番いい感じだったと思うぞ」
ラーメン伯爵「おい、三つ目のラーメンを基準に、さらに案を煮詰めるのだ!」
料理人たち「「「はっ!!!」」」
レアナ「よかったじゃない、これでカレーラーメンの目処が立ったわね」
そこにチカがリュカのポケットから飛び出して、飛び回って言う。
チカ「兄くん?私に任せてくれれば、最初から最適なレシピをお渡しできたのに」
レアナ「あー、それもそうねー(棒)」
リュカ「おい、レアナはわかってて、チカを使わなかったのかよ!」
リュカはぷんぷんだった。怒髪天だった。
もはや、ここでは言えない方法でレアナを襲いかねない勢いだった。
レアナ「聖人様が、まさか命律端末を使わない、そんな可能性を考えるだけで、それこそ不敬よ」
リュカ「ぐっ……」
チカ「まあ、任せておけ兄くん。カレー侯爵の舌の情報を踏まえて、更に最適なレシピは料理人たちに配布済みだ!」
レアナ「それ、データ改竄じゃない!」
チカ「いや、違うぞ?AIたるもの、常に最善の回答をするのがその在り方、それに従っただけさ!」
ラーメン伯爵、カレー侯爵、ヒヤムギ騎士団長は、飛び回っている命律端末に絶句しているため、会話が頭に入っていなかった。
ちなみに、レシピはチカの手により『カレーラーメンの作り方』として全世界に広がった。
凶悪だったのは……ラーメンの麺もまた、小麦の国内調達に合わせて改良されていったことだ。
加えて、カレー侯爵は輸出をしないため、かつての小麦輸出国は、カレーラーメンが再現できなかったのである。
買収してラーメンの麺の製法を手に入れた、小麦輸出国は歯噛みするも、時すでに遅し。
ラーメン伯爵は「もはや金輪際、貿易するつもりはない!」「もう遅い!」と強気に出て、カレーラーメンを提供できなかった小麦輸出国は、その後小麦余りで困ったことになったそうな。
「おのれ……夏場の食中毒を抑えるためのラーメンの麺自国生産が、こんな形で裏目に出るとは……」




