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食事

ニコルが開いた本には1人の男性が立っていた。

「何この本?どんな能力があるわけ?」

特に仕事や特殊能力を連想するような物とかではなかった。

「ダミアン、家に来れる?」

また彼を家に招いた。

「俺はここの掃除係か。」

「掃除係はしばらくクビよ。その代わり私のカウンセラーをやってもらうわ。」

「要件は何なんだ?」

「この本よ。」

「食べろって言うのか?」

「違うわ。あんたじゃ食べれないでしょ。発がん性とか添加物とか気にしてたら食べると言う決断は出来ないわ。この本の能力は何だと思う?」

ニコルはダミアンに本の絵を見せた。

「表紙には何て書いてある?」

「VとRが書かれてるの。あとは下の方にPとEにアクソンテギュよ。」

「VR…架空世界を作り上げる能力か。いもしない幽霊とかユニコーンやなんかを出す能力か?」

「そんな感じはしないわ。そんな明るい感じがしないわ。まるで答えが見えない人生を路頭に迷ってる男性に見えるの。」

「この本を食べるのは躊躇してるんだな。君は本当によく分からないな。」

「何でもかんでも分かってもらうつもりはないわ。」

「君が言う通りだとしたら食べても特に何も変わらないじゃないか?今の君は俺に相談するくらいこの本のことを考えているだろ。だったら何か躊躇することなく出せたらどうなんだ?」

「他なんかないの?」

「カヴァ飲むか?」

「ありがとう。」

彼女はワイングラスを手に取った。

「他に言うなら、本を食べてることを特定の人をのぞいては悟られたくない君自身みたいだな。」

「誰でもそうよ。本を食べる人間なんてこの地球上探しても私くらいよ。長い歴史の中で本を食べた人なんているかしら?」

「それはいない。それが食文化になったらたくさんの木がなくなるな。」

「バナナだってそうよ。バナナの収穫のためにたくさんの木がなぎ倒されてるのよ。人間は何かの罪を犯しながら生きてるの。」

「環境愛護家か。」

「世界で起きてる事実よ。罪の大きさの大小が人によって違うだけで生きることは罪と向き合うようなものね。」

「生きることは誰かを助けるようなものだろ。」

本を別の場所に置いた。

「このカヴァ甘いわね。もう少し辛口でも良いのに。」

「俺はちょうど良い味だと思うな。香りはリンゴや桃みたいな感じだな。」

「サーモンと合わせるならより辛口の方が良いわ。」

「注文が多いな。そう言えば前に彼氏とかいたのか?」

「2年前くらいね。その時は工場で働いてたわ。」

「良いね。どれくらい付き合ってたんだ?」

「3年よ。でももう別れたことを後悔なんてしてないの。」

「その方が良いな。」

「ダミアンは?」

「俺の元パートナーは5年前に亡くなった。」

「聞いて悪かった。」

「誰のせいでもない。誰かのせいでも俺のせいでもない。まだどこかにいるような感じがするって時々思う。」

「さっき私を愛してるって言ったのは何故?」

「愛や気持ちに常に理由があるわけじゃない。」

「そうね。知って何か変わるわけじゃないし。」

「人を愛したのは久しぶりだな。」

「申し訳なさとか?」

「そう言うのじゃない。付き合ってた時は全然感じなかったけど死別してから次の恋愛にのる気になれなかった。まさかランニング中の女性を好きになるとはな。」

「それが人生よ。先のことが分かるものもあれば分からないものもある。」

2人はそっとハグをした。

「この家に来てどれくらいなんだ?1年経つわ。」

「知り合いなのか?」

「元々縁もゆかりも無い他人同士よ。住居を転々としててついに追い出されて路上生活。路上生活でお金集めてると見ず知らずのヴィルジニーとジョルジュが私のことを迎えてくれたのよ。」

「中々ラッキーだな。」

「たまにヴィルジニーはこだわり強くて人使い荒いけど悪い人じゃないわ。」

「一生この家に寄生するつもりなのか?」

「そんなわけないわ。一時的にビジネス成功した時はこの家を出て一人暮ししたのよ。それも訴状が来てからは引っ越したわ。3カ月で終わったわね。また成功すればこんな所出て行くわ。」

