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第24節 ラーメン伯爵領の孤児院 ~しょっぱい汁と甘い記憶と、重すぎる経済~

 リュカが孤児院の中に戻ると、少し孤児たちが活気づいていた。

 どうやら、三分粥が配られて、それを食べているようだ。涙を流している孤児もいる。


孤児A「聖人様、ありがとうございました!」

リュカ「いや、俺は何もしてないよ……お礼は聖女様に」

孤児B「聖女様には、もうみんな伝えたよ!そしたら聖女様が『聖人様にもお礼を言いなさい』って!」


 おいおいレアナよ、俺は食事面ではまったく役立ってなかったのを知ってるだろう、嫌がらせか!


レアナ「そうよ、皆が綺麗な服を着られるように、聖人様が自らの手で洗濯してくださったの」

リュカ「(誘導しておいて、よく言うわ)」

レアナ「(ふっ、何もしてないより、何かした方がいいのよ!こういう場所ではね)」


 口に出さずに以心伝心のリュカとレアナを見て、影たちは心の中で「もう、さっさと結婚しろ!」と総突っ込みであった。


孤児A「聖人様……このお粥、本当に美味しいですね。僕は昔に食べたラーメンと、今のラーメンの汁しか知らなくて」

孤児B「伯爵様、なんだか冷たくなっちゃった気がするなぁ」

シスター「こら、伯爵様を悪くいうんじゃありません!この孤児院だって、伯爵様の慈悲なのですよ!」


 このシスターの言葉に、何より驚いたのはレアナだった。


レアナ「(え?この孤児院の運営がラーメン伯爵?ちょっと待って混乱してきたわ)」

リュカ「(どういうことだ?なんか今のラーメン伯爵領の姿と、孤児院を運営する伯爵が、まるで重ならない……)」


孤児A「でもさぁ、昔はラーメン食べさせてくれたよね?」

孤児B「だけど、今はしょっぱいラーメンの汁だけ……なんか少し脂が浮いてるし」

シスター「この件については、院長室にて。どうぞお越しください」


 レアナとリュカは、三分粥を貪る孤児たちを後に、院長室に向かった。


シスター「実のところ、孤児たちの言うことは本当なのです」

院長「我々にはあまり学がないので、よくわからないのですが……伯爵様はいつも、こう仰っていました『皆に食べてもらいたいのに、小麦輸入のガイカがどうしても足りない……もう諦めるしかないのか……?』と。このガイカというのが何かは、全くわかりません」

レアナ「ガイカって、外貨のことよね」

リュカ「そりゃ外貨だろ、ここで凱歌とか意味不明だしな」

院長「そして、伯爵様は小声でこう仰いました『いや、まだ諦めるのはまだ早い……ガイカが不足しているのだから、もっと観光客を』とか。私たちの学が足りないため、全く理解ができません。そして今のラーメン伯爵領の姿は……すでにご覧になられたでしょう」

レアナ「これ、相当根深い問題じゃないの?」

リュカ「俺も経済は詳しくないが、少なくとも外貨が足りず、内需だけでは小麦の輸入できない、そんな所だろうな」

レアナ「で、それで観光客を引き寄せようとしたら、柄の悪い奴らばかりが集まって今の惨状?」

リュカ「なあ、これラーメン伯爵の悪政とは、必ずしも言い切れないんじゃないか?」

レアナ「私もそう思うわ」


 二人は頭を抱えたい思いを、なんとか押さえ込んでいる。


ナットウ男爵の影「聖人様聖女様のご意見承知しました、早速ナットウ様にお伝えしてまいります」

リュカ「ちょっと待っ……もう消えてる」

レアナ「ねえ、これどうやって解決すればいいと思う?」

リュカ「外貨が足りないってことは、外国との輸出入があるんだろうな?ラーメン伯爵領は」

レアナ「だから、それをどうやって解決すれば?」

リュカ「レアナ落ち着け、まず命律端末に質問するにも、こちらの考えがクリーンでないと、無意味な答えが出てくるだろ?」


 レアナはハッと気づいたような表情をして続ける。


レアナ「……そうだったわ。じゃあ、私は昔がよく使ってた手法……ダックトーキングとしてマギシステムを使いましょう」

チカ「お呼びかな、兄くん」

リュカ「ああ、ラーメン伯爵領は外国との輸出入があるんじゃないか?」

チカ「しばし待たれよ、兄くん――確かにラーメン伯爵領では、過去には多くの小麦の輸入があったぞ、兄くん」


 リュカは「ビンゴ!」と内心思った。


レアナ「でも、輸出はどうしてたのよ?」

チカ「しばし待たれよ、レアナ君――どうやら、ラーメンの麺を輸出していたようだ」

リュカ「ってことは、原材料の小麦粉を輸入し、ラーメンの麺を輸出していた。とすると、なぜその構造が壊れたんだ?」

チカ「しばし待たれよ、兄くん――どうやら、輸出先では自力で、ラーメンの麺を作れるようになったようだ」


 この言葉で、リュカとレアナは頭を抱えたくなったが、これもなんとか我慢する。


レアナ「うわ、それ完全にこっちが詰む奴じゃん!」

リュカ「こういうことよな?ラーメンの麺を輸出して稼いだ外貨で、小麦粉を買ってた。でも、相手国が自分で麺を作れるようになって、輸出ができなくなった。だから外貨が稼げなくなって、小麦も買えない。結果、ラーメンも作れない。だから苦肉の策で観光客誘致、しかし失敗……完全に詰んでる」


 そこにレアナのツッコミが入る。


レアナ「ねえリュカ、あなた本当に経済に詳しくないの?」

リュカ「ああ、詳しくないぞ――マクロ経済学とミクロ経済学の橋渡しすらできないからな!」

レアナ「え?何を言っているの?マクロ経済学?ミクロ経済学?何それおいしいの?」

リュカ「物理学で言えば、重力とその他三つの力を統合できないようなものだ」


 とぼけていたレアナが、素に戻ってしまう。


レアナ「ねえ……それって、もしかしてアインシュタインが挑んだ、大統一理論レベルの話じゃないの?」

リュカ「一応それもさ、超ひも理論とかがあるだろ?それに匹敵する経済理論を出せない俺は、経済に弱いということだ!」


 レアナはこの一言を聞いて、さっきの小麦とラーメンの麺の時より頭を抱えたくなった。


レアナ「(あ、リュカはできないって謙遜しながら真剣でぶった切る研究者タイプだわ)」

チカ「さすが兄くんだな……物理学の難問と、経済学の難問の喩えがうまいじゃないか」

リュカ「レアナ、お前も大概だな……大統一理論がすぐに出てくるとか」


 もはやナットウ男爵の影たちは、首を傾げるしかなかった……。


レアナ「ば、バカね!それくらい常識でしょっ!だって、物理の教科書に出てきたし!」

リュカ「どこの教科書の何ページ目だよ」

レアナ「知らないわよ!そもそも教科書じゃなくて、ネットで見ただけよっ!!」


 もはやレアナの言葉は支離滅裂だ。


チカ「当時のネット情報で、日本語記述の大統一理論が記されていた記事は極めて一部だった……そう記憶しているが」

レアナ「この馬鹿チカ!いえこの場合馬鹿なのはマギシステムかしら?」

リュカ「まあ、そこでプロンプトではなくマギシステムを疑うあたり、結構本物っぽいよな」

レアナ「あんたにだけは言われたくないわ!あんたこそ経済の知識本物じゃないの⁉しかもなんかそれだけじゃないっぽいし!」


 リュカとレアナは頭に血が上っていることを自覚し、二人とも深呼吸をした。影たちはこっそり、ほっこりと見ている。


リュカ「で、これは……どうすればいいんだろうな……?小麦が足りてないって話だろ?だけど輸出できる物がない」

レアナ「そうなのよね……国内の小麦生産量が分かれば、少しは何か見えるのかもしれないけど」


 とぼけるのを止めたレアナは、やはり頭脳明晰だった。


ナットウ男爵の影「聖女様、承知しました。若干オデン子爵の捜索リソースを割くことになりますが、一両日中には必ず報告いたします」

レアナ「うわっ、また出た!ってか別人よね?オデン子爵の捜索を遅らせていいの?」


 まるで主人に対する接し方に困惑する、リュカとレアナだった。


ナットウ男爵の影「ご安心を。ナットウ様からも、聖人様と聖女様のご意向を最優先にと指示を受けておりますし、なによりラーメン伯爵がただの悪政ではない可能性が浮上している現時点、オデン子爵捜索より優先順位が高いかと、愚考いたします」

リュカ「しかし、ラーメン優遇が観光客誘致のためとなると、こりゃ一概に責められないよなぁ」

レアナ「外貨獲得の手段としては、むしろ真っ当よね」


 そう言いつつ、その後も孤児院を巡りながら、あちこちで三分粥提供と洗濯を続けて報告を待つ、レアナとリュカであった。


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