「今度出て行く時は新たな同居人が見つかった時だな。」

「何それ?どう言う意味よ。」

ダミアンはニコルの横顔を見て微笑んだ。

「静かに。」

電話が鳴った。

「ニコル、元気?」

「ヴィルジニー、良い仕事をありがとうね。おかげで疲れたわ。」

「良いヴァカンスが過ごせたようね。」

「それはこっちのセリフよ。何のよう?」

「あんたにお土産をプレゼントしたいの。家の掃除頑張ってくれてるようだから。」

「それなら白ワインでしょ。それとラクレットチーズとかも食べたい。」

「分かったわ。それとパーティーとかはしてないでしょうね?無断で人を家にあげたりするのは禁止よ。」

「パーティー?そんなことしてるわけないわ。パーティーするなら家の外でするから。」

「家の外でも駄目!散らかったりしたら最悪よ。」

「冗談よ。チーズ楽しみにしてるわ。」

電話越しでも楽しそうな感じが伝わった。ニコルは電話を切った。

「パーティー禁止だったんだな。」

「そうよ。だから何?バレなきゃ良いの。それにちゃんと綺麗にしてるでしょ。」

「仮に俺が大泥棒なら洒落にならないだろうな。」

「それはないわ。あんたにここの物を奪えるほどの知恵はないわ。大事なものは私にも分からない所にまとめてあるのよ。」

「一緒に住んでてても徹底してるな。」

「私が金持ちなら同じようなことしてるわ。でも唯一金のない私が隠してるものがこの本よ。」

「またその本の話か。俺は話さんよ。」

「この本は独り占めしたいの。それにここの家の人はこの本のことを警戒してるの。私が持ってるのがバレたらまずい。」

「俺もまだこの本で能力がついたなんて信じがたいけど半分信じるよ。」

ダミアンに話しても送り先が分かることはなかった。

「また手伝って欲しい時はあんたを呼ぶわ。」

「俺は君の召使いか。」

「そんなつもりはないわ。」

彼は家から出てしまった。そしてまた一人になった。広い部屋はとても静かで夏なのに少し冷え込むような感じだった。彼女は何もない白紙のページを見つめた。見つめても何かが起きるわけではない。

「ダミアン?誰かいるの?」

誰もいないのに家に誰かいるような感じだった。

「誰かいるの?」

声を出しても誰か現れるわけではなかった。

「おかしいわ。」

CCTVで確認しても何も分からなかった。

「しまった。1つ部屋掃除し忘れたじゃん。」

またダミアンに電話した。

「ダミアン、また家に来れる?」

「え?来たいところだが今友達と一緒にいるんだ。一緒に飲むか?」

「別に良いわ。家でしか出来ないことだから。」

「何かあったのか?本を食べたのか?」

「何言ってるの!そんなことするわけないでしょ。」

「急にどうしたんだよ。」

「もう良いから。電話きる。」

ニコルは電話をきった。


「誰からなんだ?」

「彼女からだ。」

ダミアンは男友達とカフェにいた。 

「彼女なんていつ出来たんだよ。」

「いつの間にかそう言う関係になった。」

「相手はどんな感じなんだ?」

「少しわがままな所があるけどスポーツが得意で本をこよなく愛する女性だ。」

「本を食べるって言ってたけど食べれる本でも作ってんのか?」

「あれは本を食べそうになるくらい本が好きって意味だ。」

カフェでは本を読む人が数人いた。

「本が食べられたらそれは価値があるものね。」

隣の席の50代の女性が言った。彼女も本を読む人間の一人だ。  

「本は形として残る。人間や生命体や食べ物とは正反対ね。今私が飲んでるコーヒーは生産しなければ飲むことは出来ない。永遠ではないものを戻ることがない時間で楽しんでる。」

「それなら本が食べれるならもっと読む人が増えそうだな。」

「もちろん環境に配慮した本じゃないと私は食べないわ。環境汚染や労働搾取と密接な本は手にしたくないわ。」

「燃やしてしまえば一緒だ。形など跡形もなくなる。食べ物と変わりない。」

「それなら燃やすことと食べることとの違いは?」

「5感の記憶として残ることだな。燃やすなら視覚としての記憶しか残らない。」

ダミアンが言った。

「燃やすのは本の記憶の終焉ね。食べるのは本の記憶の共有よ。ヴァカンスの体験を誰かに話すようなものよ。本が食べれるなら食べれた分だけステータスね。」

カフェでの会話は長く続いた。

「今度、ニコルのこと紹介してくれ。」

「お前ニコルのこと狙ってるのか?それはさせない。」

「それならランニングを一緒にするのも良いだろ。」

「良いな。」


ニコルは部屋で一人でいた。普段はヴィルジニー達のことを鬱陶しいと思うことはあるがこの日は不審なことが起きて落ち着かない状態だった。

「何なのよ。何がどうなってんのよ。」

部屋を見ても何もなかった。

「やっぱり何か見られてる気がする。」

彼女は昔から直感で生きている。良い予感も悪い予感も当たらないことが基本多い。

「何も手がかりなしか。」

また部屋の外に出た。すると何かが落ちていた。

「あれはもしかして!」 

落ちてる物を見に近づく。

「やっぱり。」

落ちてたのは本だった。ページを開くとどのページも白紙だった。数ページ開くと料理をする人が描かれていた。

「だけどどうしてここにあるの?ヴィルジニーが捨てるつもりだったのかしら?」

すでに持ってる本と一緒に口に含む。パリパリと音が静かな家に響き渡る。目の前には普段水やりをしてる植物がたくさん見えた。

「こっちの本はピスタチオクリームといちごの味ね。もう一つは何だか説明が出来ない味ね。」

リンゴと一緒に食べたので全部は食べられなかった。食べても体に変化が起きるわけではなかった。次の日も特に変化が起きなかった。電話で言われた通りに水やりをして、近くの公園をランニングする日々だった。他にあるとするなら知的財産権を巡った裁判の訴訟手続きだった。

「どんだけ訴状が来てるのよ。来週法廷に立たないといけないし。面倒臭いわ。ん?待って、リクエストすれば新しい本が届くのかな?」

本の食べ残しに自分の欲しい本を書いた。

「私が今食べたい本はこの本よ。」

ニコルは白紙のページに裁判をボイコットしても無効に出来る能力と書いた。

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